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銀河戦國史 (漂泊の星団と王国の巡察使)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第6話 宇宙を飛び交う文通 その4

――ああジョン様、あなたのお役目の大切さや、お受け取りになっている権限の力強さ、それを与えた国王陛下への、この国の人々の尊敬や信頼は、私も十分にわきまえております。

 それが「ケプラーチヨ」の言葉や、私との対面の事実くらいでは、わずかにも傷つかないということも、当然私は熟知しております。

 私が心配しているのは、そういった世間の評判や体面ではなく、あなたのお気持ちやお心の方なのです。

 あなたのメッセージを拝見すればするほど、あなたと私の立場の違いを、私は実感させられてしまいます。

 国王陛下より、とてつもない重責を仰せつかっているあなたと、市井の一員でしかない私では、余りにもつり合いがとれません。やはり私などと会うことは、あなたのお心にとっては、負担や障害にしかならないのではと、思えてなりません。

 私があなたのお気持ちの中で、それなりの存在になっているのなら話は別ですが、かつて同じ学院にいた同窓であるという関わりしかなく、その後数回お会いしただけでしかない私などが、そんな重要な存在であるはずがありません。

 もっと、あなたのお気持ちの中心を占めておられる、どなたか別の人と会われることに、あなたの貴重なお時間を費やされる方が、あなたの心は安らかになるのではありませんか?

 アミナさんがそういう立場の人なのかと、邪推したこともありましたが、彼女がそうでないとしても、他に誰か、あなたにふさわしい方が、きっとおられるのだろうと、私には思えるのです。

 ですから、私などがお会いすることは、やはり、あなたの足を引っ張ってしまうことになるに違いありません。

 きっとおられるに違いない、あなたの意中の誰かと身を固められ、本当の心の安らぎをあなたが手になされるのを、私は影ながら、見守らせていただきたいと思います。――


――おおケイラ、私などの心の平穏を、そんなにまでも気にかけてくださり、感謝の念に堪えません。

 ですが、私のことは本当に、何も心配いただくことはないのです。

 国王より賜った巡察使としての権限と、それを駆使して成して来た私のこれまでの実績を胸にいだいていれば、私は自信をもって、どんな負担や障害にも立ち向かって行けます。

 あなたのご心配の発端となった「ケプラーチヨ」の件でも、住民からの陳情に応える態勢は、着々と構築されております。

 前回の視察の成果から、住民の救済に必要な物資の割り出しは、既に済んでおり、その全てにおいて入手ルート確保の目途が付きました。王家のデーターバンクから提供すべき情報もリストアップできており、早晩実施され「ケプラーチヨ」の生産性向上に、寄与するでしょう。

 一方で、統括官たちの不正蓄財についても、前回の報告からこれまでの間に、動かぬ証拠をたくさん見つけ出すことに成功しております。摘発と差し押さえが近く実行され、統括官たちには厳罰が下る手筈です。

 接収した財産からは、住民たちに還元できる分もあるでしょうし、国庫に納められる分も出てくるでしょう。不埒な統括官は一掃されて、圧政も改善されるでしょうから、住民たちのこれからは、明るいと断言して良いと思われます。

 更に、かつての戦役における、クチナ伯による武力占領についても、その不当性が証拠づけられているので、国王陛下に報告申し上げることで、所領の返還命令といった適切な是正処置が、必ずや図られるものと期待しております。

 陛下に対して、直接の私見言上を認められている巡察使にしか、これは、できない仕事でもあるので、早期の着実な実施を肝に銘じているところです。

 これらの活動を通じて「ケプラーチヨ」の民衆からも、それ以外の人々にも、私は高い評価を与えてもらえるものと思います。アミナ嬢に関するフェイクニュースなども、こういった実績によってひねり潰し、私は私への疑惑を全て、一つ残らず、この手で払拭してみせます。

 確かに、巡察使としての使命には、厳しく難しい部分も沢山あります。どの惑星や星系外縁天体が、どの領主に占有や運用を実施する権利の正当性があるかとか、どんな蓄財は適切で、どんな蓄財が不適切かなどは、常に悩みの種になっています。

 王権の代行者ともいえる私の立場では、決して間違った判断は許されません。私の犯した過ちは、国王陛下の御威光に、傷をつけるものにもなりかねませんから。

 こういったプレッシャーは、並大抵のものではなく、各種の裁定を下す際には、最大長で百光年を有する星団を隅々に至るまで駆け巡り、数百の有人星系の全てに目を行き届かせ、星団内のあらゆる事情を斟酌し、全ての人に誠意を感じてもらえるような、身を切るくらいの覚悟を持って、臨まなければなりません。

 領域の奪い合いや権力闘争に、板挟みにされてしまうことも多々あります。利害の対立する複数の勢力から、一斉に手を引っ張られる苦しみも、何度も経験してきました。そんな中で公平性を維持し、王家への信頼を損なわぬ職権の運用を続けるのは、至難の業であると感じることもしばしばです。

 あちこちから陳情や、嘆願や、抗議や、非難や、恫喝の声を、面と向かってでも、超高速通信を通じてでも、浴びせられ続ける毎日でもあり、心が休まる暇はありません。

 ですが、それらに打ち勝っていく力も、ひとえに、任務に置ける実績を積み重ねることでしか、得られません。巡察使としての大任を着実に遂行していくことで、私はそれをなし遂げる意気込みです。

