001 プロローグ
女は靴音を刻みながら、通路を進んだ。
周囲には強大な魔物がひしめいていたが、そんなものにはお構いなく歩みを進めた。
最奥の扉を開ける。
赤い絨毯が敷き詰められた広間は絢爛豪華に彩られていながら、嫌味のない調度品で収まっている。
「お久し振りです、王」
階段状の玉座に収まって居る男を、女は見上げた。
「久しいな、女。何年ぶりだ? ようやく我のモノになると決心でもついたか?」
人ならぬ男の軽口に、人の道を外れた女は鼻で笑った。
「まさか。 今日はお願いがあって伺いました」
恭しく頭を下げる女に、男は応えた。
「ほぅ、また我に貸しを作るか?
言ってみろ、お前が我のモノになるというなら、幾らでも聞き遂げてやるぞ?」
ほくそ笑でみせるが、この駆け引きは成立したことはない。
もう何年も何度も繰り返されている会話だ。
最初に出会った頃は敵同士だった。
男は女の仲間の命を奪った。
あの時の女の悲しみと憎しみと、苛立ちの混じった瞳が何とも言えずそそられた。
容姿の美しさではない。魂がギラギラとしているのを感じた。
だからこそ、それ以降、何度も口説いた。
結果、どれだけ年月が経とうと、未だに堕とせないでいる。
女の性格はあの頃に比べると随分強かになったものだ、とこうやって顔を合わせる度に感じる。
「私が仇敵の貴方に添うとでも?」
「こうやって毎度、我に面倒事押し付けて何を言う。いい加減報酬として、いい加減我がモノになれ」
「追々考えてさせていただきます。 で? 聴いてくださいませんか?」
男はわざとらしく盛大に溜息をつくと、佇まいを直した。
「我にできる事なら申してみろ。プリズマーの賢者よ」
女も王に跪くと頭を垂れてみせた。
「王よ、本日はお願いがあって伺いました」
2018.06.24. 初稿
2018.06.29. 微訂正