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第二話『魔法使いと平和』  作者: 由条仁史
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第5章 冒涜の目的

『寺』勢力との戦いも終盤。肉体改造の『HRB』との戦い――そして彼らの目的。

 第5章 冒涜の目的



 昼前には『寺』に着いた。

「…………」

 しかし、人の気配がない。

 どうやらこの『寺』は二階建ての構造になっているようで、まあ寺に二階部分が必要なのかはともかく、一階にも二階にも人の気配はなかった。

「……入ってみるか」

 お邪魔します。と鞠は扉を開けた。




「鞠ちゃん、今頃どうしてるかなぁ」

「さあ? どうやら『RRQ』は倒したらしいけど。残りもかなり厄介だと思う」

「……というか、何らかの意図が働いているとしか思えないわよね」

「どういうこと? 何らかの意図――って」

「意図だけに誰かが糸を引いている気がするのよねぇ……だっておかしいじゃない。鞠ちゃんの魔法は、贔屓目に見ても決して強い魔法じゃない。そんな子を、どうしてこの最前線にもってきたのかしら」

「伸びしろ――じゃないの? レベルアップをさせようとしているというか」

「レベルアップ? ゲーム臭い言葉ね。二次元と三次元はちゃんと区別しなきゃだめよ『3N』ちゃん。いずれゲームの世界から帰って来れなくなるわよ」

「……べつにゲームしてるってわけじゃねぇから。いちいち揚げ足を取らないで、『C――濾過」

「ごめんね、だけども変よね。レベルアップなんて、ゲームじゃないから、下手したらあの子、死ぬわよ」

「――死ぬ」

「死んだら多分私は号泣するわ――泣き喚く。あなたたちの『戦う部隊』への攻撃も場合によってはやむなし――かしらね」

「……怖いことを」

「あら? 結構現実的な話よ? 自暴自棄になった私を――あなたなら知っているでしょう?」

「…………」

「怖い目、かぁ……そりゃそうか。でも、『今回』ストッパーになりそうなものは多分無いわよ」

「あのときは――ああ、『彼』がストッパーの役割を果たしたんですっけ。あなたの最終魔法を破ったという『彼』が――」

「そう、あの人がいたから、私はこうして生きているのよ……ふふ」

「……心酔、か。まあ、それについてはともかく、鞠が死ぬのは、こちらとしても損害が大きい。だってあの魔法は、とても便利だから」

「魔法石の状態操作、ね。だけれども万能ではない。電撃使いには、決して勝てない」

「断言――か?」

「断言――したくないわね。そうなってしまったら、私はきっと『魔法行』を潰すわ」

「……さっき言ったことよりもスケールアップしてないか?」

「『魔法行』のお偉いさん方が鞠ちゃんの出撃を決定したんだったら、当然でしょ?」

「……怖いことを、しないでくれよ。言い方は悪くて、前言撤回するつもりもないけど、鞠が死んだというだけでそんなことをされては困る」

「まあ――『HRB』に肉体改造されて、薄い本みたいにされていたとしたら、私自らが殴りこみに行くけどさ――」




 探ってみればまあ普通だった。

 一階部分はお堂とでも言えばいいのか、まあそういうやつで、そして広い部屋には長机がいくらかあった。おそらくここで魔法を教えているのだろう。教科書の写本もあった。

 二階部分は言わば住居スペースであった。台所と寝室くらいしかなかったが、まあその程度だろう。

 人は一人もいなかった。

「……もう逃げられた?」

 鞠という『魔法行』からの刺客から逃げるために、もうこの場所は捨ててしまおうという算段か――ありそうだ。二人減ってのこり二人なのだが、それでも教育によって魔法使いが増えるのであれば、戦力にもなるということか……多数との戦いであれば鞠のほうがいくらかは有利なのだが。もっとも、個々人のポテンシャルが低いという条件付きではあるが。

 しかしこれではここに来た意味はない――戻って逃げられたという報告をするだけだ。そしておそらく次にリベンジの時が来る――その時のために力をつけておくのだ。

 さて戻りましょう、と階段を降りる。そして降り切ったところに――ようやく、人がいた。

 人が――いた。

「やあやあやあ鞠さん。お話は聞いてますよ。なんでも、あの『14C』を倒したらしいですね。そして、今ここにいるということは、『RRQ』から逃げてきたというわけですか」

「逃げてはないよ」

 こんなことではいちいち驚かない。一階から二階を調べたとしても、地下があれば、そこに身を潜められるし、そしてこういう組織の場合は、その場合も多い。

 ということを今になって思い出した。

「ちゃんと――倒してきたから」

「でしょうね。知っていましたから」

 ――なんだと?

