14.やばい。女子が足りない3
「今日もメイリーンは愛らしいね」
手を取りながらシエルが話しかけてくる。
その言葉は貴方のためにあると。毎回心の中で言い続けているのはお約束。
そして、手を繋ぐ事に毎回自分の顔が赤くなるのもお約束。いい加減なれてほしい。
今日は湖。
これまた無難なデートコースなのだが。これまた戦場に向かう途中喉が乾いたと池の水を探してるときに見つけたものだ。そのため
「メイリーンは自然豊かで美しい場所が好きなんだね」
と、慈しむように微笑まれても困る。
よく、ここにきて助けてもらってたなんて口が避けてもいえない。
「また、助けてもらったの?あの花のように?」
どうやら口が裂けてたようだ。
「え、今声でてました?」
「ばっちり。確かに落ち込んだ時にここへ来ると元気になりそうだね。水面も濁ってないし、緑豊かで空気も澄んでいてとても美しい場所だ」
ここに来るときは喉乾いて死にそうな時にである。元気になりはするが。
なんて心の中で訂正している場合ではない。とにかく、この話をずらしたい。
というわけで、用意してきたアイテムを相手に見せる。
「し、シエル様。今日はサンドイッチを作って来ました。一緒に食べて頂けないですか?」
「君が作ったの?」
「た、たまに、料理してみたくなる、時が、来たり?して?うん。そうなのです」
「王女なのに?」
シエルが目をぱちくりさせている。
やべ、王女ってサンドイッチ作んないっけ!?
「お、王女なのに、です。サンドイッチくらいなら作れるかと。シエル様と一緒に食べたくて!」
実際軽食が作れるか否かは死活問題である。戦場で仲間や敵など相手の料理が口に合わないときは自分で作らないと死んでしまう。
ラナックやユスタ、そしてミエルダにしてもらえば良いでしょとアイリーナには言われるが、彼らが私について来ているとは限らない。むしろ最初3日間くらいはいないと言っても過言ではない。
そのくらい、彼らを置いていってしまうのだ。
そのためサンドイッチやスープといった軽食を自分で作れるようにしている。
因みにお菓子は全く作れない。それは姉の分野だ。私は食べる専門。
きれいなドレス。美しい笑顔。可愛らしいクッキー。それらを装備した姉は最強である。
「得意ではないですけれど。よかったら……」とさらっと嘘をつきつつ、甘い声を出せば男どもはよってたかって姉のクッキーをたべにいく。それでは私の分は?となるかも知れないが、私の分は先に避けてあるので安心してよい。
何を説明し出しているのかよくわからないが、ともかく。
私は彼にサンドイッチくらいしか、出せるものはない。
姉曰くの『手料理大作戦』なのだ。
なんでも、クッキーで男をコロコロしてる姉がいうには、男は自分のために一生懸命作ったものというのに弱いらしい。
ほんとか?と、思いつつ。女子力アピールのためにやってみているのであるが。クッキーならまだしも、サンドイッチ。しかも、城の料理人ではなく、素人の私が作ったもので喜ぶのか甚だ怪しいものである。
「…………」
シエル様からの返事がまったくない。よく分からないがそっぽを向いて口元を隠している。なにそのポーズ食べたくなさすぎてドン引き中とか……?
やばい。これ失敗か?料理人もしくは姉じゃないとダメか?
混乱していると、シエルがサンドイッチを受け取りぱくりと一口食べる。
「嬉しい。それにとっても美味しいね。僕、メイリーンの手料理を食べれるなんて思ってなかった。」
「シエル様に喜んで貰えるなんて光栄です」
おお、意外にも女子力アピールはうまくいったのではないか?
