遭遇! 次代の星々 二頁目
用語集
粒子の圧縮/希薄
・粒子を使ったこの世界における戦闘技術の基本。
・人間は周囲に漂っている粒子や自身が体内で生み出した粒子を使い戦闘に活用するのだが、これらを圧縮または希薄化することで、基本固体でしか使えない物を液体や気体に、決まった形がない物を液体や固体として使う事が可能になる。また、固体化させず、それぞれの粒子の特徴を色濃く発現させることも可能。 例、炎属性→温度を上げる 氷属性→温度を下げる 風属性→切れ味を増す
・希薄化に関しては属性ごとの性質により出来る出来ないがあるが、固体化は全ての属性で可能。以下固体化させた際の難易度。
簡単(固い) 鋼→地→氷→木→水→闇→炎→雷→風→光 難しい(柔らかい)
・固体化させた物質は更に粒子を圧縮させることで硬度を上げることも可能。その際の硬度の増し方も上記と同様。
ゼオスが自身の側にいる同じ顔の少年に視線を向けた時、蒼野は口から泡を吐きだしており、体を丸めそのまま崩れ落ちたところであった。
「し、死んでるぅぅぅぅ!?」
「いや、驚きとか感動とかそういう感情が許容量を超えるとこいつは気絶するクセがあるんだよこいつは。まあそういう発作だと思ってくれ」
「それは……難儀だな」
一つ一つのリアクションが大きな少年は、ゼオスがロッセニムで出会った浅黒い肌をした南国テイストの服装をした少年だ。それに対し落ち着いた対応を返すのは姿形はゲイルやルティスと同年代だが、纏う雰囲気が他と比べ一際成熟している金の長髪をした美青年である。
「まずは落ち着こうや。最も困惑してるのはそこにいるゼオス・ハザードのはずだ。ひとまずは自己紹介といこうぜ」
それから一呼吸置くと、ソファーから立ち上がったゲイルが壊れたテレビを叩く勢いで蒼野の頭を叩く。
すると然程時間をかけずに蒼野が目を覚まし過呼吸を繰り返し、ほんの少しして正常な呼吸に戻る。
「うっし蒼野も落ち着いてきた事だし、まずはこいつら二人の紹介からだだ。まずこっちの不健康な肌の男がゼオス・ハザード。凄腕の…………剣豪だ。んでこっちの健康的な肌の奴が古賀蒼野。何度か話に聞かせた事がある、時間を戻す希少能力の使い手だ」
「ああ、確か以前君を倒した!」
「その通りなんだが…………もうちっといい思い出し方はなかったかお前さん」
「ゲイル殿。こう言っては失礼だが、レウ殿に構っていては日が暮れてしまう。省略できるところはするべきだろう」
最も離れたところで蒼野とゼオスを観察する腕を組んだ男が、若い見た目に似合わぬ渋い声で話す。
ゲイルがその言葉に頷くと、浅黒い肌をした少年は心底ショックを受けたような表情をしたかと思えば力なく項垂れ、咳ばらいをしたゲイルが気を取り直すと話を再開。
「さて、じゃあ問題のこっちのメンツなんだが、俺とルティスはいいな、何度か会ってるはずだ。んで残ったメンバーの紹介をするとまずさっきから喜怒哀楽が激しいこいつがレウ・A・ベルモンド。驚くべきことに…………こんな奴だが貴族衆第一位、ベルモンド家の次期当主さまだ」
「………………そうか」
「そこはもうちょっとリアクションして欲しいなぁ!」
会場の都合上いないわけがないと覚悟していたゼオスであったが、いざ本物を目の前にすれば、さしもの彼といえど動揺を隠しきることはできず、一瞬硬直した後に返事をする。とはいえその反応は本人からすればあまりお気に召すものではなかったようで、紹介された少年は肩を落とした。
「ふ……ふっ!」
自分でさえこの様子なのだ。蒼野がどのような反応をしているのか、そもそも意識を残しているのか気になって見てみれば、彼は心臓を抑え血が出る勢いで唇を嚙み、何とか意識を保っているような状態であり、その様子を確認したレウは、大きく胸を張った。
「んで次は、一人優雅に茶を啜ってるこの人。この人は」
「……その前に一つ聞きたい。俺を呼んだのは何故だ」
話を続けようとするゲイルを遮り、ゼオスが問いかける。
このまま話を続ければ蒼野が間違いなく気絶し、場合によっては心臓麻痺で死んでしまうのではないかと考えての行動だ。
「うん? ああ、そんな事が気になってたの? 別に大した理由じゃないよ。僕の顔はある程度知られてるからね。ちらっと僕が通った時、反応しない人を選んだ。いわば偶然だ」
突然の問いに対しても貴族衆最高位の御曹司である少年は不快に思わず言い返し、それを聞きゼオスの顔が僅かに曇る。
