古賀兄弟への訪問客 一頁目
用語集その一
粒子
彼らの住む宇宙を形成している最小の単位。
炎、水、風、土、雷、木、氷、鋼、光、闇の世界中の自然や人間の体に流れている『十の属性粒子』と、
各々が別々の形を備えている、『特殊粒子』は存在する。
四大勢力
惑星ウルアーデに存在する、四つの勢力。詳細は別にまとめるが、大まかな形は以下のようになっている
神教
世界の約4.5割の人間が所属している千年前から今まで、世界を統治している組織。
代表にして象徴は千年前の戦争を引き起こし、今まで『神の座』として存在しているイグドラシル・フォーカス。
住民全体の性格は温厚で、戦闘行為はあれど、殺し合いにまで発展することは少ない。
賢教
千年前までずっと、それこそ歴史に乗っていない頃から世界を統治していた巨大宗教。
今は世界全体の約3.5割の人間が所属している程度だが、昔はほぼ全員がこの組織に所属していた。
代表はアヴァ・ゴーント。象徴はこの世界に粒子という無限の可能性をもたらした賢者王
住民の大半は教育の結果神教を強く憎んでいる。
貴族衆
力で支配する惑星ウルアーデの『経済』を握っている組織。お金関連の権利の八割はこの組織が所持しており、26の家系が協力して運営している。
そのため一般人は上記二つと同様に結構身近な存在であるのだが、表立って動かないため、当主陣以外は知られていない。
この組織の形は遥か昔から変わらず、世界の安定を守る、バランサーとして存在している。
ギルド
千年ほど前から現れた、四つ目の勢力。
他の組織と違い簡単に入る事が可能で、その門の広さや整えられた環境もあり、結構人気。
小型の会社運営が可能で、また差別などもないため、亜人と呼ばれる、一般人とは少々異なる特徴を備えた者もすぐに入れる。
賢教と神教の掛け持ちは不可能だが、貴族衆が他の組織に所属したり、賢教や新教に所属したりしている者が、ギルドに入る事には制限はない
ギルド『ウォーグレン』、彼らの名が全世界に急速に広がっていったのはつい最近の事である。
その理由は小規模にもかかわらず受けられる依頼の広さや達成率もあったのだが、最大の理由は所属している面々に対し多くの注目が注がれたからだ。
まず第一に注目されたのは組織をまとめる頭領である原口善だ。
彼はそれまで世間には隠していた素性を公開し、惑星ウルアーデを統治している『神教』に所属していた頃の異名や最高戦力だった過去が世界中に知れ渡った。
それ程の男がギルドを経営していると公表されたため、この時点で世界中である程度のニュースとなった。
それに加えあらゆるものを錬成できる『作成者』である彼の弟、原口積の存在に、生まれつき持っている才能『異能』により最高クラスの危険察知能力を持っている古賀康太の存在。そしてあらゆる傷を治せるヒーラーとして熟練の腕を持っている尾羽優の存在が、その注目度を数倍にのし上げた。
「そうかそうか。あんたらが最近噂のギルド『ウォーグレン』か。食い逃げ野郎を捕まえてくれて助かったぜ!」
無論、それだけで年老いたラーメン屋の店主にまで情報が繋がるはずはないのだが、その点は外部の協力してくれる組織の力により、ネットやテレビでも取り上げられ、彼らの名は瞬く間に世界中に広がった。
「ところで、そこの双子の兄弟はなんだ? 弟子かなんかですかな?」
「………………気にするな」
一つ問題があるとすれば、康太の義兄弟、古賀蒼野と、彼と全く同じ風貌をしているゼオス・ハザードの扱いだ。
蒼野とゼオスの二人が手にしている、他の者は決して手に入れられない能力、すなわち『希少能力』はとても強力なものだ。
この能力について相手が知っているか知らないかで相手の戦略が変わることは当然の事、二人の事を危険視する相手から狙われるリスクを回避するため、二人の情報は隠蔽することとなり、結果として二人は残りの面々の下っ端のような扱いになってしまった。
