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銀河戦國史 (漂泊の星団と王国の巡察使)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第3話 宇宙を飛び交う文通 その1

――敬愛するジョン様、巡察使のお役目は順調にお運びでしょうか。先だっては、スペースヨットでのレジャーにお招きいただき、ありがとうございました。おかげさまで、思いもかけないほどの、素敵な時間を過ごすことができました。

 その上に、今度は、惑星の遊覧にもお誘いくださいまして、感謝の念にたえません。

 ですが、まことに心苦しいのですが、今後あなた様にお会いすることは、残念ながら、辞退させていただくしかないと、考えるに至りました。

 あんなにも、素敵な時間を提供してくださったあなた様に、このような非礼を申し上げ、大変恐縮ではあるのですが、なにとぞご理解いただきますよう、お願い申し上げます。――


 驚いたジョンが慌てふためいて送った返信が、タキオン粒子の波動に乗って宇宙を駆け抜ける。慌てたとて、タキオン通信の速度が、変わるわけではないのだが。


――おおケイラ、何ゆえそのような、悲しいことを申されるのですか。先日のレジャーでは、とても楽しそうなお顔で、お過ごしあそばされていたと認識しており、次の惑星遊覧も、楽しみにしていただいているものと、受け止めておりましたものを。

 もしや、先日のことで、何か不愉快にお感じのことでも、ございましたでしょうか?致命的な手抜かりが、ございましたでしょうか?失礼な発言や気障りな態度などを、私は、してしまいましたでしょうか?

 今後は二度と会ってくだされないなどという、ご判断をなされたその理由を、私はどうしても知らずにはいられません。会っていただけない訳を、どうか詳しくお伝え願えませんでしょうか。――


 広い宇宙のほぼ同一の直線上を、三たびタキオン粒子が波動を成して飛びすぎる。もちろん、ケイラからジョンに向けて放たれたものだ。


――敬愛するジョン様、私の言葉足らずで、いらぬご心労をおかけして、申し訳ありません。先日のレジャーにおいて不愉快に感じることなど、全くございませんでした。

 あの時のあなたの振舞いはとても紳士的で、優雅で、気配りも行き届いていて、レジャーの方も、これまでに経験のないくらいに爽快で、わたくしは本当に、本当に、心から楽しく過ごさせていただいたのでございます。

 私があなたと会えぬと申し上げたのは、先日のレジャーが原因というわけでは、けしてありません。ただ、あなたについて、気を揉まずにはいられなくなる噂を、耳にしてしまったからでございます。

 聞くところによるとジョン様は、アミナさんとかおっしゃるお嬢様と、ずいぶん以前から深い間柄になっておられるそうで、既に、ご結婚もお考えになられているという噂さえも、漏れ伝わって来ております。

 そのような、将来をお約束された大切な方がおられるあなたと、この歳になっても独り身でいる私などが2人切りでお会いする、などということをすれば、誰にどのような誤解を持たれてしまうことになるか、分かりません。私には、それが心配で、あなたとアミナさんの、ご迷惑になることだけは避けなくてはならぬと、愚考したのでございます。

 あなたと過ごした時間は素晴らしく、次にお会いする機会はとても楽しみなものだったのです。ですが、お会いしてしまえば私が、あなたの幸せの邪魔立てをする懸念が出て来てしまいます。それは、私の本意ではありません。

 ですから、今後においてあなたとお会いすることは、遠慮させていただこうかと思った次第です。どうかご理解賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。――


 ケイラのメッセージは、またもジョンをギョっとさせ、焦りに焦った返信を送らせた。タキオン通信が、虚空を疾駆する。


――おおケイラ、そのような噂をお聞き及びでしたか。しかし、そんなものは、全くの事実無根なのです。

 アミナと申す女性は、私がお役目として視察に向かった「ケプラーチヨ」連邦管轄域の内部を案内してくれた、現地在住の娘であります。収益に乏しく、生活が困窮していて救済を求めたいとの、当宙域の住民からの陳情を受け、巡察使としての任務を果たすために私は、そこを訪れたのです。

 彼女とは、お役目の上での関わりを持っただけで、個人的な間柄などは一切ございません。恋人でもなければ友人ですらありませんし、視察を終えて以降は、会ったこともありません。もちろん、結婚など、あり得るはずがございません。

