恋せよエトワール
まず、始めに。
この議題について、世界規模で考えてみるとしよう。
そうすると、挙げられる問題点はただ一つ。
この議題は、世界規模だろうと、宇宙規模だろうと何であろうと、指し図れないものだということだ。
なんてことだ。これではこの議題は永久に解決しないじゃないか。
問題も問題、大問題だ。このままでは国家滅亡…いや、世界崩壊の危機に陥ってしまう可能性が大きい。
でも仕方ないとしか言いようがないだろう。
何故ならば、それほどまでに、その存在が大きく、かつ、貴重だと言うことなのだから。
仕方ない。うん、仕方ない。
だって、俺が美しすぎるのは生まれ持った才能!その上、世界規模の超天才!神は俺に一物も二物も与えたのだ!これを仕方ないと言わずして何と言う?
たとえあの子のスカートの中だろうと、教頭のエキセントリックなカツラがエキセントリックな感じにズレていようと、あの人のスボンのチャックどころか逸物がはみ出ていようと、その事実は揺るぎないもので不変しえない事柄なのだ。
なんという完璧さ。なんというパーフェクトさ。
それが俺、周和真の………
「おい、周。お前、本気で反省してんのか、ああ?」
「…………何のことだ、通行人Bくん」
「Aはどこいった。つうか、誰が通行人Bだ。ふざけてんのかお前は。……で、書けたのか?もう一時間経ってんぞ」
「つうかー。なぁーんで、こ・の・お・れ・が・反省文なんて書かなきゃいけねぇの?」
「きけよ」
スパァン!という小気味のいい音で頭を叩かれる。
…地味に痛い。俺の美しすぎる頭蓋骨が歪んでくれたらどうしてくれるんだ、この不細工め…!とは、顔もスタイルも頭もパーフェクトな俺が言えるわけでもないので心の内に止めておこう。可哀想だし。
「あのな、周。全部口から出してるぞ」
「……あっ、やべ涎垂れてた…」
「………なぁ、お前さ、自分を美しいだとか思ってんならせめて行動だけでも慎んでくれよ。頼むから」
項垂れながらそう宣うBくんに首を傾げる。こいつは一体何が言いたいのだろうか?
……っは!もしや子猫ちゃんたちならず厳つい野郎までをも魅了してしまう俺にヤキモチを…!
「…ふっ、なんだそういうことか…」
「…………は?」
そうかそうか。なるほどなるほど。
だからこいつは俺にこんなにも絡んでくるのか。
だって可笑しいじゃないか。
この俺が。こ・の・お・れ・が!自分の美しさを御披露目することで、その他大勢の美的感覚を刺激しようと全裸で登校したとたん、待ち構えていたかのように目の前に立ち塞がるし。普段なら風紀委員長が出てくるところを、こいつが代わりに俺を指導室へ連れて行って服を着せるし。反省文書くのに付き合って(見張って)くれるし。その他にも……数えきれないほどの俺へのポイント稼ぎが見受けられるじゃないか…!
な、なん、なんということだ…!
「…おい、周…?」
「……すまない、Bくん」
「いや、あのさ。何回も言うけどBじゃ」
「お前の気持ちには、答えられないんだ…」
「………は?おま、何言っ」
「待った!それ以上口を開くな!お前の気持ちは痛いほど良くわかる。だが!」
「……なぁ、お前マジで何言っちゃってんの?」
この期に及んでまだシラを切るとは……そうか、なるほどなるほど。こいつ、もしやフラれるのが怖いんだな?まあ、告白もまだの内にフラれるなんて一生のトラウマものだ。
優しい優しい優しいやさ(中略)この俺が、そんな酷いことはできない。
しかし、俺にだって好みというものがある。流石に自分より見劣りするような引き立て役なの?な奴とは睦みあえないし…そこまで考えてどうしたものかとBくんを見遣る。俺の視線に気がついたのか、ぶつぶつと文句を垂れつつ書き上げていた反省文の一枚をチェックしていた目をこちらに向けてきた。至って普通の地味な……いや平凡以下の顔が怪訝そうに歪められる。
「…な、なんだよ…見てんじゃねぇーつうの、気持ち悪っ!」
じっと見つめる俺の頬を手のひらで押し遣り無理矢理顔を反らされた。
なんだよこいつ…!カッコ美し過ぎる俺に対して気持ち悪いとは失礼だ!なんて怒る前に、俺は見てしまった。Bくんが仄かに赤くしているその顔を。なんでお前照れてんの?
いや、そんなことよりも。
「…………」
ポカン、と美形にあるまじき顔をしてしまうほど、その表情は以外だった。俺の鼻がある日突然研ナ○コの鼻と入れ替わってしまう悪夢を見た時よりも驚いた。いや、ホントまじで。
「…なぁ、Bくんよ」
「…だから、Bじゃねぇっての…。つーかそれより早く終わらせ……何やってんのお前」
椅子から立ち上がり、Bくんの肩を掴む俺に、首を傾げながら見上げてくる奴に、先程までどんなに見つめられようと何とも思わなかったのにこれでもかと心臓が高鳴り出した。こ、これが恋と言うやつなのか…!?そして、鼓動すら美しい音なんて、俺はどれだけ完璧なんだ!
もう一度Bくんを呼ぶと、開きかけたその唇に衝動的に自分の唇を重ねた。
そして気づく。
形の綺麗なスラッとした美しい俺の顎にアッパーをくらい、数メートル吹っ飛ぶ中、俺はB専だったのかと。いや、別にBくんとB専をかけたわけじゃないよ。たまたまさ、たまたま。
あ、あと、Bくんの唇が予想以上に柔らかかったです。