「にしても、この手の事件が最近は多いっすね」
蒼野とゼオスが不機嫌になる話題を避けようと、肩に黄色い鉢巻を巻き、『百発百中』と書かれた黒の布地に白い文字のTシャツを着た康太が、テレビに映ったニュースを見てほぼ反射的に口にする。
そこに映されていたのは『境界なき軍勢』と呼ばれている組織が世界中に与えている様々な被害に関するニュースであった。
「ああ。馬鹿共が暴れまわるせいで、商売あがったりだよ」
蒼野達が捕まえた犯人を忌々しいものを見るような目つきで睨みながら、店主が言葉を返す。
総帥である黄金の鎧王『ミレニアム』の思想に共感した者が集まる集団『境界なき軍勢』は、五人や善が他多数の指導者のもとで修行をしている際にも勢力を拡大させ続けていた。
中でも一年以上前から行われていた襲撃地点の全国放送の効果は絶大で、予告通りの場所に現れては様々な障害を蹴散らしていく姿は、武力による世界征服を良しと考えるものを大量に引き入れていた。
その中には高名な武術家や有名な犯罪者もおり、その脅威度は日に日に増していた。
「ま、俺みたいな一般市民からしたら、さっさと解決して欲しいもんだ!」
「一般市民って、おっちゃんめっちゃムキムキじゃないっすか」
「なに言ってやがる。こりゃあれだ。長年ラーメン作ってきた事で出来た見せ筋みたいなもんだ。戦いの役に何てたたねぇよ!」
「さいですか」
「…………食事も終えた。行くぞ」
自慢げかつ快活に笑う老人を前に積の笑顔が引きつる。
そんな状況を理解してかどうかはわからないが、ゼオスが積の肩を叩き食い逃げ犯を引きずりながら、留置所に連れて行くよう促した。
「ほんじゃま、こいつを連れてきますわ。また飯食いに来るかも知れないんで、その時は安くしてくだせぇ!」
「おう、一杯奢ってやるよ!」
そう言いながら、五人が揃ってラーメン店から出て行き、息を吐く。
「いやしっかし、蒼野じゃないがこれは胸が躍るな」
「だろ! いや前回来たときはお屋敷の中しかまわれなかったから悔しかったんだよな。こうやって来れて良かった」
気絶した喰い逃げ犯を引き連れ歩き回る彼らの周りには亜人も含め様々な人々がおり、五人ははぐれないように細心の注意を払いながら歩く。
彼らが現在滞在しているのは、世界中の『経済』の実験を握っている貴族衆の第四位、ロータス家が治める土地ウルタイユだ。
ウルタイユは世界最大の貿易として繁栄している都市であり、最新鋭の武器や重要な工事のためのパーツはもちろんの事、世界中で話題の雑貨や服に、様々な食料品なども全て取り扱っている一大都市だ。
「なぁなぁ、こいつ一人の運送に五人もいらなくね?」
「そ、そうだな。ここは誰かに任せて他の奴らは遊んでもいいんじゃないか?」
加えてただの貿易特化の都市という範疇には収まらず、世界中から集めた物資を利用し町の約半分をレジャーや観光客向けの施設として建築。
四つの勢力が様々な思想で交わり睨み合うこの世界で、誰でも利用できる観光地としても機能していた。
「ダメダメ。移動の途中で予期せぬトラブルだってありえるんだし。我慢しなさい」
「えー」
「それなら、そこらの物陰に隠れてゼオスの能力で移動とかは……」
「……はぁ。積だけじゃなくて蒼野も粘るわね」
控えめな様子で提案する蒼野に対し、太陽の光を反射させる程輝く髪を揺らしため息をつく優。
「あのね! それでアンタ達の能力がどっかに漏れたら、これまで隠してきた努力が水泡に帰すのよ。そんなリスクは取れないわ」
「う、ごめん」
「第一、アタシだって今すぐ町の散策をしたいのを我慢してるんだから、アンタ達も我慢しなさい!」
「「は、はい……」」
彼女の声を聞き蒼野と積が萎縮し、それからは誰一人文句や意見することなく留置所まで食い逃げ犯を運び、彼らは原口善を含めた六人で過ごしている『キャラバン』にまで戻っていく。
