古賀兄弟への訪問客 二頁目
能力
十の属性から行える様々な技の範疇を超えた『異常な現象』。普遍能力と希少能力の二種類がある。
普遍能力
二つ以上の属性を混ぜ合わせる事で出来る力。『普遍』と書いてある通り、
覚えようと思えば修行することで誰でも実現可能な範囲の能力。
希少能力
個々人が持っている希少粒子の力を活かした能力で、その希少粒子でしかできない能力のため、
能力の所有者以外は決して扱えない能力。
いわば、世界で一つだけのオンリーワンな力
「そんで、オレ達はどうする?」
「あ、ああそうだな。ここで驚いてたらもったいないか」
宙を舞う書類一つ一つに向け積の手が迫って行き、凄まじい速さでハンコが押される光景。
それを食い入るように見ていた蒼野が、康太に話しかけられ我に帰る。
「ん? 誰か来たみたいだな。ゼオスだけだと何だし、どっちかでいいから確認にいってくれねぇか?」
「はーい」
我に帰った蒼野がとりあえず外に出ようと考えていると、事務室に付けていた人感センサーが反応し、鈴の音が聞こえてくる。
それを聞いた善が蒼野と康太にそう頼むと、少々億劫気な様子の康太を引き連れ蒼野が部屋を出て、受付に向かいそこで見た人物を前にして目を見開く。
短く切り揃えられた黄土色の髪の毛に穏やかな光を灯す瞳に丸眼鏡。
筋肉質な体はそれとは不釣り合いかつ、季節というものを感じさせない長袖の白衣に包まれており、その顔には穏やかな微笑が浮かんでいた。
「お、噂程度でしか確認できなかったんだが、本当にギルドに入ったんだな」
その男が行儀よく受付の椅子に座っており、それを見た蒼野と康太が思わず言葉を失う。
なぜなら、彼らはその人物を知っていた。その人物を探していた。
しかし終ぞ会う事ができなかったのだ。
「久しぶりだな。蒼野、康太」
「「兄(土方)さん!」」
「はじめまして。土方恭介と言います」
「このギルドを仕切ってる原口善だ。よろしく」
蒼野と康太が慕う人物が来てから少しして、彼らは食堂に移動していた。
四角机を挟み積と善が土方恭介に向かい合う形で座り、残る二辺それぞれに蒼野と康太が着席。
向きあった二人が挨拶をしながら握手をする姿を蒼野と康太がマジマジと見つめていた。
「それにしても驚いた。何度も康太から話を聞いている人物が突然やってくるとは」
「本当はもう少し早く来ても良かったんですが、どうしても回っておきたい場所があったもので。いやしかし、あそこまで驚かれるなら連絡の一つでも入れておくべきでした」
「ほんとにな」
握手を交わしながら話す彼の言葉に善が苦笑しながら同意する。
なにせ土方恭介が来た瞬間の康太の動きは、約一年間過ごしてきた善でも類を見ないほど凄まじいものであった。
風を切る勢いで善と積の兄弟が籠る事務室に向かい走りだし、奇声を上げて扉を開く。
普段は決して見せない勢いでやって来た康太に面食らっていると、再度奇声をあげながら仕事を続ける二人を背負い、ここまでやってきたのであった。
「いやいや、そんな気にしないで下さい。康太の奴はいっつもお堅いもんで、むしろあんな奇行が見れて得した気分ですよ俺は」
「……どうした積? 今日はいつにも増して自殺願望が強いと見えるが?」
懐に挿した銃をちらつかせ、ドスの効いた声でそう口にする康太を前に積が顔を青くする。
「こらこら康太。あまり仲間を脅かしちゃいけないじゃないか」
「す、すんません。あ、いや……すいません」
そんな状態の康太が、彼が慕う恭介が軽く叱咤するだけでしおらしい表情をして銃をしまい縮こまってしまう。
再び見せた普段ならばありえないその姿を前に、善と積の二人が再度驚愕し、蒼野が久々に見たその姿を懐かしく思い穏やかに笑った。
「全く、昔からその短気なところだけは変わってないな。善さんはともかく同年代の積君は苦労するだろう。けど根はいい奴なんだ、これからも仲良くやってほしい」
