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驚天動地の殺人事件 一頁目

用語集

科学

機械を主体とした発明品や日用品の総称。

この世界における『科学』とは、一部の者が粒子を用い起こす様々な現象を、万人が行える行為にすることである。

ただ、粒子による試行錯誤が日夜行われているこの世界では向かい風の傾向にあり、一般にまで普及しているものは数少ない。

とはいえ世紀の大発明と呼ばれるものも存在し、決まった場所に自由に行き来できる『転送装置』や、好きなように場所を広げる事ができる『空間拡張装置』は誰もが認める大発明である。


「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」


 古今東西、遥か昔から現代まで、人間という生物は星を舞台に物語を紡ぐ。

 誰もが『自らの人生』という物語における主人公となるのだ。


「はぁ! はぁ!」


 彼らが紡ぐ物語の中身に同じものはなく、様々な物語を紡ぎ、世界を彩っている。

 僅かな点でも過程が違えばそれによって生み出される結末は違い、性格が違えばその結末にも違いが生ずる。


「はは……はははは!」


 しかし千差万別、それこそ創作物を含め無数の物語があったとしても例外なく存在するものがある。



 それが『始まり』と『終わり』だ。



 ほんの数分で終わってしまう小さな物語であれ、世界全土を巻きこんだ壮大な冒険であれ、平等に『始まり』があり『終わり』がある。


「やった……やったぞ! 俺が俺が俺が俺が! 俺が殺したんだ!!」


 これから繰り広げられる物語はとある大きな物語の『始まり』だ。

 世界中を巻きこむ、巨大な物語の『始まり』だ。




「突然で悪いんだが、ちと中央に言ってくる」

「本当に突然ね」

「…………」

「うぅ……」

「はぁ」


 土方恭介が何も言わずに去った次の日の朝、食堂に集まった面々を眺めながら善がそう口にして優が返事を返すのだが、彼らは蒼野と康太の様子を見て、額に手を置いた。


「お前らよぉ、そろそろ復活してくれねぇと困るんだが」

「「…………」」


 意気揚々とした様子で二人がリビングにやってきてすぐの事であった。

 自分たちの知らぬ間に恭介がいなくなってしまった事がよほどショックであったのか、蒼野は啜り声を上げながら涙を流し、康太は白目をむいて口を開いたまま硬直。その状態が続き、優と善は朝食を終えてしまっていた。


「……こいつらを待っていては日が暮れるぞ。さっさと行くべきだと思うが?」

「そうだな。なら今日の動きについて確認するが……何だ、康太と優を除いてフリーか」


 二人の心境を現すかのような勢いで大地に叩きつけられる雨を横目にみながら、頬杖を突きながら口にするゼオスの言葉に納得し、ミーティングを始める善。


「……古賀蒼野がフリーか。ならば俺が一日借りていっても構わんな」

「は? お前が蒼野を誘う。どういう風の吹き回しだ」


 善の説明を聞くとゼオスが普段ならばそうそうすることのない提案を行い、それを聞くと気絶中だった康太の全身に魂が宿り、すぐさま反論した。


「…………古賀蒼野がいた方が便利だと考えたからに過ぎん。貴様の考えるような事態にはならん」


 義兄弟の危機ならばすぐに立ち直るのか、


 ゼオスが内心で感心と呆れを混ぜた感情を抱きながらそう康太に返すと、目の前の人物は自分を信用できないとでも言いたげな表情を作り、じっと見返していた。


「いや俺もついていく。流石にお前一人には任せられん」

「話聞いてた? アンタとアタシに限っては依頼が入ってるから無理よ」

「なら積が!」

「アイツならとっくの昔に出て行ったぞ。何でも釣り堀に行ってみるらしい。俺の夢は釣り名人! なんて叫んでたぞあの野郎」

「道楽者め!」


 善が説明を行うと既にキャラバンを出た積に対し、康太が唾でも吐き捨てるような勢いで言いきり、このままでは埒が明かないと考えたゼオスが懐に手を差し込む。


「!」


 それが戦いの始まりを告げる合図と考えた康太が、彼と同じように懐に手を持って行き油断なくゼオスを見るが、懐から武器の類は取りだされず、机の上には一枚のチケットが置かれた。


「何だこりゃ?」

「……昨日ルティス・ロータスに聞いて知った情報だが、これは招待状らしい」

「んなもん見りゃわかる。そう書いてあるんだからな。問題はなんの招待状かってことだ」

「……………………これか。この招待状は」


 普段と比べ僅かに長く間を置いて語られた内容。

 それを聞き、その場にいる全員が思わず奇声を上げた。




「じゃあ、留守を頼む」


 ゼオスが告げた驚きの内容から数分後、ゼオスが未だ抜け殻となったまま動かない蒼野を背負い、黒い渦の中に消えていくのを確認した善がキャラバンの中に設置してあるワープゲートに乗る。