「……偶然、か」
「あ、あれ。僕何か悪いこと言った?」
「おいレウ! お前さんまた無自覚に人を傷つけて!」
「ちっ、ちがっ!? 僕は悪くない……はずだ」
「……気にするな。些細な疑問だ」
そう口にするゼオスの声は普段と比べほんの僅かだが弱弱しい。
別に大層な理由を求めていたわけではないのだ。だが、大きな変化を求めていたあの時、突如現れた少年に何とも言えない期待を抱いたのもまた事実だ。
そのため今レウが口にした事実はゼオスからすれば少々物足りないもので、その結果が今顔に出た表情であった。
「ま、ついでに言っとくとこいつがいきなりここに人を呼ぶようになったきっかけは、俺たちだけで茶会をやるには寂しいっつー何ともいえねぇ理由だ。それならそれで、どこで行われるかとかだけでも書いとけって思うんだがな」
ゲイルの提案はもっともなものだ。実際のところゼオスとてルティスから情報を貰わねばこの場所には辿りつけなかったと確信を持って言えるのだが、
「馬鹿だなぁゲイルは。そんなの全然面白くないしロマンもないじゃないか」
「……ロマン?」
その疑問の答えは、ゼオス・ハザードという人間にとって一生縁がないと思っていた言葉で返された。
「そうさ! 正体不明のチケットを貰って、それがいったい何なのかを必死に調べ、右往左往した末にここに辿り着く。そういう経緯の末に会えたらさ…………それってすごいロマンチックじゃないか?」
早口で自らの思いの丈を吐きだすレウ・A・ベルモンドだが、周囲の反応は冷ややかだ。
「まあお前が何と言おうと構わないが、一個ずつ調べてやってきたんじゃなくて、以前の茶会で話しに出た誘った奴の特徴がゼオスに当て嵌まったから、ルティスが尋ねて偶然来れたんだぞ。それはお前の考えるロマンから逸脱してねぇのか?」
「ま、それはそうだ。でもそれはそれでいいんだ。それだって偶然が元で繋がった関係じゃないか。そう言う出会いこそ、ある意味最大のロマンじゃないか!」
「なんでもロマンに言い換えますわね。ロマンチストなのでしょうか?」
「いやこいつの場合ただ馬鹿なだけだろ」
「ひどい!?」
地平線の彼方まで伸びている花園の中心で、声高らかに嬉々として、レウ・A・ベルモンドはそう宣言を行い、ルティスの困ったような視線とゲイルの冷ややかな返事、そして当の本人の涙声が周囲に木霊する。
「……運命」
「あー気にすんな気にすんな。レウはベルモンド家の次期当主ってことでスペックは高いんだが、ちと好奇心が強くてな。ああいう言い方が好きなだけだ」
「あ、あれ。僕今日すっごく馬鹿にされてない?」
ゲイルの言うことに嘘偽りがない事は分かる。
だがこれまで口にすることもなければ考える事もなかったロマンという言葉の出現に、なぜかゼオスは奇妙な感覚に陥った。
「それより次だ次。お前ら二人を案内してくれた人。その人はロムステラさんだ」
このままでは話が一向に進まない
そう感じたゲイルが一度咳ばらいを行い会話を進めるのだが、それに対し胸に手を置いた蒼野が待ったをかけた。
「ま、待てゲイル! 俺の心臓へのダメージがやばい。少し深呼吸をさせてくれ。出ないと破裂する!」
「大丈夫だ落ち着け。ロムステラさんとその次のクドルフさんはお前を殺す事はねぇ。その間に呼吸を整え紅茶を飲んで、意識を正常な状態に戻せ」
「わ、わかった」
矢継ぎ早に告げるゲイルに対し蒼野が応じると、ティーカップを持ったロムステラが隣にまでやってきて蒼野にそれを渡す。
「さて、紹介を続けるが、ロムステラさんはGの家系のお抱え執事長だ。Gのガノ家に古くから尽くしてる人で、執事の腕だけで考えるなら貴族衆一だ」
蒼野が失神していないかチラリと見ると、ゲイルが語った内容はどうやら心臓に響く類の情報ではなかったらしく、紅茶を飲み心を落ち着かせている様子で老人に会釈していた。
「んで、奥で俺ら全員を見張ってる人はクドルフさん。Hの家系、ガンク家が雇ってる傭兵だ」
「……傭兵? 身内意識が強い貴族衆が傭兵を雇うのか?」
「ガンク家は傭兵稼業が専門の貴族衆の中ではちと珍しい家系でな。経済力とかはそこそこで、腕っぷしの強い奴らが集まった武闘派の家系なんだよ」
「貴族衆にもそういう家系がいるんだな」
「そりゃいるさ。四大勢力に名を並べるんだ。ある程度の武は備えてる」
