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恩讐の果て  作者: ひまめ
1/1

復讐の誓いを此処に


 こんな所で死んでなるものか。


「はぁ…はぁ…」


 生きてやる。生きて絶対…。


「…っ、はっ、か、ぁ…」


 絶対に、奴ら全員―――


「――――っ!!」


――――殺してやる!!






「…ん?」


 太陽の光を通さない黒で満たされた森。熱さえも感じられず逆に冷気を感じられそうな『死』に近い場所。そこに一人の男がいた。いや、一人と言うのには語弊があるかもしれない。何故ならその男は。


「こんな所に人間が来るなんて珍しい」


 既に人ではないのだから。


「どうしたんだいお兄さん。顔が青ざめてて今にも死にそうだよ。俺みたいに」


 人間あらざる者は自身の顔をちょんちょんと突きながら倒れる男に話しかける。


 誰がお前みたいだ。

 言葉を吐き出す力も既にないであろうに、倒れ伏す男は冷汗を流しながら心中で律儀に返す。男の身体は泥や木の葉に、自らが流し出す赤で塗り潰されて一体どこに穴が開いているのかも分かりはしない状態だ。見るものすべてが何故まだ生きているなどと思ってしまっても不思議でない風貌。

対してその男の目に映るは白く染まったローブと肉がきれいに削ぎ落とされた綺麗な指、果てには髪の毛も眼球も耳も綺麗になくなり陶器の様なツルツルとした綺麗な縁の髑髏、しかしそれとは違って見当たらない脚、どうやって動いているのかと思えば浮遊しているときた。おまけに全身半透明、

此処まで来れば誰にだって分かる。目の前にいる存在は霊の類であるということが。


「ちょっとお兄さん?聞こえないの?もしもーし、聞こえますかー。お兄さん聞いてくれてますかー」


 くどい。

しかし苛立ちを吐き出そうとしても出てきてくれるのはドロリとした血液のみだ。

その姿からどう悟ったのか霊は左の掌に右拳をポンと乗せる。


「もしかして喋れない?死まで秒読みで喋れないの?」


「…げぇ、かっ…べぇ…ぺ、はぁ…」


 分かり切っているだろうに煽り始める霊。舐め腐ったその姿に。男は意地を見せてやるとばかりに全身をゆっくりと動かし出した。

 溜まった血液を吐き出し、動く度に走る痛みもさらに強く流れ出す血液も無視して男は口を開く。


「俺を誰だと思っている。俺は、リーステイン国第十三代目国王、インシビリテス・アウレウスが第一子、ケイスレス・アウレウス!こんな所で、死ぬものか…!」


「………」


 その姿に霊は何も言いはしない。果たして何を考えているのか、能面の様な髑髏の表情からは何一つ読み取ることは出来ない


「でもお兄さんもうすぐ死ぬよ?」


 静かな声だった。


「お兄さんが何と言い張ろうと死はすぐそこまで来てる。その足首はもう掴まれていて、首に指が食い込むのも時間の問題だ。臭うしね」


「ふざ…けるな!死に場所は俺が決める!!」


 本来であれば喉が張り裂けそうなほどの大声なのだろう。しかし現実は所々擦れて放たれた薄っぺらな声だ。風にも負けそうなほどに弱々しく、響くことすらない。

 さらには、振り向いている方向は霊とは程遠い場所だ。


「お兄さんそっち違うよ。俺いないよそっち」


「―――っ!」


 噛み締めた歯の隙間から流れ出す血液。もう拭う力もなく、男はその場にへたり込んでしまう。


「こんな…所で、まだ、俺は…」


「何だいお兄さん。やり残したことがあるのかい?まぁそりゃそうだよね。お兄さん位の年頃だったら金持ちに―とか、女を山ほど抱きたい―とか、一攫千金―とかまぁいっぱいあるよね」


「……」


霊の言葉に男は答えない。もうそんな気力もないのかその目は胡乱だ。それでも霊は語り掛けることを止めず、男の周囲をぐるぐると回りだす。


「そこでなんと出血大サービス!なんと!もしかしたら!!貴方が蘇るかもしれませーん!!ひゃーすっごい!」


 その言葉に男の身体がピクリと揺れる。


「なんとそれはー!俺が貴方の身体にはい「やれ」―――え?」


 突然の声に霊は首を傾け男へと視線を移す。


「やれと言った」


「いや、でもそれ俺が乗っ取るだけで別にお兄さんが生き返る訳じゃ…、これ死人ジョークで…」


「構わない。ただし―――」


 再び立ち上がる男。既に視界は閉じかけて見えてなどいない筈、しかし男はまっすぐ霊を見る。擦れて紙切れの様な薄っぺらな声は大の男にも勝る力を宿し、荒かった息は死人の様に静かなものとなっていた。

 あまりにも矛盾した姿。先程まで誰よりも死に近かった男の筈が、今は誰よりも生に溢れている。


「その命に誓え!この俺の復讐を果たしてみせると!何よりも凄惨な死を奴らに与えると!!それが誓えるなら!この身、この名、この記憶、この命!全て貴様にくれてやる!!」


「―――――」


 最早何も言えはしない。目の前の死に掛けの男は、今自分を圧し、その膝を折ろうとしている。

自身を燃やし尽すほどの復讐の念がその男の瞳に煌々と灯されている。


「良いだろう」


 これ以上無粋なことはすまい。

 霊は先程までのふざけた姿勢を消し去り、悠々と男の前に立ちその顔を覗き込む。


「貴様の復讐、この私が叶えてやろう。一切の妥協をせず、何よりも凄惨な最期を迎えさせてやる。喜べ、貴様が最期に出会った者が私であったことを」


「ああ、天に感謝しよう。最後に貴様を遣わしたことを」


 復讐を願う物が天に感謝などと笑い話にも程がある。おまけに自身がこの身と同格であると言って憚らない傲慢さ。だがそれで良い。


「ああ、ではさらばだにえよ。次出会う時があるのならば最高の笑顔を見せるがよい」


「ああ、貴様がどれ程の復讐ものを見せてくれるのか楽しみにしていよう」


 互いに悪魔の様に嗤い、霊は男へと手を翳す。


「期待しているがいい」


 霊の言葉と共に男の視界は黒く染まり、その意識も消えていった。



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