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銀河戦國史 (漂泊の星団と王国の巡察使)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第4話 宇宙を飛び交う文通 その2

――ああジョン様、あなたの言葉を疑うなどということは、当然ながら、決して私の望むところではありません。

 ですが、連邦管轄域である「ケプラーチヨ」を統括されている方々の言葉も、にわかには、疑いにくいものがあります。

 強い結びつきがあった時代においても、それから数百年を経た現在においても、銀河連邦がこの星団にもたらしてくださった科学技術や法制度などといった、最新文明の恩恵は、私たちの暮らしにはかけがえのないものとして、深く強く根付いております。日々の暮らしのあちこちに、それを再認識する機会が、散りばめられているのです。

 この星団で生きて来た者として、私も銀河連邦という言葉には、深い信頼と敬意を感じずにはいられないのです。それだけの、重みのある名称なのです。

 その銀河連邦の名を冠した「ケプラーチヨ」の方々が、根も葉もない作り話であるフェイクニュースを、故意に広めるなどという卑しいことをするとは、わたくしには、簡単には信じられないし、信じたくないというのが、本音なのです。それも、自分たちの利害のためだけの派閥争いの、一環としてだなんて、何かの間違いだと思いたいのです。

 あなたにそのつもりがなくとも、もしかしたら「ケプラーチヨ」の方々には、あなたがアミナさんに好意をいだいているように、見受けられてしまったのではありませんか?そしてそれは、あなたも意識せぬ内に、あの方々を勘違いさせてしまうような雰囲気が、あなたとアミナさんの間にあったからなのではありませんか?

 今回の件は「ケプラーチヨ」の方々が、故意に嘘の話をでっちあげたということではなく、うっかり誤解してしまったのか、もしくはあなたが、あなた自身の本当のお気持ちに、お気付きになられていないか、ということではございませんでしょうか?

 今一度あなたは、あなた自身のアミナさんへのお気持ちを、お確かめになられた方が良いように、私には思えます。

 アミナさんとお会いになった時のお気持ちや、その際の自身の言動などを振り返ってみて、本当に、アミナさんへの思いがなかったのか、そして、それが「ケプラーチヨナ」の方々に、2人の特別な関係を推測させる素振りになって表出していなかったかどうか、思い返してみていただきたいと存じます。――


――おおケイラ、なんと慈悲深い、気遣いに満ちたお言葉を、こんな私にかけてくださることでしょう。

 ですが、あなたは“連邦管轄域”なる称号を、過剰に解釈しておいでのようです。

 実は彼らには、銀河連邦との繋がりなどは、全く無いのです。現在においてだけでなく、過去においても、彼らは銀河連邦と繋がりを持ったことなど、一度もございません。銀河連邦の方では、おそらく、彼らの存在すら、認識してはいないことでしょう。

 彼らが振り回している“連邦管轄域”などという称号は、銀河連邦には何のことわりもなく、彼らが自分勝手に名のっているだけのものにすぎないのです。

 3百年も時を(さかのぼ)れば、この星団にも銀河連邦から直々に承認された、正統なる“連邦管轄域”が、いくつも存在していました。

 未開で貧しい暮らしをしていた、かつてのこの星団に、銀河連邦から派遣されてきたエージェントたちが、先端文明を伝えるための拠点として築いていたのが“連邦管轄域”というものです。

 数百から数千の人々をそこに住まわせ、実践的な都市運営を体験させながら、科学技術や社会制度に関する知識を、普及させるためのものだったのです。

 多い時には数百のそれらが、我らの星団のあちこちで、住民たちへの啓蒙を推進してくれていたのです。

 ですが、星団の移動に伴い、連邦との距離がどんどんと離れて行ってしまい、しかも両者の間の宙域には、宇宙を放浪する野蛮な民族たちが、うようよと盤踞(ばんきょ)するようになってしまいました。

 それによって、我らの星団と銀河連邦との繋がりは断ち切れ、今となっては誰も、連邦の承認など、得る術もありません。

 銀河連邦が建設した円筒形宙空建造物などの多くが、今でもわれらの星団の民衆に、貴重な住居として利用されていますが、それは、連邦との繋がりがあることを意味するものではありません。連邦の置き土産を、断りもなく勝手に拝借しているにすぎません。「ケプラーチヨ」の統括官どもが住み着いているのも、そんな置き土産の一つですが、銀河連邦の影響力がまったく及ばなくなってしまった後のそれを、かれらが我が物顔で占有しているだけにすぎなのです。

 銀河連邦と連絡を取るには、今となっては、数か月にも及ぶ命がけの旅を、敢行しなければなりません。年に数組が、それに成功しているようで、わが星団と連邦の交流が、皆無となっているわけではありませんが、ほとんどの星団住民は、連邦の力を頼ることは、完全に不可能となっています。

 だからこそ、かつては連邦の統治下にあった我らの星団は、独立した王国を樹立することで、自分たちの力だけで自分たちを守り抜き、生活も豊かに発展させてゆく道を目指すことになったのです。