 心の平穏を、誰かに与えてもらおうなどという甘ったれた考えは、私には毛頭ありません。意中の誰かなどに依存するのではなく、自身の職務実績を誇り高いものにすることで、私は私の心を安らかにできる道を、自ら切り開いていってみせます。

 それはそれとして、惑星遊覧は私たちには、格別に楽しい時間を得られるものになるはずです。なぜなら、前回のスペースヨットでのそれも、あれほどにも楽しいものになったのですから。

 ですから、私の心の平穏がどうこうという件は脇において、単純に、楽しい時間を過ごすためだけに、あなたには予定通り、惑星遊覧にお出まし頂きたいと願うのです。

 どうかケイラ、改めてお考え直しください。――


――ああジョン様、あなたは、あなたのお役目をしっかり果たす事で、心の平穏を自ら勝ち取って行けるのですね。とても素晴らしいことだと思います。尊敬いたします。

 でも、あなたのプライベートの人間関係を、多くの人が気にかけているというのも、無視しえない現実として、私たちの前に存在しているでしょう。

 あなたが意中の人をはっきりされることが、多くの人々にとって、そしてあなたにとって、重要なことであるのは、やはり、避けられることではありません。あなたのお気持ちを、皆様にはっきりお示しになることが、プライベートの人間関係が任務に影響を及ぼさないことへの、最も力強い証明になるのです。

 そんな時に、同窓であるだけのただの知人でしかない私が身辺を穢していたのでは、多くの人に、誤解や混乱を与えかねません。あなたが、あなたの大切なお時間を費やしてお会いになるのは、ただの知人などではなく、意中の方であるべきです。

 私が、あなたのお気持ちの中で、同窓であるだけのただの知人でしかないのであれば、やはり私は、あなたに会うことを遠慮せざるを得ません。

 どうかジョン様、お気持ちを表に出すことを、意中の方をはっきりと述べられることを、恐れないで頂きたいと思います。――


――おおケイラ、あなたには、とても多くのことが、こんなにもしっかりと見えておられるのですね。

 あなたのおっしゃる通り、確かに、王国内にある沢山の勢力が、私の意向や、プライベートにおける人間関係などを、とても、それはそれは尋常ではないくらい熱心に、気にかけております。

 宮宰シャザやエクラーシ殿下だけでなく、王位継承順位でナンバーワンのエルマシュ殿下や、継承順位ナンバースリーのエンクラジュ殿下を後ろ盾とする勢力も、私の動向には、格別の注目を集めているでしょう。

 派閥のリーダーと懇意になり、その権勢を利用することで不正な蓄財を図ったり、他家が領有する星系などへの武力侵出の大義名分を捏造したり、領民への圧政を正当化したり、といった身勝手な悪事をなそうとする者たちなどは、特にそういった傾向があります。巡察使としての私の意向や動向は、各派閥の勢力バランスを、大きく左右し得るものなので。

 私としても、不正や困窮を見落としたり、不公正を生じさせたりしないためには、連日気を抜く隙もなく、常にあちこちに意識を払わねばならない、難しい立場に置かれております。

 ですがケイラ、どうか、過度なご心配は、なさらないでいただきたい。

 私のこれまでの公正な仕事ぶりは、多くの人々に認めていてだいており、プライベートの人間関係などに私の裁定が左右されるものではないことも、少なからぬ方々に信じて頂いております。

 中には「ケプラーチヨ」のように、私の個人的交友関係に不必要な神経をとがらせ、やくたいもない影響力を及ぼそうと、あれやこれやの画策をする者たちもありますが、そういった手合いは、実はごく一部なのです。そして、そんな小うるさい連中も、近いうちに思い知るでしょう。私のプライベートの交友関係に首を突っ込むことなど、全くの無益な行いでしかないと。

 私はこれからも、国王陛下より賜った巡察使としての権限を、適切かつ効果的に活用し、不正を行う権力者を諫め、困窮する庶民たちを救済し、行く当てを無くした移民を保護し、紛争を未然にもしくは早期に調停し、王国の安寧と発展のために、あらん限りの力を尽くしていく所存です。

 これまで一度も面識や関係を持ったことのない者たちも、親類縁者ともいえる強いつながりがある者たちも、完全に対等で公平な対応をしますし、どちらからの陳情も、分け隔てなく誠実に耳を傾けるでしょう。

 そんな活動を着実に続けていきさえすれば、もっともっと多くの人々に、私のプライベートの交友関係を気にかける必要などが全くないことを、理解していただけるものと、私は信じています。

 ですからケイラ、私がどれだけ多くの勢力から注目を集めようとも、あなたがその事を気にかけて、私との対面に二の足を踏む必要などないのです。心を煩わせるべき問題など、あなたには一つもありはしないのです。

 そのことをご理解いただき、どうか、予定通り、私たちが惑星遊覧の約束を果たせるよう、お考えを改めていただけないでしょうか。――


 今回の投降は、ここまでです。次回の投降は、 2020/6/13  です。

 ジョンは巡察使の権力を、自慢しているだけじゃないか、と思われてしまいそうですが、そう思われないように心がけて書いたつもりなので、思われてしまっていたら、作者の力不足は深刻です。作者の意図としては、ジョンはひたすらケイラに会いたくて、彼女に出向いてもらえるようにと、その一念でだけで発言しているのです。大富豪で名門貴族で強大な権力をも持っているジョンですが、それを全く鼻にかけない奴、というつもりで、作者はジョンを描いているのです。一応・・・。


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