ひゅーどろろ
ちょっとちょっと! そう。そうだ。今アホ面で振り向いたあんただよ。あんた今暇だろ? ちょっと俺の頼みを聞いてくれないか。そのアホ面で青い鳥を探し歩くより有意義に時間を消費できるぞ。
あ? 暇じゃない? 嘘つくんじゃねえよ。お前みたいなやつに用事なんてそんな高尚なもんあるもんか。
んなもん知るかボケナス。俺の方が差し迫ってんだよ! だからうだうだ言ってないで笑顔で頼まれやがれ。
俺? 俺は……あー……自分で動くのたりぃんで。
あんたにそんなこと言われる筋合いはねーよ。俺とあんたの時間の価値は月とスッポン以上にかけ離れてるんだよ。調子に乗るな。
うだうだの次はやいやいうるさい奴だな! 毎晩俺に枕元に立たれたくなかったら黙って話を聞け。
このままアホ面のあんたが真っ直ぐ歩いてったら、黒い服着た陰気にも程がある人間が出入りする物々しい建物にぶち当たるはずだ。あんたのその……馬鹿まるだしの服装は浮くかもしれねーがまあいい。そのままその建物に入るんだ。その時に殺気立ったジジィに絡まれないように気をつけてくれ。難癖つけられて、揉め事でも起こしたら豚箱行きだからな。あんたには似合いだが。
悪い悪い口が滑った!
え? ああ、そいつはタバコがきれたら禁断症状を起こすお茶目なおじいちゃんなんだよ。禁煙中だから手が付けられないんだ。
今は高齢化社会でどんなキチガイ老害にも甘い世の中なんだよ。怒るなら世の中に怒れ。
えーとその後はライオンの雄叫びが聴こえる部屋に入ってくれ。
多分ガオーとかウォーンって感じだと思う。
動物園じゃねーよ。そのライオンには近づいたらだめだ。長々と語られてすーぐ夜になっちまうからな。
人間が宇宙に行く時代だぞ? ライオンだって喋れるさ。
そんで……その部屋の奥に行ったら、長い箱の前で汚い顔を更に汚してボロ泣きしてる奴がいる。
おそらく女だな。もしかしたら獣みたいに唸ってるかもしれない。
そう! まさにホラーだ。髪振り乱してめちゃくちゃに叫んでることも考えられるな。
多分呪いの呪文だと思うね。で、ここからが頼み事の本番だ。今までのはただのチュートリアルみたいなもんだ。
その汚い奴を、殴って欲しいんだ。面倒くさかったらそこらへんにある物を投げつけてもいい。
大丈夫だ! あんたに呪いが及ぶことは絶対にない。鼻水ぐらいは及ぶかもしれないがな。
その汚い奴が着てる服で拭いたらいい。
まだあるんだ。さすがに、物理的妨害を受けたらその女も大人しくなるだろう。女の耳を引っ張って、「んな汚い顔で泣かれたらうるさいんだよ! ポルターガイスト現象起こされたいのかドブスが」って俺が言ってたって伝えてスタコラ逃げろ。はいこれで終わり。簡単だろ。
俺の名前? あんたが入るその建物に墨痕逞しく書かれてるからすぐにわかるだろうよ。
やらなかったら承知しないからな。じゃ、俺はあんたとは違って忙しいから。さよーなら。