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驚天動地の殺人事件 二頁目

用語集

惑星ウルアーデ

この物語の登場する人物達が住む惑星の名称。

何兆人という数の人間を抱え、星全体が生き物のように粒子を生みだしている。

面積は地球のおよそ十倍。

気候は粒子の密集量により大きく変わり、高いところでは一万度、低いところではマイナス百度を超える。


住民は備えている粒子を用い日夜小競り合いから戦争まで、様々な形で戦っている戦闘集団で、人が死ぬのは日常的。



 普段ならば決して人には見せない憂いに染まった表情を晒す神教最強。


「そうね。一言で言うなら、あたし達の神教の手に余る事態が起きた。その解決に動いて欲しいの」


 自らのこめかみを右手の人差し指で何度も小突くその動作は、彼女が真剣な話をする際に行うクセである。


「神教の手に余る事態が起きた? 冗談だろ?」


 その状態のアイビス・フォーカスを前にした場合、最も良い選択肢は『待つ』ことだ。

 少しの間待ってさえいれば、彼女は誰が聞いても理解できる答えをしっかりと告げるからだ。


 しかしそこまでわかっていてなお、善は思わず口を挟まずにはいられなかった。


 そのような事態は、敵対勢力である賢教と、今世間を騒がせている『境界なき軍勢』が同時に攻めてこようと起こるはずがないと腹を括っており、ましてや自身の力に絶対の自信を持つ神教最強の一角が口にするなど夢にも思わなかったのだ。


「残念ながら冗談ではないのだけれど…………そう口にした理由は追々説明するわね。まずは、目の前に迫った危機の話からしましょう」

「目の前に迫った危機?」

「ええ。つい先日、ミレニアムから次の進軍予定が発表された。次に彼らが狙うのは、西本部よ」

「………………ついに来たか」


 普段は見せないような真剣味を帯びた表情で語る彼女の言葉を聞き善が天井を眺め息を吐く。

 それはミレニアムの目的から、いつかは来ると理解しながらも来て欲しくないと願い続けていた事態。


 世界中を統べる神教に対する、明確な宣戦布告に他ならない。


「恐れるべき事態ではあるな。だがそれがどうした。例えその場にミレニアムが現れようと、四大勢力が一丸となれば今なら確実に潰せる」

「ええ。そうね。『四大勢力が力を出しあえば』…………ね」


 善の強気ではあるが最もな発言に対し、含みを持った物言いをするアイビス。

 その真意に気がつくのに時間がかからなかった。


「おい……まさか西本部、いや賢教はこんな時にまで神教の援軍要請を断ったのか?」

「ええ」

「馬鹿が!」


 彼女の答えに善が声を荒げる。


 ミレニアムとその軍勢は今現在最優先で対処しなければならない重要事項だ。

 加えて狙われているのは中小の都市ではなくこの世界における要、東西南北を統べる一角だ。

 それを守らなければならない状況で下らないとしか言いようがないチンケなプライドを持ちだす彼らに対し、それ以外の感想を口にする事はできなかったのだ。


「最もな感想ではあるけど落ち着いて。賢教の立場からすれば当たり前といえば当たり前の考え方だし、場合によっては西本部を守る以上の理由があるのかもしれない」

「どういうことだ?」

「それは――――」


 含みを持った第一位の言葉の答えを求めるが、彼女は自身が作りだした紅茶を一気に飲み干すし、口に出しかけていた言葉まで飲みこんだ。


「まあ疑問があるのはわかるんだけど話を進めるわ。今回の西本部攻めについて、賢教は極力自分たちの手だけで解決したいと考えている。でもギルドと貴族衆の援軍に関して言えば最低限の介入ならば許されているわ」

「…………なるほど。そこで俺達の出番ってわけか」


 飲みこんだ言葉の続きを聞きたかった善だが、あえて聞かない。

 話が移れば、そちらに合わした。 


「ええ。この戦いにギルド『ウォーグレン』は援軍として参加しなさい。これは世界を統べる神教最大戦力、セブンスター第一位として直々の命令よ」

「わかった」


 普段の彼女からは想像もできないような厳格な口調と態度から告げられる命令に善が断る理由はなく、二つ返事で応じ、


「ただ一つだけ頼みがある」

「なに?」

「俺の部下についてだが、重傷を負った場合は退却することを許して欲しい。むざむざ殺させるつもりはないんでな」

「まあ…………そのくらいなら了承するわ」


 取引とばかりに出された条件を、アイビス・フォーカスも拒むことはしない。

 僅かに間を置いたものの、素直に了承した。


「んで、日にちはいつだ」


 次に気になることといえば、ミレニアムが進軍を開始するタイミングだ。それ次第で準備の規模が変わってくる。なので善は矢継ぎ早に尋ねるのだが、


「明日。時間は未定」

「そりゃ……急な話だな」


 その返答に対し、落胆と少々の驚き、敵側のこの作戦に込める本気度を理解した。

 これまでのケースの場合、進軍までは最低でも数日は間が空いており、加えて時間についても明確な場合が多かった。

 それらの前例を覆して行われる西本部との衝突という事態に、この作戦に対するミレニアムの姿勢がこれまでの比ではない事を感じ取る。


「要件はわかった。つっても明日ってことは午前零時からだろ。それに間に合う用意なんてそう大してねぇな」

「重要なのはメンツを揃えること。退却を許してはいるけど、最低限役目は果たしてもらうからね。あ、物資の供給やらサポートならいくらでも言って。今回神教が介入できる範囲なんて、それが限界なんだから」