 単純な事実として、砂衣の住むマンションからこの『寺』までは約三キロほど離れている。車でならともかく、生身の人間が認識できる範囲ではない。

「人体改造の『HRB』……!」

 肉体改造で、千里眼を身につける。無茶苦茶な話だが、その無茶苦茶が通用するのが、この魔法の世界である。

「はい。私が、『HRB』です。魔法使い四人を引き連れて『魔法行』から脱走してきました」

 そして黒幕宣言――黒幕登場!

 しかし、『14C』は言っていなかっただろうか。『HRB』には簡単に勝てる、と。忘れていない。

 そんな、簡単に勝てる人間――魔法使いが、黒幕?

 あえて弱いように装い、重要な情報を語らない――という作戦だろうか? いや、思考が逆になっている。重役に見せて、自分を攻撃させない――という作戦か?

「しっかし、困ったものですよ……今の私には、もうほとんど魔力が残っていないというのに」

 暴露――いや、虚言と見るべきか? あえて警戒させるという……。

 考えたって仕方が無いな。

「言いたいことがあるならはっきりと言ってください。無いのならばはっきりと降伏してください」

 回りくどい言い方をしてもどうにもならない、今回の任務で鞠が学んだことだ。言いたいことは、しっかりはっきりと――

「ついて来てくれませんかねぇ。私の後ろを」

「どこに行くつもりなのか、まず教えてください」

「なぁに、そう遠い場所じゃあありませんよ、この『寺』の地下室です」

「……そこでバトろうって?」

「ええ、その通りですよ、お嬢さん――」

「……はっ」

 気持ち悪い。とりあえず鞠の中で彼の位置づけはそのように決まった。




 バトル自体は至極単純なものだった。いや、彼の使う魔法は単純に弱いとは言い切れないのではないかと思うバトルだった。

 人体改造やら人間兵器やら言っていたが、『HRB』の魔法の真髄はもっと深いところにあった。

 彼は、生命を生み出すことが出来るのだ――主に蛋白質で出来た、自らの欲求にしたがって動く生物を作る。

 まあつまりどういうことなのかと言えば、鞠は『HRB』の生み出した『キメラ』と戦ったのだ。

 戦って――圧勝した。

 なんてことはない。魔法石を糸状にして、縛り上げただけだ。もちろんその糸は相当に硬くしてある。ワイヤーやピアノ線を想像してもらえれば幸いだ。

 糸の方が、鎖よりも縛るのには適している――拘束するのに適している。なぜなら、鎖とは違い、糸は皮膚に食い込むのだから。

 食い込み――痛い。その食い込みが切れ込みへと変わることを恐れるのだ。それを用いて、むしろ攻撃用の武器としても使える。

 『HRB』の敗因を挙げるならば、数の力を使わなかったからということだろう。単一の巨大生物では、鞠に勝つことは出来ないのだ。

「この――小娘」

「やだなぁ、さっきまでの気持ちの悪い喋り方はどうしたんですか。キャラクターがわかりにくくなりますよ。もっとも、あなたのような雑魚について語られることはないでしょうけれどね」

 そんな会話をして。

「さて、ここからは尋問の時間ですよ。拷問なんてことはしたくないので素直に質問に答えてください」

 地下室――四方10メートルくらいの部屋で、床、壁ともに鉄ので仕切られている。梯子が壁に設置されており、そこから地上と地下を行き来することができる。

「まず、ここの教徒、つまりあなた方にしてみれば生徒、彼らは今どこにいるんですか?」

「――家に、いるよ。今日はちょうど定休日なんだ」

 なんだそれは――まるで本当に学習塾じゃないか。定休日? そんな余裕ぶったシステムでいいのだろうか。わざわざ『魔法行』から目をつけられて、『戦う部隊』から殺されるというのに、そんなに呑気なことを――鞠は笑ってしまいそうになった。

 こんなに呑気な連中と今までバトってきたのか、と。今まで戦ってきた連中が呑気かはともかく、こんな呑気なリーダーについてくるなんて――今度は逆に悲しくなってきた。

「次に、その教徒――『生教徒』とでも呼びましょうか。彼らの家とは、どこにあるんですか?」

 これは、『魔法行』に報告するための質問である。鞠はこまごまとした殲滅ではなく、どちらかと言えば主力を潰す――軍艦の種類でいうならば、戦艦とでも言おうか。そのような役割なのだということを自覚した。

