肉体と精神の関係
肉体の定義とは何処にあるのか、そもそも肉体とは何なのか。その疑問を感じた時には、既に私は門の扉を叩いていた。ここは級帝曇叡神殿という場所で、かつて英雄だった格闘の神が祀られているらしい。私は神様なんぞに興味が無く、この場所に興味があった。
肉体とは何か。私が疑問に感じる以前からこの地ではその研究がなされていたようだ。研究と言ってもそんなたいそうなものじゃない。どこか宗教的でうさんくさく、それでいて信用性の高いというよく分からない評判だった。
私がその噂を聞いて、遠路はるばる日本にやってきた理由がやはり疑問だった。この疑問を解決できる可能性が少しでもあるならどんな遠い地にだって訪れる。それこそが格闘家である私の信念だった。
門が開くと、出てきたのは老人だった。それこそ伝説の格闘家を祀っていると自負しているだけあって肉体的には申し分のない。鋭い眼光を持ち、それでいて優しさを感じる。
一瞬で同業者だと確信した。
「ソナタを待っていたぞ」
「何故、俺が来る事を分かっていた」
連絡を取ってないにも関わらず、この老人は俺が来る事を知っていた。
「神の導きじゃ」
「導きだと?」
「ついて参れ」
こうして俺は神殿の奥へと案内された。奥の部屋はとても広々として、天井がかなり高い。そこには例の格闘家の神様をモチーフにした人形のような物が設置されている。
「あれはなんだ?」
「仏像という」
「その仏像を見せるために俺をここまで案内したのか?」
「違う。真相を明らかにさせるためだ」
「真相だと?」
その瞬間、私は宙に浮いていた。驚いた私はハッと目を見開くと、次に襲いかかってきたのは彼の蹴りだった。その一撃で私の意識は徐々に遠のいて行き、目が覚めると違う場所にいた。
あまりにも幻想的だ。
ありとあらゆる建物が空中に浮遊していて町を形成している。その町の周りには羽根を生やした天使がグルグルと散開しているのだ。私は一瞬、これは夢だと思ったが彼の『真相を明らかにしてやる』という一言を思いだし、これが現実であると悟るには時間はかからなかった。
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気が付くと、私は元の場所に戻っていた。眼前には先程の巨大な仏像が私を見据えるようにして立っている。そして私の周りには肉体を構築する術式結界が貼られていた。それを見て、何が起きたのか私は完全に理解した。
「良い旅だったか?」
神殿の主が、微笑みかけてきた。
「ああ……そうだな」
私は素直に微笑み返す。
「という事は、お前さんの日頃の行いは良かったという事じゃな」
こうして、私は真相を知る事に成功した。肉体とは入れ物に過ぎず、一度肉体が崩壊すると、別の世界で精神だけが生き続けるのだと。