「はーい。お土産期待しとくわね」

「その約束はできねぇな。今日の朝の様子からして、普段と比べて少し真剣な感じだったからな」


 世界の中心であるラスタリアへと繋がるパスワードを手慣れて手つきで打ちこみながら、のんびりとした様子を見せる優にそう返す善。


 電話があったのは午前七時よりも少し前の事であった。


 善が起きてすぐに掛かってきた電話の声は普段とは違い、なおかつセブンスター第一位という権限を使っての呼びだしをされたこともあり、これはただ事ではないとすぐに理解。

 彼はいつもよりも少々急いだ様子で支度を行い、ミーティングを終えると早足でここまで来ていた。


「でもお姉さまなら何もない可能性もあるんじゃない?」

「まあ、否定はしねぇよ」


 といってもこれまでの事を振り返ってみれば何度かそのような電話はあり、その中のおよそ八割は善を呼びだし無駄話やら遊ぶために行う悪ふざけだ。


 見送りにやって来た優の言う通り、今回の件に関してもその可能性は十分にある。


 だが残りの二割の場合、その内容は最重要機密としか言えないものであり、これである可能性を考えれば、無視するわけにもいかなかった。


「ま、行ってくる」


 長いパスワードを打ち終えた瞬間、ワープゲートが青白い光を放ち、善の体を覆っていく。

 すると彼は全身に襲い掛かる浮遊感に違和感を覚えながらも目を右腕で覆い光を遮り、それから少ししたところで青白い光が止んだのを確認し手をどかす。


「ち、こっちも雨か」


 世界を統治する『神の座』が住む領域『神の居城』。

 その内部にあるワープ装置から慣れた足取りで善が出て行き、一般人向けに開放されている十三階の巨大庭園に入る。

 周囲を見渡せばウルタイユよりも色の濃い雲が空を覆い、雷鳴を轟かせながら大粒の雨をガラスの壁に勢いよく叩きつけていた。


「相変わらず、金かけてんなここは」


 『神の座』が多くの人々を招くために作りだした空間がこの13階だ。

 あいにくの天気にも関わらず様々な植物が存在し四季折々の花が咲き誇る庭園には数多くの人々が歩いており、防音ガラスに覆われた空間の中で、思い思いの時間を過ごしている。


「さて、行くか」


 そんな人々の脇を通りながら向かい側にあるエレベーターの前まで進み、『関係者専用』と書かれた物の前に立つ。


「えーと、確かこいつを差し込むんだったな」


 電話で指定された操作を行うと、パスワードが自動的に打ちこまれていく。


『『神様はチョー最高』……パスワードを正確に認証しました』


 すると少しの間を置き気の抜けた世界最強格の録音音声が善の耳に届き、関係者専用と書かれたエレベーターの扉が重々しい音を周囲に響かせながら開放。

 パスワードの下らなさにため息を吐いた善が、今後の展開を予期し、重い足取りで中に乗り込む。


 この様子では大した用事ではない。姉貴の気まぐれだ。


 そう判断した善がどうやって手短に今回の事態をきり抜けるか考えはじめたところでエレベーターは一度だけ大きく揺れ、すると然程時間もかけずに目的地へ到着。


「ギルド『ウォーグレン』、原口善。セブンスター第一位の指示を受けはせ参じた」


 呼び出しの際使われた名は敬うべき立場のものであるため、形式上だけとはいえ礼儀正しい態度を取り、部屋の中にいるであろう女性を探すと、彼女は部屋の最奥で、真っ黒な壁にもたれかかっていた。


「突然の呼び出しにも関わらず応じてくれて感謝します。さ、席について善」


 それからは普段と同じ態度でしゃべりだし、彼にとっては興味が一切が湧かない話を聞き続けるだけの時間が続く。


 そう思っていた善の思惑が外れる。


「……俺を大急ぎで呼ぶとは。要件は何だ?」


 彼が今回招かれた部屋は、三百六十度全ての壁に対し強化を施し、さらには防音機能までつけた重々しい雰囲気の部屋。

 その部屋の中心に神教最強の一角、アイビス・フォーカスは椅子と机を作りだし、善に着席する事を勧める。


「大切な用事よ。そう…………大切な、ね」


 ただバカ騒ぎをしたいだけのアイビス・フォーカスならば必ず何かをしかけておくのが定石なのだが、それすらなく真面目な返事が返され、それにより善は、この呼び出しが尋常ならざる出来事である事を理解した。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


昨日一日でプロローグ部分が終わり、本日から本編が本格始動です。

かなり不穏な始まり方ではないかと思いますが、満足していただければ幸いです。

敵もかなり強くなっていくので、そちらもぜひご期待ください


それではまた明日、ぜひご覧ください


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