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#3 自分で作らない唐揚げは美味しいって感じるものである(当社調べ)



先日、花火大会で上がる打ち上げ花火を見に行った時の事。


夕食はおにぎりにしようといわれ、雪華が作った特大おにぎりを10個持って仕事を切り上げた夏樹と蓮桜が帰宅すると同時に家を出た。

人混みも蚊に刺されるのも嫌なので、おっさんたちの意見で花火の見える場所に車を停めておにぎり片手に花火を見ることになった。

去年はまだ2歳がった季楽も、今年は4歳を目前にしてしっかりと花火の意味が分かるらしく、朝から

「花火まだ?花火行こうよ。」

と3分おきに雪華に言っていた。

よほど楽しみにしていたらしく、途中スーパーで飲み物と唐揚げを買っていると

「花火始まるからさっさとせないけんよ。」

と、おっさんたちをせかしていた。


昨年見つけた車内からばっちり花火が見える山の中の田んぼ道に車を停めて、車の中から打ち上げ花火を見上げるおっさん三人とお子様。

「すげー。」

「バンバン上がってくれるじゃん。」

夏樹と蓮桜は雪華の握った特大おにぎりをもさもさ食べながら、花火を眺めて感嘆の声を上げる。

「ギャー!すごいすごいいぃぃい!ビャーッ!」

梅味のふりかけおにぎり(大人と同様特大)をほおばりつつ、尋常じゃないはしゃぎ方をする季楽。

昨年までのぼーっとしていた様子がうそのようだと、おっさんたちはしみじみ思う。

「せっか、おにぎり美味しいわ。」

「おにぎりなんか手に塩付けて握っただけやから、だれが握っても味変わらんわ。」

夏樹が褒めてもそれを平気に無碍にする雪華。

スーパーで買った唐揚げに手を伸ばし、口に入れる。


-あー唐揚げおいしいわ。


雪華はしみじみそう思った。

味とか出来上がり時間なんかを無視して、自分が作っていないものは美味しく感じる。

毎日食事を作ると、大体の人間はそうなるのだ(当社調べ)。

自分で作ってない唐揚げサイコーである。

汗を流さず、手を汚さずに食べるものは美味しいのだ!

もともと食に対する興味もなければこだわりそのものもない。

雪華が毎日食事を作るのは、季楽の成長と夏樹と蓮桜への一日の労いなのだ。

雪華一人だと大体三食うまい棒と牛乳になる。

一人だと料理する気にもならないし、自分の食事でまな板を使うのも皿を洗うのも嫌なのだ。

世のお母さんはおそらく大体はこれである(当社調べ)。


10個あった特大おにぎりが、あっという間に夏樹と蓮桜と季楽の腹の中に消えていった。

唐揚げも瞬殺だった。

「帰りにお弁当買って帰ろ。」

「まだ食うんか。」

おにぎり5つなんて、夏樹にとってはおやつである。

おそらく腹六分にもなっていない。

そうだろうとは思っていたが、雪華はあきれてしまった。

「弁当残ってるかね?」

どうやら蓮桜もおにぎり4つでは足りなかったようだ。

「あるやろ。1つ2つなら。」

水でも飲んで腹を満たせと思いつつ、もうどうとでもなれと雪華が適当な返事をする。

「ひとーつ、ふたーつ!」

何がどうなったのか、いきなり季楽が数を数え始めた。

おっさんたちはみんな同時に季楽の想像以上の大きめの声量に、ビクッと肩を震わせた。


-何があったの?

-知らんがな。


前の助手席にいる蓮桜が後部座席の雪華と顔を合わせて、目で話す。

運転席で季楽を膝にのせていた夏樹だけが、季楽についていけてる状態だ。

「いくつまで数えられるかなー?」

夏樹の煽りに季楽の調子が上がる。

「みーっつ、よーっつ!」

ここまでは順調そのもの。

ただ“いつつ”という概念は、3歳児にはないものの取り方だったようだ。


「ごっつ!」


「ごっつ!?」


大人の発想では絶対にそうはならない季楽のそれに、大人三人は耳を疑い笑わずにはいられなかった。

「いつつや。」

「いつつ?」

夏樹のナチュラルなツッコミもじわじわと笑えてくる。

昨年は20時頃に季楽が帰りたがったため、フィナーレを見ずして帰宅した。

男だけの生活なんてそんなものだ。

花火は見たい。

しかし最後まで見たいなんて思わない。

ムードなんかよりも満足感が優先なのだ。

だからモテないのだが、そんなことはにすら興味のかけらもないから仕方がない。

男三人、それぞれどうしようもなくモテないわけではないのに彼女を作る気がみじんもない。

あくまで子ども中心、自分たちのペースで生きている。

今年は季楽が帰りたがらなかったので、フィナーレの直前まで花火を見ていた。

それなら全部見ればいいだろうと思うかもしれないが、最後の最後まで見たら道が混む。

それは全体に嫌なのだ。

帰りにコンビニで弁当を買って、家に帰った。


蓮桜と季楽には一応二人の家がある。

しかし家に帰るよりも佐渡嶋家に寝泊りする日が断然多い。

この日も男三人子ども一人で川の字で寝た。


夜中。

ライター業を深夜から開始する雪華が目を覚ました。

起き上がると、夏樹と季楽と蓮桜が三人万歳で寝ている。

不覚にも笑ってしまった。


-れおのこと、そろそろなつきと話さなならん頃合いやなかろうか。


このままの生活を続けているのは、蓮桜に体に限界が来る。

自らがいくつかの病気を抱えて手術まで乗り越えた雪華だからわかる、自分では気づかない体の疲労。

蓮桜のそれを、雪華は感じていた。



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