その後紹介された人物は彼らの想像するようなタイプとは全く違ったのだが、他の勢力と肩を並べるために必要な存在であると説明されれば、素直に納得できる事情であった。
「……傭兵稼業という事は、ギルドにも入っているのか?」
「ああ。確かアトラーつったかな。かなり規模もでかいし、ギルドランキングでもトップテンの常連だぜ」
「アトラー……」
すると何気ない様子でゼオスが質問を行いゲイルが説明を行うのだが、そこから出た答えを聞き緊張や驚愕からではなく、後悔の念で蒼野は胸を締め付けられた。
「…………蒼野君。我らの主は言ったはずだ『気にするな』と。お前ともう一人の少年は、十分なことをしてくれた。だからそう悲しそうな顔をするな」
自然と涙が零れ落ちそうになる蒼野だが、そんな時彼に対し話しかけられた年齢に似合わぬ男の声が、なぜか彼の耳にはっきり聞こえる。
すると泣きそうだった気持ちがすっと引いていき、彼方へと消えていく。
「少なくとも……死んだ彼女はお前には前へ歩いて欲しいと思っていたはずだ」
「――――はい」
この場にいる誰一人として共感することのできない過去に、多くの者が首を捻る。
ただ当の本人は、そう言われただけで幾分か楽になったようで、柔らかい息を吐くと、残っていた紅茶を飲み干し、近くにあったテーブルにティーカップを置いた。
「で、えーとだな………………最後の一人はシリウスだ。まあ、こいつについてはまあテレビでよく見るだろうから知ってるだろ」
「よろしく」
一拍置きながら紹介されるこの場で最も優雅で気品に満ちた空気を発する男なのだが、彼の事だけは初対面であるがゼオスも多少ながらも知っていた。
膝まで伸びた金の長髪に、白を基調にした服装。長身美麗の青年が胸に付けているのは、丸い球体を中心に添え、その左右から羽が生えている紋章だ。
本名、シリウス・B・ノスウェル。六大貴族第二位ノスウェル家の御曹司。彼だけはこの中でも群を抜いた知名度を誇っていた。
というのも彼は二千歳を超える貴族衆の生き字引、ヴァン・B・ノスウェルの一人息子であり、有事における指令圏以外の全ての命令権を持った、実質当主の座につく青年である。
彼らノスウェル家が支配している領域は貴族衆の根幹とも言える『経済』全般。
彼は二十歳を超えたばかりだというのに、貴族衆全体において最も重要な『財』という面でトップを走るノスウェル家をまとめあげ、更なる発展を成し遂げた才気に溢れた傑物で、その美貌からメディアの露出もかなり多い。
「……古賀蒼野」
ゆえに僅かながら畏敬の念を抱いていたゼオスであるが、その視線は自然と蒼野に向けられる。
「…………」
レウ・ベルモンドの時と同様かそれ以上に取り乱すと予想していた彼であったが、予想に反し取り乱した様子はなく、ただじっとシリウスを見ており、
「以外にも……」
「驚いていないようですな。いやはや、わたくし等とは比べ物にならない人物であるため、もっと取り乱してしまうのではないかと考えていたのですが、どうやら杞憂であったようですね」
その反応が少々意外だったゲイルとロムステラの言葉にゼオスも頷く。
「いや待て。もしかしたら彼は」
しかし数秒経っても瞼さえ動かない姿にクドルフと呼ばれた傭兵は異変を感じ、ゼオスも心底億劫げに自身の頭に手を置いた。
「えっと、たぶんクドルフさんの予想している通りです。蒼野さん、立ったまま気絶してます」
「ええ……」
クドルフとルティスの発言を聞き、全員が唖然とする。
しかし徐々に青くなっていく蒼野の顔を見た一行のうち数名が蒼野の呼吸が止まっている事を確認し、心臓マッサージで息を吹き返したのを確認した後、近くにあった大きめのソファーの上に彼を眠らせた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
新登場キャラクタ―達の自己紹介の話です。
今回で結構蒼野達と同年代の当主の息子達が現れました。物語に登場する貴族衆の息子達は彼らで全員で、それぞれある程度の出番は約束できるかな、などと思っております。
次回からは今回のお茶会の本題へと入って行きます。
もしよければまたご覧ください。
あと、以前話していた一章の方へのお引っ越しは明後日位になると思います。
そちらについてはまた明日詳しくお伝えするのでよろしくお願いします
それではまた明日、ぜひお会いしましょう