 アミナ嬢の件であなたが、ご遠慮なさるとか、私との面会をご辞退なさるとか、全く筋の通った話ではありません。あなたと2人切りで会っているところを、誰に見られようとも、何の問題も生じません。アミナ嬢に対しても、傷つけてしまうとか、気を揉ませてしまうなどという事態は、生じるはずもないのです。

 そこのところを、よくご理解いただき、改めて今後の私たちのことについて、お考え直しいただきたく存じます。私は予定通り、是非ともあなたに、惑星遊覧に、お出ましいただきたいと願っているのです。――


 ジョンの釈明に、すぐさまケイラの、次のメッセージが打ち出された。超光速で、ジョンを目指す。


――ああジョン様、あなたはそうおっしゃいますが、「ケプラーチヨ」を統括されている方々は、アミナさんとあなたとのご結婚が間近であるとのつぶやきを、いくつものメディアを通じて、たくさんの人脈を通じて、世に広く拡散させておられます。

 彼らのメッセージをフォローしている人たちは、膨大な数にのぼっており、私たちの星団の隅々にまで及んでおります。何といっても彼らには、連邦管轄域の看板があるのですから、メッセージへのフォロワーの数も、それに対する信用も、絶大なものがあるのです。

 銀河連邦といえば、かつては強い結びつきがあったにもかかわらず、私たちの王国のある星団が、銀河系円盤の中で特異な移動をしていて離れ離れになってしまったために、今となっては、ほとんど交流の絶えている組織です。遥か遠く彼方の存在になってしまったと、言えるのではありますが、一時はわたしたちの星団の暮らし向きを、大きく好転させて下さった由緒のある機関でもあります。

 その銀河連邦から認められ、統治を委託されている“連邦管轄域”を統括されておられる皆様の言葉ですから、私としても、全く信用しないというわけにはまいりません。

 アミナさんとあなたが深い仲ではないことや、私と会うことがジョン様のお幸せの妨げにはならないという、あなたのお言葉を、真に受けてしまって、いいものなのかどうか、私は、すっかり、思案に暮れてしまっています。――


 今度は少し間を置いて、ジョンからのタキオン通信がケイラを指し、暗黒で真空の宇宙空間を駆け抜けた。


――おおケイラ、驚くべきことに、あなたのおっしゃる通りでした。

 あなたの指摘を受け、私の方でも調べてみましたが、確かに「ケプラーチヨ」の者たちは、そのようなフェイクニュースを様々なメディアで、もしくは人脈を通して、大々的に拡散させておるようです。

 こんなものを見落としてしまっていたのは、私の不覚だとも言えるのですが、初めて目にしたメッセージであり、全く間違った情報でもあります。アミナ嬢とのことは、全て彼らの作り上げた偽りの話であり、根も葉もない誤報なのです。

 恐らく彼らは、私とあなたが先日、スペースヨットにおいて対面したことを、どこからか嗅ぎつけたのでしょう。トニー君とその恋人以外には、誰にも知られていない対面のはずだったのですが、何者かがどこからか、何かしらの手段で、私たちのスペースヨットを観測していたものと、思われます。

 こぶしくらいの大きさで、ステルス性にもすぐれた無人探査機が、スペースヨットの近くを徘徊していたのかもしれません。

 あちこちの領主によるおかかえのスパイや、情報屋の類は、そういった無人探査機を、全ての有人星系に何百万個とばら撒いていて、大儲けに繋がりそうな情報を集めて回る活動に、心血を注いでいるのです。私たちを標的にした情報収集ではないのでしょうが、こういう輩は、手あたり次第に、他人の秘密を暴き立てようとするものなのです。

 こぶしくらいの大きさでも、レーダー波や通信波や熱源を、かなり高精度に検知できる性能を持っている場合が多いですし、重力波やタキオン粒子やニュートリノビームまで、検知できるものも珍しくないので、我らの動きは筒抜けだったのかもしれません。

 大きさや材質によっては、スペースヨットに積んでいる程度のレーダーでは検知することができない探査機なので、こちらがその存在に気付きもしない間に、何者かに観察されてしまうことさえ、あり得てしまうのです。

 数万kmもの遠距離にある何らかの施設から、大型電波望遠鏡などの高感度な観測機器を使って、追跡や調査をされていた可能性もあります。それでも、こちらには気が付く術がありません。

