第2章・世界を知らない孤児
_________Dualblade....
〜第2章〜
俺には生まれたときから、親がいない。
何でいないのかすら分からない。
自分の名前も知らない。もしかしたら、名前なんて無いのかもしれない。
ただ生きるために、地面を這いずり回っていた。
人が捨てたものを食べるか、ボロボロの毛布に包まって寝るくらいしかすることが無い生活。
絶望する事すら忘れてしまい、希望の無い生活。
自分はそんな生活しか出来ない人間だとすら思っていた。
自分が住んでいる世界すら知らない。自分の寝床と周りの貧乏街しか知らない。
それが「世界」だと思っていた。俺はそんな人間だった。
今日も貧乏街で毛布に包まっている。体力を消耗しないように。
体は骨が浮き彫りになるくらいまでやせている。
いつもと同じようにずっと空腹に耐えていた。寒さに耐えていた。
だが、希望の無い日々の中、男の一言で俺の人生が変わることになる。
「君の名前は?」
ぼんやりとしか見えないが、俺の前に手が差し伸べられているような気がする。
顔を上げるとそこには男の姿があった。
不意に声をかけられたので驚いた。だが、驚いただけ。
人に話しかけられて名前を聞かれても、別に幸せとは感じられなかった。
むしろ苦痛に思えるくらいだ。
それくらい、人間と関わることが嫌いだ。ましてや、名前を聞かれるなんて、
自分が名前を知らないことを、馬鹿にされているように思えるから最悪だ。
だけど、この人はほかの人とは何か別の感じがした。ほかの人にあった、
刺されるような感じがない気がする。
「・・・知らない・・」
無気力な、小さくか細い声で俺が答える。
普通なら無視するのに、なぜかこの人には答えを返すことが出来た。
「自分の名前を知らないのか?とりあえずついて来なさい。君に「世界」を教えてやろう」
「・・・え?・・」
男はそういうと、俺を抱えあげると白い生き物らしきに乗せる。
「・・何ナノ?この生き物?・・」
初めて目にした、この白い色をした鉄の装甲で覆われている物は何なんだろうと思い、
男に尋ねた。
「なんだ、C/I(conduct・identity)を知らないのか?それに生き物じゃない機械だよ」
男はその生き物のような機械に乗りながらこちらを向いて不思議そうな顔をする。
「また後で教えてやるよ。とりあえず、俺にしっかりつかまっとけよ」
「あ・・うん・・」
俺は男の言うとおり、しっかりと男の腹の辺りに手を回し、しっかりとつかんだ。
____transfer(移行).....
男がそうつぶやくと、いきなり今まで感じたことの無い早い速度で走り始めた。
「うわっ!」
あまりにその速度が速かったので、驚いて思わず声を上げる。
「とりあえず、これからお前を孤児院に連れて行く」
こちらを見ないまま男がこれから行く場所を告げる。孤児院ってどこだろう?
世界を教えてくれるってどういうこと?どこかで労働をさせられるのだろうか?
「そういえばまだ俺の名前を言ってなかったな。俺はフィン・レイズ。
騎士を仕事にしている」
そんなことを考えていると、男が名前を教えてくれた。
しばらくすると、前が見れなかったくらいきつかった風にもなれて、
心地よく感じるようになっていた。
涼しい・・・・・こんなに心地よい風は感じたことは無かった。
いつも路上で感じている風とはまるで違う。
それに・・・・気づけなかったけど、人に抱きつくのも初めてだった。
初めて人のぬくもりを感じた気がする。
・・暖かい・・・・人がこんなに温かい生き物だとは知らなかった・・・・
§
「着いたぞ。あれ?寝てたのか」
いつの間にか、フィンさんに寄り添って眠ってしまっていた。
「あっ・・・・」
気づくと、大きな宿泊施設のような建物の前に着いていた。
「・・・どこなの?・・」
この殺風景な建物は何なんだろうと思い、フィンさんに尋ねる。
「孤児院だ。君のような親のいない子供が来る場所だ」
乗り物から降りながら、フィンさんが答える。
そんな場所があったんだ。知らなかった・・・・・
「もちろん、無条件でここに泊まってもらう訳じゃないぜ」
「え?」
「言っただろ?チャンスをやるって。君には軍事学校に入ってもらう。
