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遭遇! 次代の星々 一頁目


「念のためですが、チケットを確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、ちょ、え、」

「……失礼した。これだ」


 蒼野同様周囲を埋める光景に圧倒されるゼオス。

 そんな状態で投げかけられた質問を聞き、蒼野が慌てふためく中、ゼオスが僅かな時を置いて正気を取り戻し、手にしていたチケットを見せる。


「ああ、突然お声掛けしてしまい驚かせてしまったようですね。申し訳ございません。ワタクシ、ゼノン家で執事をやらせていただいております、ロムステラと申します」


 ワックスで固めた銀色の地毛を櫛で綺麗に揃え、灰色のスーツで身を覆った老年の男性。

 年季を重ねさせる面構えに知的な印象を感じさせるモノクルを付け彼は、自らの名を名乗ると、自身が彼らを驚かせてしまった事を理解し、深々とお辞儀をする。


「…………」


 鞘に手を掛けるゼオスの手がゆっくりと離れていく。

 敵意がない事を理解した故の行動だ。


「古賀蒼野です。今回は隣の……あー」


 すると蒼野が自己紹介を始めるのだがどうするべきか迷い言い淀み、

 

「ゼオス・ハザード様ですね。ルティス様からお名前は聞いております」

「そうそうゼオスです! いやー良かった良かった。ここまで来て名前隠すのも嫌だったもんで」

「……おい、気安く肩を叩くな」


 老人が自分たちの素性を既に知っている事を理解し安堵の表情を浮かべ、蒼野はこの上なく嬉しそうな様子でゼオスの肩を叩いた。

 その勢いでゼオスの体が僅かに揺れるのだが、本人はというとあまり居心地は良くないのか苛立たしげな声がその口から発せられる。


「ほっほっほ、お二人は仲がよろしいようで。チケットもお持ちのようですので、そろそろ参りましょうか」


 そんな様子を顔を綻ばせていたロムステラがそう伝えながら歩き出すと、その歩みに合わせ二人も移動。


「ロムステラさん。俺とゼオスは結構な距離を地上から降りてきたんですけど、ここって地下何階くらいなんですか?」


 老人の歩みはチケットの速度と比べ僅かに早い程度で、どれだけ先へ進もうとも続く美しい花園を堪能しながら彼らは先へと進み、その最中周囲を観察する蒼野がロムステラと名乗った老人に尋ねた。


「大変申し訳ありませんが、この場所についてはお教えすることのできないことになっているのです」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、ええ。ここは貴族衆全体でも重要度の高い場所でして。一般の方々には明かされていない、貴族衆の中でもごく一部の方しか知りえない秘密の場所なのです」


 心底申し訳ない様子で語るロムステラ。それに対しこれ以上蒼野は追及することもなく、緊張した面持ちで付いて行く。

 今の一言を聞いただけで、自分たちがとんでもないお茶会に参加する事になったのだと理解したからだ。


「こちらが、会場になります」


 それから更に一分間、然程舗装されておらず花の少ないところを歩いていたロムステラが歩みを止めると、そこはこれまでと何一つ変わらぬ一面の花畑であり、人の姿や声はもちろんの事、気配すら感じられない空間が目の前には広がっていた。


「ここが?」

「…………俺たちが最初に会場に到着したという事か?」


 疑問げに尋ねる蒼野とゼオスに対し頷く老人。


「いえいえ。そのようなことはございません。こちらをどうぞ」


 そう言ってロムステラから再び渡されたチケットを、蒼野とゼオスが不思議そうに眺める。


「そちらは手に張りつけてお使いください」


 その後促されるまま手に付けると、のりでくっつけたかのような形でチケットが見えない壁に張りつき、一度だけ紅色の波紋を起こし、それを確認したロムステラが何もない空間へと手を伸ばすと、その場所に対しノックを行う。


「皆さま。お客様が到着されました、失礼します」


 ロムステラがそう口にする先には何もない。

 どこからともなく吹く穏やかな風に合わせ、世界を華やかにする花々が揺れる景色があるだけだ。


「どうぞー」


 しかし世にも奇妙な事に、それから然程時間をかけることもなく何もない空間から透き通った声が返ってくる。

 それがルティス・D・ロータスの声であるとすぐに気づいた蒼野とゼオスの前で、老人はドアノブを掴むかのような動作で宙を掴んで捻る。


「ロムステラさん、お疲れ様です」

「これはこれは。わざわざありがとうございますルティス様」


 そうして無色透明の扉が開かれ中の空間を蒼野とゼオスが確認し――――息を漏らす。

 彼らの視線の先では、それまで誰一人おらず何もなかったはずの花園に、人が複数人おり調度品まで用意されている優雅なお茶会の空間が広がっていたのだ。


「ルティス君、彼らが君の言っていたお客様かい?」

「ええ。あの何を考えて作ったのかわからない招待状を元に、ここまで辿り着いたの」


 そう言って二人を二人に視線を向ける少女。

 その姿を確認し、少年少女よりも一回り年を経ている奥で腕を組んでいる青年が驚きに目を見開く。


「ほらほら! 見てくれよシリウスさん! やっぱり来れる人は来れるんだよ!」

「しかしレウ君。それもルティス君の助け合っての話という事じゃないか。となればそれは、君の求めていた『完全な偶然』かと問われれば、少し疑問が湧くな」


 その場にいるのは六人の内三人は、ゼオスが知っている顔だ。

 一人は先日チケットの正体を教えてくれた少女ルティス・D・ロータス。彼女は花園に置かれた真っ白な椅子の上に落ち着いた様子で腰かけ、柔らかな笑顔を浮かべている。

 二人目はトレードマークであるカウボーイハットを右手で鷲掴みにして、花の上に設置された本革の三人掛けソファーを一人で占領し足を組むゲイル・U・フォンだ。

 残る一人は、ロッセニムで出会った少年であり、彼は大げさな身振り手振りで、他の面々に自身の喜びを伝えている。


「……古賀蒼野。貴様の出番だぞ。奴らは何者だ?」


 まるで動物園の珍獣を見るような視線が入口に立つ二人に向けられる中、探るような声色でゼオスが蒼野に尋ねる。


「…………………………」

「……古賀蒼野?」


 ゼオスが蒼野をわざわざ呼んだ最大の理由が、自分の足りない知識の補完であった。

 今こそまさにその知識が求められている状況であり、肘で隣にいる彼を叩いてみるが反応は返って来ず、気になって見てみれば口から泡を吐いて気絶していた。


「…………」


 もしや自分はとんでもない役立たずを同行させたのではないか?


 そんな思いを込めながら、ゼオスは瞳を閉じ小さく鼻を鳴らした。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さて本日は新キャラがどんどん登場、かつ貴族衆の顔馴染み登場の回です。

彼らについては明日の投稿でその素性を語る事になりますが、立場で言えばほとんどがどこかの御曹司となっています。

ここで蒼野とゼオスが行う行動については……少々お待ちいただければ幸いです。


あと、今回は少々短めですが、明日はその分長くなると思います。

うまい切りどころがなくて、バランスが悪くなってしまった結果が今回の話ですので。


それではまた明日、ぜひよろしくお願いします


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