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見落とし

 夜子さんの話を総括するとだ。

 自身と同じ能力者が惨殺される事件を知った夜子さんは、それを未然に防ぐべく、自分の能力を駆使して集め、保護している。その媒体となる団体は俊さんをはじめとする刑事組織が管理し、働きに見合った報酬を出しているということだ。

 特異小児連続殺人事件という存在を知った今、当時の夜子さんを思えば、きっと俺も同じようなことを考えていたやも知れない。

 

 しかし、そこで疑問となってくるのは俺自身のことだ。

 彼女は俺を紹介する際、『未能力者』だと言った。それはつまり、俺には能力が使えない、あるいは存在しないということに他ならない。

 だとすると俺は、何のために保護され、何のためにここで働いているのだろか、当然のように疑問が湧いて来た。能力を見分ける能力と、先を見通す能力、それらが複合されたものである『千里眼』を使う夜子さんが、何故俺を見つけたのか。

 

 一つの仮説が生まれた。


 俯く俺に声を掛けてくれた穂坂さんに甘えて、俺は思い切って聞いてみることにした。


「夜子さん」

「何でしょう?」


 振り返った俺に向けられる瑠璃色の瞳は、一切の濁りも孕んでいない。

 これだけ説明した後だ、おそらく俺が今から聞かんとしていることも分かっている筈。その上でこの反応だということは、俺は夜子さんを信じても良いということなのだろうか。


 疑念は晴れないが、先ず聞かないことには始まらない。


「貴方は俺に、皆さんに向けて言いましたね。俺は『未能力者』だと。その意味、お聞かせ願えませんか?」

「――ええ」


 頷くと、そこに至るに考えたことは、ただ自分に能力がないということを考えただけでは無いのだろうと指摘してきた。

 当然だ。

 なぜなら、あるであろう力をないと言う時には『無能』という言葉を持ってくるからだ。


「未能――つまり、今は『未だ』ということですか」


 夜子さんは静かに頷いた。


「それは今後、俺に何かしらの能力が発現する可能性が――いえ、発現するということですよね」

「ええ。異例だけどね」

「どうしてそう言わなかったんですか?」

「私がいつ、貴方を『無能力者』だと言いましたか?」


 揚げ足を取るのは、もはやこの人の専売特許だ。

 頭もよくない俺には、彼女に対抗する術はない。

 それでも、やはり頭にくるものは頭にくるものだ。

 彼女が俺に本当のことを言っていれば、いや、遠回しな言い方をしていなければ、俺はそれを加味した上での行動が――。


「分かっていただけましたか」


 ああ。

 結果に、代わりはない。

 仮定どころの問題でもないな、これは。

 ないものを引っ張ってそれを盾にしたところで、ないものはない。武器にすらならない。

 そんな曖昧なもので、俺がどうやって役に立てよう。


 事実、今回それほどの働きも出来ていない。


「理解していただきたいのは、貴方を戦力外として見ているのではないということです。今回はあくまで、新人である貴方を護ることも兼ねていると考えてください」


 敢えて言葉にされると、その逆を思ってしまうのが人間だ。

 現状俺は戦力にならず、ただ護られるだけの存在であるということだ。


 改めて考えると、相当に凹むな。

 彼女に誘われる際の決定打として俺は『貴方にはここで役立つことの出来る能力がある』と言われた。それが異能力を指すものでないにせよ、そのまま覆された感じがする。仮に異能力を指していたとしても、近くもないであろう未来の話をしていたということだ。

 

 彼女は俺を、どうしておこうと思っているのだろうか――


 あくまで現状だが能力を持たない俺は、そういった類の人間の餌にはなり得ない。

 どうしてこのタイミングで、俺は――


「ちょっと待てよ……何か――何かがおかしい」

 

