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火星の海≪惑星年代記1≫
副題 ≪惑星年代記1≫
【火星の海】
火星の海は冷たくて
わたしのこころは温かい
赤い地面は熱くて
わたしの足は凍えている
だから心地よい海に
わたしは飛びこむのだ
海をただよいうかんで
空を見上げれば
フォボスとダイモスの双子が
天にすれ違った
その向こうにうかぶのは
かがやく緑と青の星
あの光は夢のあと
うたかたに沈んだ世界よ
わたしもうたかたに
沈んでおちて
星のまぼろしを
水底に垣間見た
息が切れて
うき上がると遠い丘
ノアキス、ヘスペリア、アマゾンの
女神たちが糸を織る
その糸は海に落ち
青い魚に変わってく
魚は陸へ跳ね飛んで
石に姿をかえて
赤い砂へ砕けちる
いよいよ空も赤くなり
オリンポスの山風が
砂を運んで砂嵐
キンメリアの湖は
砂に濁り沈みゆく
地面は砂でさびていく
星の光はあざやかに
水は次第にうしなわれ
女神たちは地にふせる
わたしは終わりを感じて
星を見詰めながら
深い海底へと 沈んでいった
景色は夢幻のなかに消え
わたしは地球へかえろう