「ただいま善さん。見回りをしてたら食い逃げ犯を捕まえたわ」
「おう、ご苦労さん。戦闘はあったか?」
キャラバンの中に入り、廊下を歩きリビング兼食堂兼会議室として使っている部屋を抜け、事務室まで歩いて行く一行。
「ちょっとした戦闘になったけど、然程てこずらなかったわ。時間にして一、二分……程度かしら」
「そうか、なら書面でまとめる必要もねぇな。正式な依頼でもねぇし。ちと面倒かもしれねぇがここで報告だけしてくれねぇか」
「はーい」
優を先頭に扉を開き、椅子に座り書類の束と睨み合っている善に話しかけると、紺のダメージジーンズを履き黒のボロボロな革ジャンを着た頭をワックスでガチガチに固めた原口善は、疲労棍倍といった様子で顔を上げ、戻ってきた五人に返事をする。
「今回の件についてだけど、蒼野については課題だった風陣結界は完璧といってもいいと思う。攻撃は全部逸れたしね。積の物質の作成練度に関しては素人目に見る分にはそんな問題点はなかったと思う。アホさ……康太の近接戦については最後の最後で逃がしかけてたわ」
「こいつの実力は?」
「まあ……正直そんな大したことなかったです」
「そうか。まあ合格点は行くがおしいところ……八十点だな」
「あそこで一気に叩きのめしときゃ九十超えてただろうに。悔しいな」
自分のミスで点数が下がった事に康太がイラつき、息を吐きながら頭を掻き毟る。
「ところで、今日ってこれから修行だっけ?」
その後優が気軽な、しかしどこか浮き足たった様子で話しかけると善は再び顔を上げ、机の端に貼っておいたメモを確認。
「の予定だったんだが、ゲゼルの爺さんが来れないって姉貴から連絡があったんだよな。最近訓練続きだったし休みにするか」
「やった!!」
深く息を吐きながら口にした善の発言を聞き、蒼野や積が喜ぶよりも先に優が声をあげ飛び跳ねる。
よっぽど我慢してたんだなと、その姿を見て蒼野と積が内心でそう呟く。
考えてみれば優はスイーツの類が大好物で、この場所には世界中のありとあらゆる甘味も集まっているのだ。
二人と比べてみても、観光したいという気持ちは同じくらい強くてもおかしくない。
「イヤッホォォォォイ!」
奇声といってもよい声をあげながら勢いよく飛び出る優を見送り、それに続いて積が出て行こうとするが、善が積の襟首を掴みそれを静止する。
「ちょ、なんだよアニキ!」
「お前は俺と書類整理だ。ほら、こんだけやってから行け!」
「えー!」
兄の言葉に対し、不平不満をこぼす原口積。
「元々事務作業がおめぇの本業じゃねぇか。それが終わりゃ好きにしていいから頑張れ」
早口でそう言いきる兄に対し、弟は嫌な顔をするものの文句までは口にせず、
「へいへい。なら、ちゃちゃっと終わらせますか!」
「正直俺の倍以上の量を、俺の半分以下の時間で終わらせられるお前が信じられねぇ…………」
目にも止まらぬ速さで動く積の両腕を前に善が不平等だとでも言いたげな様子を見せる。
「……」
その光景をどこか懐かしげな目で見ている蒼野と康太がじっと見ている横で、ゼオスが事務室から出て玄関へと移動。
「あら? あなたは確か蒼野、君?」
「…………悪いが人違いだ」
真っ黒なチノパンに手を突っ込みながら、日替わりで回ってくる受付番をする彼の元に、美しい銀色の髪が特徴のサングラスをした少女、この町の統治者である女性の娘であるルティス・D・ロータスが、真っ白なワンピースに少々早めの麦わら帽子を被って現れた。
その少女が口にした名を聞き少々ぶっきらぼうな様子でゼオスが言葉を返すと、少女はその答えに納得したように手を叩いたかと思えば、来ている真っ白なワンピースを揺らし、慌てた様子で何度も頭を下げ始めた。
「す、すいません! 二度と間違えないように気を付けます!」
その様子があまりにも必死であったため、胸に溜まっていた僅かな苛立ちもすぐに解消され彼は息を吐いた。
