遠距離私の方程式~ネット中毒の彼女の成れの果て~
私の名前は奥山結美。十五歳。東海地方に住む高校一年。私立の女子高に通うただのどこにでもいる学生。今年の一月にある動画投稿サイトにハマりそれから晴れてネット中毒となった。因みに、彼氏いない歴は約半年だ。
今日も学校から帰ってパソコンに向かう。そうそう、私はノートパソコンを愛用しているのだが、これはお年玉をはたいて買ったマイPCである。元は父のお下がりを使っていたのだが、やはり古くてソフトを入れると激しく重くて……最新式を手にいれてしまったわけだ。
「お! アリアが放送してる」
放送というのはさっき言った動画投稿サイトの機能で、簡単にいうと一般の人がネット配信でいわゆる放送ができるわけだ。使い方は様々でゲーム中継をしたり歌ったり雑談したりまぁ色々。
私もこの放送をする放送主である。私がするのは基本的に歌放送、雑談放送、ゲーム放送である。顔出しというウェブカメラを使った、実際に顔を聞き手に見せて放送をする人もいるが私は滅多にこれをしない。
「アリアは相変わらず歌がうまいなぁ」
キーボードを叩く。8のボタンを長押ししてある程度のところで切りエンター。
「舞那パチパチありがとー」
イヤホンからアリアの声が響いてくる。私に向けての言葉。葉月舞那、それがネットでの私の名前だ。
間も無くアリアの放送が終わる。私はマイクを用意して様々なソフトを起動し放送をする準備を整えた。画面右上の“放送する”ボタンを押し題名やらコメントやら色々な機能の確認をして開始する。
「はい、舞那ののんびり放送始まりました。皆さんゆっくりして行ってねー」
人が来るまで適当に歌い。人が来たら挨拶をする。リスナーがくれるコメントを拾い、お話をして歌のリクエストを貰い、歌ってまたコメントを拾う。そんな単調な作業の繰り返し。皆が8を連ねることで拍手をしてくれ、GJと書いてくれ可愛いとか上手いとか……お世辞でも嬉しいんだ。
「累計来場者数十名様、総コメント百一モア、今日は盛り上がったね。次枠も取るからよろしく」
枠を閉める。また同じ作業を行い枠を取る。夜にはネット通話でお話しして、眠る。その前に宿題だけはやらなきゃ。
最近は学校でも友達と仲良くやれてるし、毎日が楽しい。高校生になり勉強は大変になったけど、それにも慣れた。
でも、誰だって忘れたい過去や無くしたい思い出の一つや二つ、あるものだ。
私には付き合っている人がいた。その人とはネットを始めたばかりにの時にコミュニティサイトで知り合い、よく話すようになり、オフで会うことになったのだ。初めてのオフ会ではなかった。実は中二の時カラオケオフをしたことがあったのだ。でも、それとは話が違った。一対一で会ったのだ。彼は関西に住んでいて少し遠いけどわざわざ在来線を乗り継いでこっちまで来てくれた。カラオケに行って、それなりにリアルでも仲良くなって、ノリで付き合うみたいな感じにになった。でも、それから会ったのは結局二回。時にしてたった二ヶ月。私から、自然に離れて行った。
まず、罪悪感が強かった。親に内緒で色々して、とても辛かった。そして次に、違和感。何かが違う気がしたんだ。最後に新しい仲間。私には別の繋がりで新しいネット仲間ができた。それは大人数ですごく楽しくて、私に新しい風を吹き込んでくれた。彼と話すよりそちらの方がよっぽど面白い。次第に通話する回数も変化した。
結局私はそういう気分に乗せられてただけで彼のことは好きでも何でもない、そう思えて。
連絡手段をすべて絶った。
今でも、悪いことをしたと思い苦しくなる。でも今更、どうしようもない。よりを戻す気なんてさらさ無いのだし。
でも、似たような過ちをもう一度してしまったのは、本当に、いけなかった。後悔は一、二と積み重なっていく。辛い。