 この際、細かいことは忘れて、夜子さんが救って来た人間を全て『異能力者』だと仮定しよう。

 未来であれ、俺は彼女にその才を見出されたから彼女にスカウトされた。一番目の波場さんも、二番目の穂坂さんも、助けた時には能力を”持って”いた。

 それに、さっき夜子さんが言った”異例”という言葉――。


「芳樹?」


 急に黙って心配させたのだろうか。

 穂坂さんが、下から顔を覗き込むようにして心配そうな表情をしていた。


「え…? あ、すいません、ちょっと考え事を――」

「……そんな真剣な顔して?」


 彼女の目に、俺はどんな風に映っていたのだろうか。

 いや、きっとそういう風に映っていたのだろう。

 珍しく頭を使って、少し険しくなっていたに違いない。


「少し、大変なことになっていそうな気がします」

「大変なこと?」

「願わくば、あまり当たって欲しくない……岩山さん、さっきの場所まで戻ってください」

「さっきの…!? 急に何を言い出すんだ新人。さっき俊の兄貴に言われたろう、帰れって――」

「いいえ、構いません。お願いできますか、紘輝さん?」

「お嬢……分かりました。とりあえずは何か言いたそうな顔をしている新人の話を聞きながら行きましょう」 

 夜子さんがいてくれて助かった。

 下手をすれば手遅れに――いや、それ以下も考えられるが、ひとまずは良しとしよう。


「夜子さん」


 俺は再び振り返って目を合わせた。


「何です?」

「いくつか質問を」

「構いません」


 夜子さんは真剣な眼差しでこれに応じた。

 ここは素直に感謝だ。

 

 さて、先ずは――


「組織結成以後、夜子さんが助けた――いえ、仲間にした数は全部で何人ですか?」

「ここにいるメンバーで全てよ」

「順番は覚えていますか?」

「勿論。さっきの二人以降、紘輝さんに倫也さんといった順番よ」

「最後です。俺に言った”異例”というのは?」

「芳樹さんの思っている通りかと思います」


 目を伏せ、静かにそう言った。


 なるほど。

 俺が思っている通り、か。


「ちょっと芳樹、何の確認よそれ?」


 穂坂さんが聞いて来た。

 他の三人も、おそらくは気付いていない様子。

 ただ一人、夜子さんを除いては。


「皆さんは、俺がさっき読んだ記事をご存知ですよね?」


 勿論、と頷く。


「夜子さんが言った”異例”というのは、そういうことです」

「どういう――あっ…なるほど、そういうことでしたか」


 眼鏡をくいと直しながら、波場さんが気付いて呟いた。


「男女児、大量惨殺というキーワードと生み合わせて考えれば、異例というのはつまり」

「能力は幼児期、あるいは少年少女期辺りに発現されるもの、ですね」

「はい」

「どういうこと?」

「まだ仮説の域を出ませんから、はっきりとこうだと断言は出来ません。ですが――確認です。皆さんはいつ頃から、自身のそれについて自覚なさいましたか?」


 俺の問いに対する答え。

 波場さんが七つ、穂坂さんは十二。岩山さん三浦さんは共に十三。

 そして夜子さん、六つ。初めは、単純に少し先の未来を視ることがあったと言うが、今はそれは置いておこう。


「そして俺、現在二十二です。異例というのは、そういうことでしょう」

「ちょっと遅いってことよね。でも、それがどうしたって言うの?」

「先ほどの対象です」

「対象って、あの借金おじさんがどうかしたの?」

「ええ、その借金”おじさん”です」


 その部分だけ強調して言うと、流石に皆が気付いたようで、一斉に「あっ!」と声を上げた。


「夜子さんに起こる未来視は、能力を見通す力も兼ね備えている。そこに差異はありますか?」

「六回中六回とも、貴方たちを見つける為に行ったものです」

 

 答えは得た。


「見立てですが、年の頃は四十を超えているでしょう。つまり――」


 皆の顔色が変わっていくに従って、車の速度も上がっていく。

 急がなければいけないと、岩山さんも悟ってくれえたようだ。

 なぜなら。


「あそこで俺たちが見た三人ともが、悪。能力者は他にいたんです」

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