「二階の、私の机の引き出しにその……『生教徒』の名前と住所が書いてある紙がある。願書だ。今もまだあるはずだ」

 願書――これまた呑気というか、拍子抜けである。

 そういえば、強制的な勧誘はしていないんだったか。だとしたら、機密保持を極限まで徹底する必要がない――否、だからこそ、徹底させてはいけないのか。ソフトな対応というのか、とても一般的なのだな、と思った。

「ではまた次の質問です――まだまだありますからね。あなたたち四人の魔法使いには――どういう関係があったんですか?」

「関係?」

「はい、わざわざ『魔法行』に目をつけられてこんなことをしようとする人なんて、そうそういないと思うんですよ。世の中には好き好んで自身を破滅に追い込みたい人間もいるらしいですけど――」

「破滅、ね」

 ふふ、と『HRB』は微笑した。

「ふふふ――まあ、初めは『14C』に呼びかけたんだよね。あの人も相当『魔法行』が嫌いだったからね」

「ダウト」

 それは違う――と鞠は言った。

「あの人は――いつでもどこでも、何も語らなかった。そういうような意見――主張を、するはずがない」

「だけれど、こんな計画に乗ってくれるというだけでも、既にその真意ははっきりしているんじゃないのかい?」

「――あなたたちのその活動に参加しなければならない理由があった、例えば、あなたたちに脅迫されていたとかだったら、話は違いますよね? 話というか、つじつまが合いますよね」

 だとしたら――

「『RRQ』の精神操作ですか?」

「ビューティフォー!」

 正解だ――と『HRB』は言った。

「まず最初は『RRQ』だ。彼の魔法は一家伝統だったらしいからね、他人と全く違う種類の魔法だ。有能すぎるというのも、また異端を作る。だから彼を誘ったんだよ。異端で――心が傷んでいなければね。そうでもなきゃ『魔法行』から抜け出すことを良しとはしないさ。はっきり言って、『魔法行』の教育方法は洗脳だ。『魔法行』たれ――一度そこに気づいてしまえば、あとは一押しするだけでいい」

「洗脳、ですか――」

 確かに、今自分がやっていることを考えれば、その言葉はまさに正鵠を射ている。

 人間三人の手足を縛りマンションに閉じ込めた上に、こうして尋問をする――『魔法行』のために。その忠誠心は洗脳によるものか――。

「私の場合は違いますけどね。仕事だから行った。死にたくないから戦った。それだけですよ。あなたが作ったあのキメラだって、ただのマスコットだったなら倒しませんでしたよ」

 洗脳――それがあまりに強大な場合はもう洗脳とは呼ばない。例えば信号機のルールに疑問を抱く人間がどれほどいるのだろうか。そしてその疑問の無意味さがわからない人間がいるだろうか。破れば轢かれる。わかりやすい――この『魔法行』も同じ。

 抜け出せば、殺される。

「そこからはまあ君の予想通りじゃないかな――そのあと二人を誘って逃げ出した。まあ彼ら彼女らはあくまでも護衛としてだけどね。だから教師の立場は私だけだよ」

「そうですか……」

 まあ、それが一番現実的か。力を持ちすぎていたら、先生にはなれない。というか、なるべきではない――のかもしれない。結局は生徒とのバランスなのだろうが。

「では、最後というか、大きな質問です――あなたたちの目的って、なんですか?」




 『魔法行』。

 具体的な組織構造やその位置は機密保持のために伏せなければならないが――その行動理念は明確である。

 魔法使いを閉じ込めて、保護する。

 魔法使いというものは見方を変えれば一つの兵器である。何もない場所から攻撃できる。そんな力を持ったものを現実世界に放り投げてしまったらどうなるだろうか。世界にとっても、魔法使いにとっても、危険じゃないか。

 そしてもし魔法使いの存在がまた知られ、今度は『魔法行』が襲われてしまったら――。

 『魔法行』の平穏は失われる。

 そうなれば『魔法行』の信頼は無くなり、逃亡者反逆者革命と称した破壊活動を行う者が現れるかもしれない。『HRB』のいうところの、洗脳が解かれるのだ。洗脳が解かれた後は――袋叩きだ。『魔法行』が壊滅するだけではない。世界が崩壊する。

