表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

貴族衆首都 クライメート 一頁目

用語集

貴族衆

・四大勢力の一角

・賢教とほぼ同等の歴史を備えているとされる遥か昔から形成されている二十六の家系からなる巨大な連合組織。一つの家系につき一つのアルファベットが割り振られており、Aに近い程格が高いとされる。

・中でも上位六家系は六大貴族と呼ばれ、貴族衆全体の運営をしている。

・こと『力』に置いては他三ヶ所に大きく劣るが、『経済力』の凄さでその分をカバーしている、四大勢力の中のバランサー的な組織で、神の座が今の世界を作るにあたり、かなり力を借りた組織



「思ったよりも普通なんだな」

「……以外か?」


 見知らぬを散策しながらぼやく蒼野に尋ねるゼオス。

 彼らが歩く周囲の風景は、綺麗に舗装された道路に手入れされた木々、ごく一般的な一軒家が並ぶ住宅街という、ある程度法や社会基盤がしっかり整備された土地ならばどこででも見る事ができるありふれた景色である。

 そんな一般的な景色を見せる町並みではあるのだが、問題はその都市の名だ。


「正直貴族衆の首都なんだし、もっとこう……派手でキラキラした様相かと思ってた」


 都市の名はクライメート。


 神教・賢教・ギルドと並ぶ四大勢力の一角『貴族衆』において最大の権力者であるAの家系、ベルモンド家が治める都市である。

 彼らが住むその場所は同じ六大貴族の一角、F・ファイザバード家と、もう一つ別の家系が協力し作り上げた人口島の三分の一を占めており、知る人ぞ知る名所の一ヶ所に数えられていた。


「……こと観光において情報通の貴様でも知らない事があったのか。驚きだ」


 そう口にするゼオスに対し、蒼野は困ったように笑う。


「いやまあ、南方向にある観光都市については知ってるよ。ただ、東側の景色ってのは外部の人間には漏らされてなくてな。こっちの事はこの都市に住む人以外はごく少数の人しか知らないはずだ」


 Aの家系が治める都市クライメートは端的に言うならば役割分担がしっかりされている都市だ。

 入口は海に面した南側と、他二ヶ所の家系と繋がる東側の入口のみとなっており、南側から他の方角の一部に行けるようになっている。


 四つに分けられた区画にははっきりとした目的があり、南側は観光に来た人々を迎えられるようレジャー施設や飲食店がまとまっており、世界中のお宝や貴重な歴史の資料を集めた博物館も設置されている。


 その対称の位置にある北側は、貴族衆第一位のベルモンド家の邸宅を中心に他三ヶ所のカテゴリーに属さないものが集まっており、最新鋭のロボット兵士を収納した倉庫や、緊急時に人々が逃げるための非難通路が設置されている。


 残る二エリア、東と西についてはこの都市で生活する住人にとっての空間とされており、今二人が歩いている東エリアには住宅街が集まっており、西側には彼らが生活するために必要な会社やショッピングモールが設置されている。


 「ま、無駄に豪勢にする必要もないってことかな。それよりも、もっとお金をかけるところがあるとか」


 そう思いながら外の人間ならば中々は入る事ができない東エリアを歩く蒼野にゼオス。

 そもそもの問題として、彼らがこの場所を訪れる事になった理由を説明するため、時は二時間前、キャラバンの中での会話にまで巻き戻る。




「……この招待状は、六大貴族最高位、ベルモンド家の御曹司から手渡されたものだ」

「「は?」」


 突如机の上に出された一枚のチケット。その正体を口にしたとき、珍しい事に善も含め全員が奇妙な声を腹から絞り出す。

 誰もが予想だにしなかった、あまりに荒唐無稽な内容を聞き全員が言葉を失いその身を固めたのだ。


「お前……何言ってんだ?」


 今ならば善さえ殺せそうなほど大きな隙からまず回復したのは、古賀康太だ。

 ゼオスが述べた内容を馬鹿馬鹿しいと一笑に伏しながら、彼はゼオスが取りだしたチケットを乱暴な手つきで奪い取る。


「ままままま待て康太! 破るな破るな!」

「ごはっ!?」


 次に動きだしたのはゼオスの思いもよらない発言を聞き、意識をどこか別の場所に飛ばしていた蒼野だ。

 蒼野は康太がチケットを手に取り両手で持ったのを見ると遥か彼方から意識を呼び戻し、康太が何か口にしたり動きだすよりも早く動き、全力で彼の頬を殴った。


「な、何すんだよいきなり!?」


 正気に戻った善と優、それにゼオスが急いで料理を非難させた机に、天井に頭を埋めていた康太の体が落下し沈む。

 その後しばらくして、真っ二つに割れた机のど真ん中から。康太が怒声をあげながら現れた。


「い、いや……両手でチケットを持ちだしたから……破り捨てる気かと」

「ちげぇよ! しっかり確認したかっただけだ!」

「そ、そうか……すまん」


 殴りつけた理由に対する康太の反論を聞き、自らが早とちりしたことを認め謝る蒼野。

 しかしそうして謝った時、視線を康太が持っていたチケットに移すと、ちょうど真ん中の位置で僅かにだが破れていた。


「やっぱり破るつもりだったんじゃねぇかコノヤロウ!」

「事故だ事故! 落ち着け!!」


 その光景を目撃し、普段は決して見せないような荒々しい様子で蒼野が再び殴りかかり、直感が反応した事ですぐに反撃することができた康太が蒼野が撃ち出した拳を止め頭部を叩く。

 そんな戦いが数十秒繰り広げられるが、最後は優が口にした『大前提として、もし破かれてもアンタが時間を戻せばいいじゃない』という言葉を蒼野が聞き、冷静さを取り戻した蒼野が謝ることでその場の空気は正常に戻った。


「それで…………そのチケットを手に入れたきっかけってのはなんだ?」

「…………それを今から話す。まずは落ち着け古賀蒼野」


 自分が手に入れたのはただの紙切れではなく強力な兵器のスイッチではないか?