「え、ええ…………いやこちらこそよろしくお願いします」
康太の普段は見せない様子の連続に戸惑い続けた積が、向き合っている穏やかな声色の男性がそう言うと、背筋を伸ばし、綺麗な角度でお辞儀をする。
「ところで、ギルドに来たってことは何か依頼でもあるのか?」
「あ、いや勘違いさせてしまったのなら申し訳ない。今日は二人が世界中で活躍しているという噂を聞きつけて顔を出しただけなんだ。申し訳ないが依頼はないんだ」
「俺達の顔を見に来たってことは、数日間滞在する予定なんですか」
その後気になったように善が質問をすると、恭介が申し訳なさそうに笑いながら返事。
しかしここに来た理由が自分たちにある事を聞き、康太が机から勢いよく立ち上がり口を開きかけるが、それより早く蒼野が尋ねる。
「んー、今ちょっと忙しくてな。そう長くは居れないんだ。一泊か良くても二泊といったところか」
「そりゃ残念。それなら今日はオレと蒼野と一緒に町の散策をしないか? それくらいの余裕ならあるんだろ?」
「ああ。元々そうする予定だったしな。一緒に回ろう。その最中でいいんだが、お前たちの仲間も紹介してくれないか?」
「仲間って言うとゼオスとクソ……駄…………尾羽優か。まあ兄さんがそう言うのならそうするか」
朗らかに言う恭介に対し、康太が渋々といった様子で了承。
優と合わせたくないんだな
そんな風に考える蒼野を尻目に、康太と恭介が立ち上がり、少し遅れて蒼野もついていく。
「お前も行くか? 書類については今日中に終わらせられるなら問題ねぇぞ?」
「いや話を聞くに明日までならいるんだろ。なら明日一日有休を貰いたい!」
「……まあ、今日中に明日やるはずだった分の半分でもできたら考えてやるよ」
流石にそれはできないだろうと、高を括って言いきる善。
しかし数時間後、それだけの量にも関わらず積は全てを処理し、それを目で追っていた善は普段は決して見せないような奇妙な表情を自らの弟に晒していた。
様々な肌の色に身長、様々な人種の人々が人通りの多い繁華街を私は歩いている。
少々力を込めないと前にさえ進めない人ごみを掻きわけながら、目的地に向けて歩いて行く。
そうしていると、自分の様子がおかしい事に気がついた。
まっすぐに立ち歩いているはずだというのに足に感覚がなく、何とも言い難い浮遊感が全身を支配している。
「うぅ、軽い貧血かしら? それとも食べ過ぎ?」
キャラバンを出てから食べてきたものを思い返しながら、このまま歩くのはまずいと考えた私は周囲を眺め近くにあるベンチを見つける。
「きゃっ!」
「ってぇな。気を付けろ!」
そこに近づこうとするのだが、アタシはよほど注意力散漫になっていたのか、普段ならば決してありえないのだけど人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
思わぬミスをしてしまい必死に謝るが、相手の姿を見て思わず背筋が凍った。
緑色の肌に長く伸びた舌。そして真っ赤に充血して飛び出た目はアタシが苦手なタイプの異人。爬虫類の特徴を持つ人物だ。
「――――――――! ――――――――?」
意識が朦朧とし、男が何を言っているのかさえわからなくなる。
そんな中、男と私の間に影が割り込む。
意識が途切れる寸前のアタシでは影に色彩を付ける事すらできずにいたが、その姿を見ただけで胸に溜まっていた不安な気持ちが消えた。
その安心感を胸に抱きながら、意識を手放した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
さて今回の話で登場した土方さん、一章の時にチラリと名前が出てきた人物なのですが、
覚えている方はいらっしゃるでしょうか?
結構なレアキャラで、今後も出てくる事は少ない野郎です。
メタルスライムの類ですね
恐らく今日はまだ投稿するので、よろしくお願いします