 単純に――物理的な意味でだ。

 『魔法行』は、実はこれこそを恐れているのだ――。




「『魔法によって世界を救う』――その具体的な方法について、知りたいんだろう?」

 気持ちの悪い、耳にこびりつくような話し方で、彼――『HRB』は言った。既に戦闘自体は終わっており、だからここからは余談みたいなものだ。魔法の絡みのない、ただの与太話――

 いや、違う。あくまでも魔法というものを見る視点が違うだけだ。

 魔法の内部を見るのか、外部から見るのかという違い。ただそれだけだ。

「というより――お嬢さん、あなたは『魔法行』の外側に興味はないのかな。そこから考えれば私たちの目的は簡単につかめると思うのですけれど」

「生憎『魔法行』の外で暮らす気はないんですよ」

「それが危険だと言っているのですよ私は。まあいずれわかるのだろうけれど」

「何を言ってるの? さっきから。私は目的を聞いているの。私の個人的な見解は関係ないじゃない」

「ええそうですね――でも、鞠さん、そこから入らないと話が出来ないんですよ。私が言いたいのは、『魔法行』の外の話なんですから」

 魔法行の――外?

「つまりあなたは、『魔法行』の洗脳じみた教育方法、政策に反逆するために『魔法行』から抜け出した――わけではないということですか」

 鞠は再度質問した。

「そのとおり、物分かりがいいねぇ鞠ちゃんは」

「気持ち悪いです。さっさと言ってください」

「……現実世界で、今最も問題になっていることは、なんだか分かるかい?」

 この世界での問題――というより、人間社会の問題。いっぱいあるだろう。

 地球温暖化、人口問題南北問題、核兵器所持についての問題、領土問題に拉致問題――おもいつくだけでざっとこんなものか。もちろんそれ以上にさまざまな問題はある。どこもこれも一筋縄では行かず、今なお停滞しており――保留という形で放置されている状態にある。動いている人は動いているのだろうが、その成果は顕著に現れてはいない。

 そしてそれがどうして起こるのかといえば、利害の不一致、そして何より――資金不足である。お金がない、それが大きな問題なのだ。ただ刷ればいいのではないし、そしてそれをうまく運用しなければ意味はない……。

「つまりはエネルギー問題だよ。電気から始まって人力まで、力がたりないんだよ。この世界は――だから、私が出てきたんだよ。私たちが――ね」

 しかし、そのエネルギー問題を解決することが、できるとしたら?

 それも――魔法という方法で。

「グローバルな視点――魔法はもっと有効活用していくべきだ。でないと、魔法使いはいつまでたっても進歩しない。私は魔法使いの尊厳のためにも、こうして『魔法行』からぬけだした、そういうことなんだよ。理解してくれたかな?」

「……つまりこういうことですか? 魔法使いではない、普通の人間たちのために、魔法を使おうとしている。もっと分かりやすく言うと、新技術を持ち込んでいるって感じですか」

 魔法、という新技術。もしも世界に魔法があったなら、どれだけ便利だろうか――ということは誰しも考えたことがあるのではないだろうか。

 しかしそれは、魔法が使えない人の思考であり――『魔法行』内部ではその思考は存在しなかった。彼――『HRB』を除いて。

「そう……この世の中――現実世界は荒廃している。『魔法行』の内部では平和かもしれないけれど、ここではそうはいかない。常に何かにおわれている。問題は常に積まれていく……それは人間の欲望のせいだ。欲望が悪いといっているんじゃない、欲望を飽きに変えるほどの力がないことが問題なんだ」

 魔法行では、欲望が常に解消され――常に飽きが生まれている。現実世界は、そうではないのだ――

「魔法使いは――現実世界の希望なんだよ。すべての問題を解消する希望。『魔法行』はそれを理解していない。強大な力は兵器となりるが、エネルギーにもなりうる。核爆弾の技術が結果的に核融合炉を作ったように」

 核融合炉――ではないのだが。核分裂を利用した原子力発電所なら現在存在している――そして、人々の役に立っている。元は人を殺すための技術だったはずなのに。安全面にさえ細心の注意を払っておけば、とてつもない恩恵を受けることが出来る――!

 そして新たな可能性、魔法使い!

 魔法使いを増やして、エネルギー問題の解決を図る。とても簡潔な、そして何より――人を助けるための目的!

「魔法使いが――希望」

 こんな自分でも、誰かの希望になれる――そんな考えを鞠は持った。魔法使いになるということは、誰かの役に立てる人間になるということ。そしてそれは、誰かの認証を得たいという、現代人の心を埋めることが出来る――!