よしよし。良かった。これで私もお腹いっぱい食べれそうだ。
パクパク。モグモグ。パクパク。
うん。美味しい。やっぱりキュウリのシャキッと感は大事だし、トマトも絶妙な……と、真剣に自分のサンドイッチの評価をしてるとじっとこちらをみるシエルと目が合う。
「……し、える、様?」
「美味しそうに食べるメイリーンを見てると心惹かれるね」
……?どういう意味だろう。心惹かれる?サンドイッチが美味しそうてきな?
「あ、まだ沢山あるので、食べてくださいね」
「……もちろんそのつもり」
苦笑まじりに息をついたシエルは私と反対側を見ながら、おかしいな、なんで伝わらないんだろ、うーん。と呟き出している。
何の事なのだろうか。まさか、実はそんなにおいしくない?それとも嫌いなものが入っていたとか?
良くない方向へ考えていると
やはりもっと積極的な方が……?といろいろ呟いていたシエルが此方をむく。
そして指を伸ばし、私の頬に触る。
「メイリーン、ほっぺについてるよ」
シエルのしぐさに笑顔に胸がきゅっと締まる。あれ?おかしいな。急にお腹いっぱいになってきた。いつも倍くらい食べるのにな……。
「それと、口紅がよれちゃってるね」
「んぇ?」
やばい。
メイク落ちは女子力を低下させるわよ!
……と言っている姉の鬼顔(笑顔)が浮かぶ。
えっと口紅口紅……って待って私鏡ないと直せない!やべやべえっと
「メイリーン口紅貸してくれる?」
「え?シエル様もするの?」
そんな愛らしいお顔に口紅だなんて、女の子になるつもりなのかな
「目を閉じてメイリーン」
えぇ。私が見てない間に変身するつもりなんじゃ……?でも確かにちょっとだけ見てみたいような…
期待に胸を膨らませ目を瞑る
しかし、次に続いた言葉はそんな思考を裏切る言葉。
「僕に塗らせて」
え?って思ったのもつかの間。持っていた口紅を優しく奪われる。顎をシエルがいた方に、そして、若干上に向けられ、え?ん?と戸惑うばかり。
ただ、向けたものの、口紅が塗られる気配はない。何かが近づいてきて、顔の前でとまる気配。
「…………」
「……直ぐに騙されちゃうんだから。僕がこのまま手を出しても知らないよ」
思ったより近くで声が聞こえるなぁ。と思っていると気配が遠ざかり、口紅が塗られる。
うぅ、人に口紅塗られるのってこんなにドキドキするっけ……?ユスタやアイリーナがやってくれるときはそうでもなかったと思うけどなぁ。
「はい。塗れた。目を開けてもいいよ」
「あ、ありがとうございます」
か、顔が暑い。まともにシエル様のことみれない。
「本当に。すぐに照れちゃうね。まぁそこがとても……」
すぐに照れちゃう?他の人は照れない?つまりシエル様は、他の女の子にも口紅をぬるわけだ。ふーん。へぇー?ふーん。
あぁなんだかもやもやする。さっきまでの甘い心地が消える。
「メイリーン?」
様子がおかしいと気づいたシエルが戸惑ったようにメイリーンをみる。
「別に?良くわかりました」
「え?何を」
「シエル様は私以外の方にもよくこういう事をしてたのですね?」
「え?いやいやいやいやなんで?君だけしか」
「つまり」
メイリーンはシエルをすっと見つめる
「シエル様は私より女子力が高いんですね!」
「………………は?」
シエルの焦りつつ、でも期待に満ちた顔がとたんに消える。
だって、だって、そういう事でしょ。口紅が塗りなれてるなんて、ユスタやアイリーナみたいな女子力の高い人類だけ!それが、さらっとやれてしまうシエル様は女子力が高い!
なんて事なの!女子なのに、男の人に女子力が負けるなんて!
メイリーンはとても悲しくなった。
そして、その場に被害者がもう一人
「なんで?なんで、そういう結論?話の流れからしてそこは嫉妬してくれる所じゃないの?」
楽しい楽しいピクニックがお互いにどんよりした空気で終わる…………。