 われらが王国の、始祖王によって成し遂げられた、星団内にあるすべての勢力の統一や、星団外の蛮族どもの征伐という偉業は、あなたもご存知のことだと思います。

 もともとは蛮族の一つとして、この星団を脅かす存在だった、始祖王の率いていた集団は、連邦の軍隊に制圧され、連邦の手厚い保護や支援に懐柔され、連邦との友好関係を結んで星団の善良な住民となりました。そして、連邦の同盟者として、連邦軍の星団防衛戦に助力し、蛮族の征伐や星団内の治安維持を共に担うなかで、勢力を伸ばしていったのです。

 星団の漂流にともない、連邦からの支援が受けられなくなると、始祖王の率いていた集団は、星団防衛の先頭に立つ存在となり、ついには、星団に住まう全ての勢力を束ねて、単一の王国と成すに至ったのです。

 その時より数百年の年月、我らの王国は、銀河連邦に頼ることのない自主独立の道を、歩み続けているのです。

 そういうわけですから「ケプラーチヨ」に限らず、王国内に何百とある“連邦管轄域”を名のる団体や宙域は、全て“自称”でしかありません。

 ただ、それでも、ケイラも感じておられるように、“連邦”の名を自分勝手に冠しているだけでも、その団体には、権威や信頼が備わってしまいます。それが、われらが王国の実情であることは、否めません。

 何百年も前に断ち切れてしまったにも関わらず、かつて銀河連邦がこの星団に与えた恩恵の記憶や、それによって根づいた敬意や信頼が、人々の脳裏から消えずに残っているからです。

 それくらいに、銀河連邦が我らの星団において見せた活躍は、素晴らしいものがあったのです。

 星団外の蛮族どもに対しての勇敢な戦いぶりについては、今でも多くの伝承が、星団のいたるところに残っています。

 数にすれば十倍以上の、蛮族が操る航宙戦闘艦の大軍に、臆せず立ち向かった連邦軍部隊の武勇伝や、蛮族が罠を張り巡らせて待ち構える彼らの拠点に、拉致された星団住民を救い出すべく、果敢に突入して行ったエージェントの英雄譚など、数え上げればきりがないほどです。

 しかも、ただ追い散らすだけでなく、銀河連邦の軍隊は、蛮族を制圧し、懐柔し、星団の善良な住民として、次々に取り込んでいくことにも成功しました。そうした例は、われらの始祖王が率いていた集団以外にも、多くが知られています。

 現在の星団住民の半分くらいは、蛮族にルーツを持つと言われているくらいに、連邦軍は多くの蛮族集団を、星団へと取り込んで行ったのです。

 更には、現在星団の周囲に王国を構えている集団も、過去には我が王国の一部だった時期があり、連邦軍に制圧されたことが一つのきっかけとなって、われらの始祖王に従う決意をした者たちだったのです。

 始祖王の息子たちの時代に、われらの王国は分裂してしまい、それを機に別の王国としての独立を選んだんこれらの星団外集団なのですが、かれらの長も一度は、われらの始祖王に、臣下の礼をとったことがあったわけです。われらの始祖王にしてもそうですが、銀河連邦の武勇の偉大さを、示す事象と言えるでしょう。

 こういった赫々たる武門での活躍だけでなく、民政的な分野においても、銀河連邦はとてもすばらしい恩恵を、我らの星団にもたらしてくれました。

 タキオントンネルのような交通インフラも、多くが銀河連邦に由来するものですし、星団内のほとんどの居住域では、銀河連邦によって導入された装置を使って、資源採取を行っています。食料や資材を生産する施設も、銀河連邦と無関係のものなど、ほとんどありません。

 それほどまでに、銀河連邦の功績は、今でもこの星団に息づいているのです。

 だから“連邦管轄域”を名のる者たちは、その宙域で求心力を獲得したり、自分たちの指導のもとでの、人々の団結を実現するために“連邦”の名声を、それに寄せられる人々の敬意や信頼を、利用しているのです。

 強固な団結というものは、人々が平穏に暮らし、豊かな発展を目指す上において、非常に大切なことなので、銀河連邦の名声を利用することについては、非難するつもりは、私にはありません。

 こんな形で“連邦”の権威を借りなければ、団結を長く維持できないのは、王国としての実力不足を露呈するものであり、それの巡察使を拝命している私としても、情けない想いに駆られるのですが、現状の王国には、それはどうしても必要なのです。

 とっくに繋がりが薄くなってしまった“銀河連邦”の、名声による権威だけを借りて、団結の基盤とせねばならぬのが、現在のわれらが王国の置かれている、実情なのです。

 ですが、かの連邦管轄域の統括官たちは“銀河連邦”という称号に、無条件に備わってしまう権威を、人々の団結のためではなく、人々を正しく導くためではなく、私利私欲を満たす手段としている節があるのです。そうなると、話は別であり、断じて許されることではなくなります。

 ここの住民から寄せられている、陳情に示された生活の困窮というのも、もしかしたら、統括官たちによる横領や悪政が原因ではないかと、私は見ています。統括官を信用して、住民たちが重すぎる租税を、歯を食いしばって拠出しているのに、それを個人的な欲望の充足のためだけに、かれらが使ってしまっている可能性を、疑っているわけです。