「だから、こんなことをしたんですか」

「ああ――鞠ちゃんたちにとってみれば、それは大したことがないように思えるかい? でもね……私にとっては重大な問題なんだよ。なぜなら――」


「私の両親は、魔法使いではないからさ」




 という、衝撃――といえるのかどうかは分からないけれど――のカミングアウトを受けた後、今度はリアルで衝撃が現れた。

「ぐっ――」

 揺れている。地震が来たかのように、鉄の壁で囲われた地下室が揺れている。鞠はたまらずしゃがみこんだ。

「ふふふ……ようやく来たか――『DghT』」

 『DghT』――それは、えっと――忘れてはならない――忘れてはならなかった!

「電撃、使い――!」

 今の今まですっかり忘れていた! 『RRQ』と『HRB』との連戦を勝ち抜き、慢心し、油断してしまった!

 敵は四人いた――黒幕がラスボスだとは限らないと、理解はしていたはずなのに!

 しかし――肝心の『DghT』の姿が見当たらない。何処だ? もしや『寺』の外か? 『寺』の外からこの部屋だけを揺らしている――壁も床も鉄の板なこの部屋を!

「いや――」

 もうすこし踏み込んで考えてみよう。そんなことをして一体どんな意味がある? この部屋を揺らすことにどのような意味がある? あくまでも揺れているだけ――部屋ごとぺしゃんこにするならわけはわかる。私を殺すのはそれが一番手っ取り早いだろう。しかしそうはしていない。『HRB』がいるからか?

「『HRB』――! 最後の質問です!」

 訊く。訊くしかない。この状況がどんな状況なのか――理解したい!

「ふふふふふふふ……ふはははははは!」

 しかし彼は――笑った。気持ち悪い笑い方――

「くくくけけ。ひゃあっはひゃひゃ!」

 気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

 既に敵の手中に入ってたというわけか――! その事実こそが最も気持ち悪い!

「『DghT』は――何処にいるんですか!」

 叫びにも似た声で問う――忘れていた、失念していた四人目の魔法使いの居場所を。

「この下さ!」

 彼は誇らしげに言った――宣言した。

「この分厚い鉄の床、その下に! 地下二階に! 『DghT』は監禁されていた!」

 監――禁?

「あいつが扱う魔法はとてもじゃないけど手がつけられない。だからこそ監禁したのさ――監禁という言い方は誤解を招くなぁ。保護――じゃあないし、飼育――でもないなぁ。――そうだ、待機! 待機させておいたんだよ……『DghT』を!」

 監禁ではなく、待機――? その言葉があるなら、最初からそういえばいいものをどうして一番最初は『監禁』と表現した?

「『魔法封じ』――の解除!」

 鞠は魔法封じの札を何枚か持ってきて――今もポケットにあるのだが――同様に、『HRB』らもその札を持ってきていたのか!

 札は魔法使い本人に貼り付けることによって効果を顕す――つまり、その札が剥がれたとき、元のように魔法を使うことが出来るということ!

「そう! 私は用意したのですよ――『DghT』を制御する方法を!」

 彼は懐から、携帯電話を取り出した――やられた! 鞠は思った。

「魔法封じの札を貼り付けて――この段階では苦労しましたよ――そしてこの携帯電話を操作することによってその札が外れる仕掛けを作った! 電気仕掛けですが、電気の使えない『DghT』になら問題はありません――もっとも!」

 床が――どんどん削られていく音がする! 直感的に、ヤバイと感じる――電撃を素直に、恐ろしいと思う!

 鞠は自身の右ポケットを探る――魔法石で今すぐこの部屋から脱出する! そう考えた――

 しかし、出てきたのは魔法封じの札だけ! 幸いにして接着面に手がつくようなことはなかったが――魔法石が、無い?

「くっ――」

 振り向く。何を振り向くか――『HRB』が生み出した大型キメラである。ぐるるると唸っているそのキメラは極細の糸で縛られている――鞠の魔法石である! ならばそれを回収して――このキメラが暴れまわったら――いや、そんな時間はもう無い!

「もっとも、『DghT』は、電撃を発さないと、ストレスがたまるという――魔法中毒者だ! だから――」


「もうおしまいだなぁ、まぁぁぁぁぁぁぁりぃぃぃぃ!」


 強い電撃に脳が一瞬参りそうになって、次の瞬間――



 鞠は地下から空中に投げ飛ばされていた。



                   第5章・終

                   第6章へ続く

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