 そのような錯覚をしながらも、いつかは殺したいと考えている相手をなだめるという奇妙な体験をするゼオス。


「……どこから話すべきか迷うところだが、まずはこれをどこで手に入れたのかというところから話すべきか」


 それから少しして蒼野の興奮した野生生物のような荒い鼻息が収まったの確認し、彼は話を始めた。


「……これを貰った場所については、古賀蒼野と共にロッセニムに行った際だ」

「一時的に離れてた時か。確かにあの時は監視役は俺しかいなかったし、その俺が離れてる間なら誰も知らずにそれを貰えるな」

「ん? 今聞き捨てならねぇ言葉を聞いた気がするぞ?」


 厳重に警戒をしていた初期の頃に、ゼオスの側を離れた事実に善が顔をしかめるが、それを見なかったことにしてゼオスが話を続ける。


「…………一時別行動になった際、俺は見知らぬ少年に話しかけられてな。敵意がない事だけはすぐにわかったゆえに話を続けていたが、貴様と合流する時間が迫った時にこのチケットを貰った」


 腕を組みそう発言するゼオス。しかしそれを聞きその場にいる全員が首を横にする。


「待てゼオス。テメェのその言い方だとその時点では貰ったチケットの価値がわかってなかったみたいな口ぶりじゃねぇか」


 すると康太が蒼野が戻した机に手を置き疑問点に指摘を行い、それに賛同し蒼野と優が頷いた。


「……貴様の言う通りだ古賀康太。興味があったが正体不明の人物から渡された謎のチケットだ。すぐに興味を失くし、貴様らに話すこともなかった」

「なるほど。でもそれじゃあ、どこでこのチケットの正体を知ったんだ。見たところ、場所を示したりする物は書いてないぞ? なんか仕掛けがあるのか?」

「……昨日貴様らが兄と慕う人物と過ごしてる最中にルティス・D・ロータスが来てな。知り合いが何か渡さなかったか尋ね、正直に話したら教授してくれたよ」

「ルティス・ロータスか。まあそれなら嘘偽りを語ってることはなさそうだな」


 彼女の性格についてはウォーグレンにいる全員が知っており、嘘偽りがないという事は理解する。

 なので善がそう告げると他の面々もそれに同意し、その上でなお康太は不満げに鼻を鳴らした。


「手に入れた経緯はわかった。で、じゃあ何で蒼野を誘おうと思ったんだよ」

「……こんな機会は滅多にないから、来れる人がいればぜひ誘ってほしいと、ルティス・D・ロータスからの伝言だ。その条件に当てはまるのがこいつしかいなかっただけだ」

「ちっ、なんでこんな時だけ真面目なんだよてめぇは」


 親指で蒼野を刺すゼオスを前に、康太が舌打ちし文句を口にする。

 しかしそんな態度の康太とは裏腹に、またとない機会に恵まれた蒼野はゼオスが鬱陶しそうに手を払いのけるまで肩を幾度も叩き続けていた。


「……なんのつもりだ古賀蒼野」

「いやたぶんだけど、お前をギルドに誘ってからこれまでで一番感謝してる。マジでありがとう」


 目を潤ませ鼻声になりかけた彼を、異物でも見るかのような視線で同じ顔をした少年が眺め、無意識にだが距離を置き顔をしかめた。


「まあそうピリピリすんな康太。知っての通りこいつには蒼野に手出しできねぇように呪いをかけてあんだ。お前が気にするような事は万が一にも起こらんさ」


 蒼野がこの様子となれば残る問題点は未だ納得できないという様子の康太だけであるのだが、そんな様子の彼に対し善が穏やかな声で諫める。


「…………まあ、そうっすね」


 そう言われてしまえば康太がこれ以上言い返すこともできず、なおかつ行き先までわかりきっているのならば、仕事を終えてすぐに自分も向かえば問題ない。


「おいゼオス」


 そう考えた康太が、厳重注意の意も兼ねて、彼に厳しい口調で接した。


「……なんだ?」

「蒼野をお前の都合で連れて行くんだ。下らねぇ事を考えるんじゃねぇぞ」


 原口善の拘束をどうにもすることができない自分の何を危惧しているのだろうかと考えながらも、康太の言葉に対し素直に首を縦に振り了承するゼオス。


 朝一から少々物騒な事態に陥ったが、そんな経緯を経て、蒼野とゼオスの二人はクライメートへと移動したのだった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さて、先日お伝えしていた通り、本日からは蒼野とゼオスサイドになります。

今回の舞台は貴族衆の本拠地クライメート!

神教の首都ラスタリアに続く、四大勢力の総本山です。

賢教の首都とギルドの首都(ここだけはちょっと違うかもしれません)も、また出てきますので、

お待ちいただければ幸いです。


今回の物語につきましては、未だ見えぬことが多いかもしれませんが、

恐らく早いうちに明かせるかなと思います


それではまた明日、よければご覧ください


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