「……気にするな。むしろ一目でわかる奴の方が少ない」
「そ、そうなんですか。あ、積さんはいますか?」
「……奴は事務作業の最中だ。用事があるなら伝えておくが?」
「そうですね。ルティスが来たと伝えていただければ嬉しいです」
「……心得た」
彼女の伝言を聞いたゼオスが、すぐに踵を返しキャラバンの中へと戻ろうとする。
「あ、それと人違いでしたら申し訳ないのですが、もしかして最近レウ君にあいましたか?」
「……レウ君?」
しかしその時ルティスが口にした名前を耳にし、彼は不思議に思い立ち止まる。
「……ルティス・D・ロータス、貴様は一体誰の事を言っている?」
「あ、そんな疑惑の心を向けないで。胸が苦しくなる」
その後すぐに振り返り、理解のできない名を告げた少女にそう返すと、その様子を見ていたルティスがサングラス越しに目を両手で覆い下を向く。
「…………悪いことをした。すまなかったな」
彼女が生まれながらにして魔眼を所持しており、その正体が相手の心の状態を見透かすものであると思いだしたゼオスが素直に頭を下げ、
「い、いえ。私が少々繊細過ぎるのは良くないのです。お気になさらないで下さい」
その様子を直視しないよう細心の注意を払いながら、少女が亀のようにゆっくりとした動きで顔を上げると、目の前にいる人物が既に落ち着いた感情の『色』と『形』、そして謝罪の言葉を『思っている』のを確認し、彼女も息を吐いた。
「……話を戻すがレウというのは誰だ?」
「そ、そうでした。その話題でした。えっと、レウというのきゃ!」
その時、普段からあまり動いていない彼女が一歩前に出ると体勢を崩し転びかける。
「おっと、あぶないぞお嬢さん」
それを支えようとゼオスが動こうとするが、そうするよりも早く崩れ落ちる彼女をがっしりとした掌が支える。
「あ、ありがとうございます」
見ず知らずの他人に支えられたことで僅かに気後れした様子でルティスがそう返すと、男が柔らかな笑みを浮かべながら頷き、それからすぐに周囲に目を向ける。
「ところで、知っているのならばぜひ教えていただきたいのだが、『ウォーグレン』というギルドはここで会っているのかい?」
何げない様子で尋ねる青年だが、ゼオスはすぐには答えず口を閉じる。
そうする理由は二つあり、半年前に起きた事件の経験から、相手が依頼人とはいえ多少の警戒はしておくべきだったという反省をしたため。
そしてもう一つは、この男がどこからともなく現れたからである。
「『ウォーグレン』でしたら、この建物の事ですよ」
「そうでしたか。これはご丁寧にどうも」
だがその思惑をルティスが察しきれるかは別問題だ。
彼女は親切心から男に答えを教え、それを聞いた男は穏やかな笑みを浮かべた。
「……ルティス・D・ロータス」
「はい。て、え。なんで怒っているのですか!?」
思わぬ感情が向けられたことに戸惑い、再び慌てだすルティス。
それを見て僅かに罪悪感が湧いたゼオスは一度だけため息を漏らすと、考え方を改めた。
こんな街中で暴れるような輩はめったにおらず、なおかつ中には世界最強クラスの実力者原口善がいるのだ。そう大きな騒ぎになることはない。
かつて自分が世界の中心で大暴れしたことを隅に置き、ゼオスはそう考えながらルティスの方に向き直った。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
という事で本日二話目!
まだまだ書いていきます!
その影響で誤字脱字は大目かもしれませんが、ご了承いただければ幸いです。
さて、今回から用語集を始めましたが、今回は取り急ぎ説明しなければならないと感じた事二つについて説明しました。
普段は一つにする予定なのですが、この二つの要素は最重要ですので、一気に説明させてもらいました。
それではみなさん、また数時間後にお会いしましょう!