12.やばい。女子力が足りない
それはシエルが滞在して3日目の午後の事。
「ここは素敵なところだね。花で覆い尽くされてて、とってもキレイだ」
にこにことシエルが花に囲まれ笑う。
キレイなのは貴方の方!貴方の笑顔!その雰囲気!まとう空気!とメイリーンは叫びたかったが、心の中だけにした。
今日はメイリーンのとっておきの花園にシエルと来ている。花園といっても戦場を駆け巡っている際に見つけた場所である。
一面に咲く花。様々な色の花が咲き乱れており、早掛け大好きメイリーンが感動して足を止めた程である。
とても綺麗なところだと姉に一度見せた事があり、その姉の反応も良かったため今回は連れてきた。
ここへ来るっていうのは可愛らしい王女っぽい。
ただそれだけの理由。
花が好きとかない。花の種類もわからない。
なので、
「アイリスは今が時期なのんだね。こんなに咲いていると圧巻だ」
と、王子が話していてもアイリスがどの花なのかわからずきいてしまう事になる。
すごくカッコ悪い。
しまった……。予め花の名前くらい勉強しとくべきだった。かえって女子力の低さをアピールしてしまったような気がする。
後悔していると、目の前によく見た花がある。
「これ…」
戦場を駆け巡る際によく世話になっている花だ。
「メイリーンはこの花が好きなの?」
ふわりと天使が隣に降り立つかのように王子が隣にしゃがみこんでいる。
「確かにこれもキレイな花だよね。真っ白でメイリーンに似合う」
近いし、な、なんでそこで私の手を握るの!??
慣れないことに頭がついていかないメイリーンは、つい
「この花は、私、思い入れが、ありまして、何度も救ってもらって」
と、本当の事を言ってしまう。
「メイリーンを救った?」
拾わなくて良いところを王子は拾ってしまう
やば、えっとえっと、普通のご令嬢は花なんて食べないか。
そうなのだ。メイリーンは戦場で駆け巡る。そして、腹もへるし、大抵一人で突っ走るものだから、軍を、ご飯を、置いてきてしまう。そこでよくメイリーンは、食べられそうな花を見つけては空腹をしのいでいた。勝ってしまえば、そちらの陣地で何か食べればよい!この道中さえしのげればと、という意気込みで。しかし、まぁそれを王子に話す訳にもいかない。
「辛いとき…とか、散歩して、この花を見つけると元気になるんです(お腹事情的に)
それが、今までに何回かありまして、だから、つい、目にとまってしまうのです」
嘘は、言っていない。嘘は。でも、本当の事もいってないのがなんと心苦しいことか。
「へぇ。いいね、羨ましいな。この花。僕もこの花見たいになれたらいいのにね」
ふわりと口角があがる。笑っているのに、何故か寂しそうに王子は言う。
「どうして?シエル様は今のままの方が私にはとても嬉しいですよ?」
食べちゃう訳にはいかないからなぁ……。
「…………。ふふ。貴女には叶わないね。全く通じないどころか、僕ばかり。」
ふぅ。と一瞬息をはいた後
「メイリーン、いつか僕の事がうんと好きになったとき、この花を見つけた時の表情を僕にも見せてね。」
そういいながら、自分の頬にシエルの唇が一瞬触れたのを自覚したメイリーンは。
いつものように顔を真っ赤にしながら叫んだ。