彼と出会ったのが冬休みなら、二回目の過ちは夏休みだ。どうしてこうも人というものは過ちを繰り返してしまうのだろう。阿呆らしい、きっと私は阿保なんだ。後悔すると分かってたはずなのに、また繰り返す。
「ゆみ、どうかした?」
プロフ画が光を放つと同時に鼓膜が振動する。
「ん? どうもしてないよ」
「そう、なら良かった。で、歌コラボだけど何する?」
「えっと、そうだなぁ」
私はその動画サイトに歌をあげている。今回はアリアとコラボしようという話になっていた。私達は互いにメアドを交換し合い、会ったこともある仲の良さ。二人だけの時は本名で呼ぶようにしている。
「なんかさ、明るい曲がいいよね」
アリアは言った。確かに、こうやって気分が沈んでいる時は明るい歌を歌うに限る。
「いいね、そうしよ!」
打ち合わせは二時間弱続いた。笑ってふざけて歌っておどけて、楽しい時間。そんな時だけでもいい、あのことは忘れていたい。
ある日、仲良くしている別の放送主さんとお話をした。その日私の放送には荒らしと呼ばれる人が来て少し落ち込んでいたのだ。話を聞いてくれたのは私より十歳ほど年上の男性放送主さん。ネットの世界だと多少の年齢差なんて全く気にならなかった。タメ口で気軽に話せる。
「大丈夫ー? 無理すんなよ」
皆がみなそう言ってくれた。チャットといういわゆるメッセージを飛ばしてくれる人もいた。
「大丈夫、なんとか」
正直誰かに話さないと辛くて泣きそうだった。男性放送主さんは一緒になって怒ったり悲しんだりしてくれた。最後には気にするなと励ましてくれた。私はすごくすごく嬉しくて、でも深夜のテンションが嫌な方向へと歯車を回し出した。
「遠距離恋愛ってどうなんだろうねー。特にさ、ネットで知り合った場合とか」
いきなりのことにその人は激しく動揺していた。私だっていきなりなぜこんなことを聞いたのかわからない。もしかしたらあの人と遠距離じゃなければ今でも続いていたのかなという浅はかな考えがあったからかもしれない。それはそれでどうかと思うがな。
後で聞くと、実はその人こそネットで知り合った人と付き合っている前例だったのだ。うまく、いっているらしい。
「人それぞれ考えはあると思うけど、俺は別に本人達が好きあっているならいいんじゃないかな。舞那はどう思ってるの?」
無難な返答。けど、私も同意見だ。
「互いに思いあってるなら、私も応援したい」
素直にそう答えた。その言葉に嘘偽りなんてなかった。本当に応援したい。
「でもさ、遠距離ってやっぱ難しいよね」
それは昔の私に言っていたのかもしれない。互いに学生であまり暇が無くて、それでも無理して来てもらう。それはあまり好ましく無い。それにあの人は、私に会うよりもゲームセンターでお金が使いたいようなそんな人だったから、きっと言ってくれたたくさんの言葉は私を騙すためのものだったんだ。
「疲れたや。私はしばらく恋なんてものと関わりたくないな。応援だけできればそれでいい」
これが私の本心。そうだよ私、わかってるじゃんか。
「まぁそういうのもいいんじゃないかな」
その人は笑ってそう答えた。少し心が安らんだ気がする。
「ありがと」
私の名は葉月舞那。十五歳。歌うこと大好きのネット少女。告白された経験あり。そのうち一人はネットの友達。
今は恋愛に興味なし。もう迷わないし流されない。私は私で、本当に好きな人がいつかは出来るって信じてる。
今は、気持ちの整理期間。今は皆友達。嫉妬したりするけど友達は友達。
そうだろう、奥山結美。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回はとっても短いお話でした。しかし、終わったわけではありません。この先、少女の未来を作るのは他でも無い読者様、あなたです。
良いも悪いも、あなた次第。幸か不幸か、苦か楽か。良ければ、あなた様が考えたモネ屋がたりを聞かせていただけませんか?
2012年10月6日 春風 優華