否定すると言うなら屋根の無い生活に戻ってもらう」
「・・・軍事・・・学校?」
軍事って何?その言葉を聴いてまず思った。何かを学ぶ場所なのはかろうじて分かったが。
「・・・・知らないのか?軍事学校を?」
「・・うん・・・・」
フィンさんを下から見上げながら、コクリとうなずく。
「簡単に言えばこの国を守る仕事に就くための学校だ。剣術や魔法も教えてくれる」
その言葉を聴いて、急に胸が高鳴る。生と死の狭間をさまよっていた生活から、
家に住ませてもらい、そのうえ、仕事に就くことも約束される。
これ以上の幸せは無いというくらい、幸せな気分だった。
「本当にいいんですか?僕みたいな孤児でも、そんな仕事に就けるんですか?」
「もちろん。才能があればな」
それを聴いた瞬間、視界が明るくなったような気がした。
開けたような気がした。今まで無縁だった希望も、見えた気がした。
自分にもまともな生活が出来るんだ。そう思えるだけでも、孤児の俺には十分幸せだった。
「それで?答えは?」
「もちろん、光栄なことです。やらしてください!」
「急に元気になったな。じゃあ、登録しに行くぞ。名前は・・・自分で決めるか?」
「何でも良いですよ。フィンさんが決めてくれると嬉しいです」
孤児院の受付へ向かいながら答える。
「それじゃあ・・・・[ティファー・シーヴァイズ]ってのはどうだ?有名な騎士の名前だ」
「フィンさんがつけてくれた名前なら光栄です」
そうして、7歳にしてやっと名前を付けてもらえた。
産みの親につけてもらった名前じゃなくてもいい・・・
自分の名前があるだけで幸せだから・・・
これが自分の存在の証明になる気がしたから・・・・
そうして、俺の孤児院での生活が始まった。
この孤児院は騎士や魔術師候補の孤児だけが寝泊りする施設だ。
孤児院での生活は、ほとんどの時間が勉強に費やされた。
通常は8年かける基礎の学習内容を3年も早く終わらすのだから、本当に大変なことだ。
別につらくは無かった。家の無い生活のつらさを知っているから苦痛には感じなかったのだ。
むしろ幸せなことに感じるくらいだった。
それに、友達も出来た。「ケイシィー・レイズ」フィンさんの子供だ。
後で知ったがフィンさんの家系は代々軍隊に使えてきた、有名な家系らしい。
もちろん、フィンさんも腕の立つ騎士だ。
騎士の主な仕事は、人材の選別、重要人物の警護、戦争になれば騎兵の役割も果たすことだ。
人材の選び方は、特殊なコンタクトレンズで魔力を持っているか持っていないか
見極めるらしい。要するに、俺は魔力があったから、目をつけられたわけだ。
俺みたいな孤児が魔力を持っている例は、かなり珍しい。
普通は、貧乏な子供でも魔力を持っていれば国の支援で学校へ通える上に、
生活費の援助まで出る。
それでも捨てたって事は、俺の親はそんなに俺が嫌いなのだろうか?
それを思うと、少し気持ちが憂鬱になる。
まあ、今では俺を捨てた親なんか知ったこっちゃ無いって、考えてるけどな。
あと、魔力の無い人間はいくら希望しても、魔術師や騎士にはなれない。
この世界は階級制が厳しく、普通は孤児を雇うことなんて滅多に無いんだが、
騎士や魔法士に限り能力重視らしい。
中でも俺が一番興味をそそられたのが C/I だ。
「フィンさんが乗っていた、C/Iって何なの?」って聞いたら、
「騎士が使っている高速移動装甲機体のこと。名前の意味は「自らを導くもの」だ」
それに、一般の人にも有名な兵器らしい。
外見がカッコいいし、騎士の職業も有名だからかもしれない。
孤児院で過ごした5年間で、ずいぶん自分のいる世界の知識が増えた。
その知識のほとんどはケイシィーから教えてもらった。(もちろんフィンさんからもだけど)
ケイシィーは俺と同い年で、別の学校に通っていが、
それでも、孤児院とは比較的近かったので、よく遊びに来てくれた。
そんなことを繰り返すうちに、気づけば俺たちは親友の仲にまでなっていた。
そして、12歳の春。俺たちは同じ軍事学校へ入学することになった。
<続>
・あとがき
今回は前とは大違いで、説明が多いです。
でも、世界観の説明とか足りないかも・・・
意見があったら歓迎します。