 この認識が正しいものであったなら、国王により任命された巡察使としては、何としても摘発せねばならぬところです。速やかな調査や検分の実施を、配下の者に指示しなければならないでしょう。私の重要な、使命の一つです。

 そんな統括官たちですが、やはり名目だけの“銀河連邦”の権威だけでは、立場の維持はおぼつかないのです。だからかれらは、何がしかの実質的な後ろ盾をも、同時に求めるのです。

 そして「ケプラーチヨ」では、王家の宮宰であるシャザの派閥に属することで、統括官としての立場の安泰や収益の安定を、図っているのです。

 連邦管轄域に、派閥の後ろ盾などが必要なのか、とあなたは思うかもしれませんが、域内で不可欠となる物資などを、宮宰シャザの権限を利用して安価に入手することなどが、かれらには必須なのです。

 特に、小惑星や星間ガス雲からの資源採取に使う宇宙艇の、イオンスラスターやロボットアームなどに組み込まれているデバイスなどは、簡単には入手できないものなのです。「ケプラーチヨ」の連中にとっては、宮宰シャザの影響力を利用しなければ、手ごろな価格での入手は難しいでしょう。

 宮宰シャザの家系と言えば、始祖王が星団の統一を果たした直後に、星団防衛の戦闘で参謀役を務めた者の末裔です。国家機構を整備していく際にも、数百の有人星系を束ねることなどに、多大な協力を成し、それ以来ずっと、歴代の国王に奉仕し続けています。

 そのために、彼の一家が持つ権限は、絶大なものとなっているのです。

 ある分野においては、陛下の后である王女様や、血を分けた王子たちですら及ばぬほどに、その権限は強力だとも、噂されております。

 ですから、シャザの派閥に属しているというだけで、数々の物資が特別な価格で「ケプラーチヨ」統括官たちのもとに、転がり込むことになるのです。

 さらには、2年前に勃発した内戦の際に、クチナ伯ローシュ卿に奪われてしまった所領を、かれらは宮宰シャザの助力を得ることで、奪還したいと考えています。

 武力によって不当に割譲させられてしまった所領を、住民の暮らしを向上させるために取り返そうというのなら、私も助力を惜しむものではありませんが、かれらは、私利私欲のためだけに、それを成そうとしていると思われるのです。

 まだあります。彼らの所領で使用している設備の、生産性を高めるのに、王家のデーターバンクに残されている銀河連邦の技術や知識を、シャザを経由して取得したいという都合も、彼らにはあるはずなのです。

 数百年前に、始祖王の率いた集団が、銀河連邦と同盟関係にあった時に取得していた技術的知見も、そこには保存されています。年に数組の、銀河連邦との連絡を果たした者たちが、持ち帰って来た最新の知見も、王家は取得しています。

 それらの技術や知識は、もし彼らが本当に、連邦と繋がりのある正当な“連邦管轄域”なのであれば、最初から自分たちで持っているのが、当たり前のものです。住民にも持っていると説明している手前、大っぴらには要求できない情報ということにもなります。

 内密に取得しなければいけない事情があるゆえに、かれらは、シャザの派閥に属することで、こっそりそれらを入手しようと、たくらんでいるわけです。

 以上のようないくつもの理由があって、宮宰シャザの派閥が勢力を低下させてしまうことは「ケプラーチヨ」統括官たちにとっては、致命的な事態となってしまうのです。だから、他の派閥が力を増すことに、彼らは、異常なまでの警戒感をいだくのです。

 他派閥の増長は、相対的には、自派閥の退潮を意味するものですから。

 繰り返しますが「ケプラーチヨ」の統括官たちが、私とアミナ嬢の関係を捏造するのには、かれらの私利私欲に根差した、利己的で強力な動機が、あるわけです。

 巡察使という立場にある私が、どの派閥とどのくらいの距離にあるかを、彼らは常に意識しております。エラクーシ派閥が、私との接近を原動力として増長し、それによってシャザ派閥が衰退して後ろ盾を失うことを、かれらは危険視しているのです。

 そのあたりの事情を汲み取って頂き、名ばかりである「ケプラーチヨ」の統括官たちの言葉などを、真に受けたりしないで下さい。私とアミナ嬢の間には、深い関係など無いという真実を、どうかケイラには、信じていただきたく思います。

 私は、あなたとの惑星遊覧が予定通り行われることを、切に願っております。――


 今回の投降は、ここまでです。次回の投降は、 2020/5/30  です

 「銀河連邦管轄域」とか各派閥とか、ややこしくて頭がこんがらがった読者様もおられるかもしれません。作者も書いていて、何度もわけが分からなくなり、エクセルで表を作ったりして整理しながら書いたのですが、読者様に置かれましては、そんなに詳しいことを把握できていなくても、作品自体は理解できるかなと思います。

 国というものは、昔も今も、そして未来においても、色んな権力者や団体が入り乱れていて、複雑怪奇なものなのだなぁ、くらいに思ってもらえれば、充分だと思います。


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