「今のところ思い浮かぶのは回復薬の用意くらいか。俺の分はともかく、あいつらにはいいのを揃えておいて欲しいな」

「わかったわ」

「頼んだ」


 アイビスの二つ返事を聞くとそれ以上煮詰める内容はないと考えた善が立ち上がり、急いで用意に取りかかろうと動きだす。


「待ちなさい善」

「ん? まだ何か詰める点があったか?」


 のだが、そのようにそそくさと立ち去ろうと考えた善を、世界一位が止める。

 まだ何かあったかと疑問に思う善が振り返れば、未だ緊張した空気を解かず座ったままの姿が目に入る。


 それを見て、善はうっすらとだが理解した。


 自分が今日この場に呼ばれた真の理由は、これから説明されるのではないのか、と。


「明日攻めてくるであろう『境界なき軍勢』についての話は終わりよ。彼らの特性を活かした作戦を考えたり、当日の動きは全てあんたに任す。これから話す内容はそれとは全くの別問題よ」


 そう告げる彼女の声は先程までと比べなお固いものであり、話す内容の重要性を何も言わずとも伝えていた。


「まず始めに伝えておきたいけど………………これから話す内容は他言無用でお願い。仲間内の中でも、口が軽そうな連中には言わない事。いえ、今回の件に関しては共に仕事をする部下以外には知らせないで」

「わかった」

「それと、さっきの西本部への援軍依頼は神教全体の総意。つまり神の座からの指示よ。それでこれから伝える内容についてだけど、これはセブンスター第一位からの、個人的なお願いと覚えときなさい」

「…………おう。そっちもわかった」


 この上なく厳重に取り扱うべき内容だと告げるアイビスに対し頷く善。

 それを聞いた彼女は小さく息を吐く。


「了承、ね。なら伝えさせてもらうわ。驚かないでね――――実は二年前からセブンスター第二位、つまりあたしの弟のデュークが行方不明になってるわ」


 セブンスター第二位、デューク・フォーカス。

 アイビス・フォーカスに続く位に座し、彼女とゲゼル・グレアと共に神教を支える、善が今なお敵わないと考えている三人のうちの一人。

 そのような人物がいなくなったという事実はまさに衝撃としか言えない内容だ。

 話を聞いたほぼ全員が力なく口を開き唖然とする、全世界きっての大事件である。


「ああ。やっぱそうか」


 それを前にしても、善は一切動揺せず、真正面から受け止めた。


「……驚かないのね?」

「まぁな。前にゼオスから蒼野を守るためにこっちに来たときがあったろ。その時ノアの野郎の反応がちょっと引っかかってな」

「……ノアには厳重注意をしとかなくちゃね。善だから良かったものの、他だった場合大惨事よこの情報」


 普段ならばされる側の愚痴を吐き続けるアイビス。その様子は少々滑稽に映り、鼻で笑いたくもなるようなものだが、善の胸に安堵は訪れない。


 理由は単純だ。なぜ、今この情報を提示したのかが理解できないからだ。


「まあ、理解しているのなら話が早いわ。あんたには普通の依頼を行う傍らでデュークの捜索をしてほしいの」

「そりゃいいが、詳しい内容を教えて欲しい」

「ん。口伝じゃ逃しちゃう部分もあるから、情報媒体にまとめておいたわ。確認よろしく」

「失礼する」


 それからすぐに見た資料をまとめると、


 まず彼女の義弟デューク・フォーカスが消えたのは彼女が言う通りおよそ二年前。既に危険な存在と危惧されていたミレニアムを討伐するために出て行ったきり戻らないという事であった。

 二年にもわたり戻らないならば死んでいるのではないかと考えた善であったが、そんな彼の考えを見透かすように彼女はそれを否定。


 話によれば、生きていることだけは何故か確信できるという事だ。


「なら何で戻ってこねぇんだよ」

「さあ、わからないわ。ただ、あたしと同格のあいつを生かしておく意味は皆無に近いから、拘束されてるとかの類ではないと思うわ」


 確信を持って言いきるアイビスの言葉に、善も頷く。

 神教におけるトップスリーはアイビス・フォーカスにデューク・フォーカス。そしてゲゼル・グレアだ。

 三人全員が鋼のように強い心を持ち、洗脳の類に対する耐性も異様に高いため、生かしておいたとしても相手にとって優位になることなどほぼない。


 そんな存在を生け捕りにする意味がない。


「…………俺達の前に戻りたくても戻れない状況?」

「もしくは、重大な情報を掴んでしまって、表舞台から姿をくらましてるってとこね」


 答えの出るはずもない推測が二人の口から零れ落ちる。


「さて、依頼を断るつもりは一切ないが、それならそれで俺達に依頼をする事になった経緯を教えてもらおうか。呼び出した理由は、他にもあるんだろ?」

「………………そうね。ええそうね」


 そこまで話したというのに彼女が纏う空気は硬直したままであり、それを見れば今回呼ばれた要件がこれだけではない事もすぐに察することができた。


「………………………………一応言っておくと、この内容も他言無用でお願い。そうね、それこそデュークの剣以上に極秘、なんなら誰にも言わないでほしいわ」

「……承知した」


 彼女が告げる忠告の言葉の物言いは、先程に比べなお重い。

 それゆえ彼らしくもなく息を整え、緊張した面持ちでそう告げると、アイビス・フォーカスも覚悟を決めたように口を開いた。


「いい。驚かないで冷静に聞いてね善。昨夜未明、第七位ゲゼル・グレアが死んだ……いえ、殺されたわ」


 そうして告げられた内容は、どれだけ腹を括ろうと到底理解できない予想できないものであった。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さてさて、本編の最後で今回の件の主題が語られましたが、これについての詳細は次回で。

前に語られたデューク・フォーカスについての話題は、以前から臭わせていたものですね。

そして西本部で行われる大規模な戦いと、今回でこれからの話に関して一気に進められました。


次回も変わらず見てくだされば幸いです


それではまた明日、ぜひご覧ください


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