 他にもいろいろな方法で、私たちの過日のレジャーが、私たちの知らぬうちに、誰かに覗き見られていたというのは、あり得ることです。それが「ケプラーチヨ」連邦管轄域の者たちに、伝えられたのでしょう。

 そして、私とあなたが接近しているという事実を知るに及んだ彼らが、勝手な憶測に基づいた的外れな危機感をいだき、私たちの再会を阻むことを画策したに違いありません。これ以上私たちが、接近することのできなくなるように、このようなフェイクニュースを、拡散させたのでございましょう。

 そういったことは、珍しくはありません。

 巡察使という立場上、王国内の多くの勢力が、私の交友範囲を知りたがっています。誰とどのくらい懇意しているかという私の実情や、誰にどのような印象をいだいているかという私の感情などを、殊の外、気にかけているのです。

 私の言動に一喜一憂したり、そこから突飛な妄想を展開させたりすることもあれば、自分たちの意に沿わぬ私の交友関係の、分断を企てたり、かれらに都合の良いようにコントロールしようと試みたり、などといった策動が目に付くこともあります。

 私個人の人間関係を、この手の輩どもは、自分たちの利害関係と無理矢理に結び付け、得をするために損をしないためにと、横やりを入れてくるのです。

 そんなものはかれらの妄想にすぎず、現実には、私の人間関係がかれらの利害に、何らかの影響を与えることなど、あるはずも無いのに、どうしてもこんな軽挙妄動に走る者は、後を絶たないのであります。

 「ケプラーチヨ」の者たちも、あなたとの対面を、私がエラクーシ殿下の、つまりは国王陛下の二男であり、王位継承順位においてナンバーツーでもあらせられるあのお方の、主催している派閥に対して、接近を図っている兆候とでも、考えたのでしょう。

 ケイラ、あまり表に出ぬ事情なので、あなたはご存知ないかもしれませんが、あなたのお父上は、エラクーシ殿下の主催しておられる派閥の、重鎮であらせられるのです。

 そういった人物の娘と私の対面は、王家の宮宰であるシャザが催している派閥に属している「ケプラーチヨ」の者たちには、自派を不利な立場に追いやる可能性を、感じさせてしまうもののようなのです。

 巡察使という大きな権限を持つ職を、国王陛下より与えられている者との癒着が、エラクーシ派閥を増長させ、その結果としてシャザ派閥に、退潮をもたらすかもしれないと、危惧しているのです。

 もちろん、そんなことは、かれらの妄想にすぎません。私とケイラがどんな関係になったとしても、シャザ派閥とエラクーシ派閥の力関係になど、いかなる影響も与えるはずはありません。

 ですが、シャザ派閥に依存する度合いの高い「ケプラーチヨ」の連中にとっては、それの退潮は死活問題なのでしょう。そして、派閥の勢力維持に神経質になりすぎるあまりに、実際には影響などあるはずのない私の交友関係にまで、危機の兆候を嗅ぎとってしまうのです。

 こういった理由で彼らは、私とあなたの、ひいては私とエラクーシ派閥の接近を阻むべく、アミナ嬢との関係を捏造したのでございましょう。

 迷惑千万な行為であり、腹立たしいかぎではありますが、巡察使という重職を担う身では、こういう事態は避けられないのです。

 ですから、どうかケイラ、そのようなフェイクニュースになど、けっして惑わされることなどないように、お願い申し上げます。自己の利益しか考えぬ者たちが、あさましい妄想の末に生み出したくだらぬ作り話になど、惑わされてはなりません。

 私たちには全くの無関係である、かれらの派閥争いなどに影響されることなく、真実だけに目を向けていただきたい。「ケプラーチヨ」統括官たちの言葉は偽りであり、私とアミナ嬢には、個人的な関係などは、一切ないのであります。

 この唯一の真実に、あなたにはしっかりと目を向けていただけることを、私は、心から祈っております。――


 今回の投降は、ここまでです。 次回の投降は  2020/5/23 です。

 「フェイクニュース」とか「フォロワー」とか「拡散」とか、今風の言葉を強引に(?)ねじ込んでみました。未来の宇宙の話なのに、昔を連想させる世相で、使われる言葉は今風という書き方が、どんな世界観を読者様に感じ取ってもらえるものか、気にかかっています。SNSなどを全くやらない作者なので、使い方が正しいのかどうかにすら、自信はないのですが。


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