土下座婚約者
閉じられた扉がある建物を見ると、それは古い蔵のようだった。
山の中に隠すように作られていたらしく、周りの木々の雰囲気はあの祠があった辺りに似ている。
とはいえ山の中のことなんてわからないし、そんなことをゆっくりと調べている暇もない。
いつ、立花さんたちが様子を見にくるかわかったものではない。
ジャケットに隠してある妖刀・風魔魂に意識を向けて【忍者】が発動したのをたしかめて、同じくジャケットのポケットに入れていたダウジングアイをかける。
こちらは別に隠していたわけではなかったのだけど、ボディチェックみたいなのを受けたり、没収されたりすることがなくてたすかった。
まぁ、普通は高校生がそんな危ないものを持っているなんて思わないか。
とにかく、気配を消してダウジングアイを使う。
今度は祠にあった壷のことを探せば、すぐに濃い線が道を示す。
ダウジングアイの法則からすると判定が難しいところのはずだけど、はっきりと示しているということは、中身はやっぱり姉の遺体なんだろう。
他のことは見つけてから考えようと、導きに従って山を進んで行った。
すぐに祠に辿り着く前にあった池を見つけた。
そこから家々を見下ろしても、人がいる様子がない。
さっきのことがあったばかりなのに、ちょっと不用心な気もする。
油断はしないけどね。どこに目があるかわからない。
【忍者】を使って慎重に進んでいくと、線はやはりというか堂城さんの屋敷にたどり着いた。
屋敷周りには立花さん以外の大人の姿があった。
殺気だった様子があるけれど、彼らはやっぱり僕を見つけることはできず、屋敷の側に到着した。
屋敷には軒先があって、そこにも窓ガラスがあるのだけどいまは開いていた。
そこからお邪魔して、屋敷の奥に入っていく。
途中で廊下に立花さんが立ち塞がっていたけれど、【透明化】を使った僕に気付くことはなかった。
その奥にある襖の向こうに、堂城さんはいるようだ。
「許しておくれ」
「まずは説明をしてください」
「なにも言うことはない。香澄や許しておくれ」
「説明です」
襖に耳を近付けると、そんなやりとりが延々と繰り返されている。
説明を求めている方が堂城さんだ。
なんだか入るのが躊躇われる空気がある。
堂城さんは明らかに怒っている。
だけど、「許してくれ」と言っているのは誰なのかが気になる。
「許しておくれ」
「説明」
「ゆる……」
「せ・つ・め・い」
なにこの攻防?
入りたくない。
でも、ここで盗み聞きしていても話が進まない。
さすがに気付かれるかと思いながら、襖を開けた。
襖はするりと抵抗なく開いた。
「「っ⁉︎」」
さすがに気付かれないというわけにはいかなかった。
堂城さんともう一人がこちらを見る。
どうやら仏間みたいだ。
仏壇を背にして正座する堂城さんと、それに対面するように同じく正座している青年がいる。
巫女姿のままの堂城さんに対する青年は、こちらもどこか神主に似た雰囲気のある独特なデザインの和服を着ていた。
氷のような雰囲気のある美青年だと思った。
もしかして、この人が堂城さんの婚約者?
なんとなく、そう思った。
そんなことを考えた一瞬で、横から衝撃が襲ってきた。
立花さんだ。
頭を掴まれ、足を払われ、瞬く間にその場に組み敷かれた。
「やめよ」
「やめなさい」
二人がほぼ同時にそう言った。
「出てきたということは気に入られたか。ならばもう同胞だ」
なんて美青年が言うと、立花さんはすぐに僕を解放した。
「尾羽くんに話があります。立花は下がっていなさい」
堂城さんに言われると、立花さんはおとなしく元の場所に戻った。
「尾羽くんには不思議な能力があるのね」
「堂城さん」
「入って」
堂城さんに言われるままに、襖を閉めて中に入る。
そうしていると美青年の方が新しい座布団を出して、襖に近い位置にそれを置いた。
三角形を作るように置かれた座布団に僕も座る。
少し意地を張って正座にした。
「尾羽くん」
「莉奈の弟よ」
二人が同時に僕を呼ぶ。
そして……。
「「この度は、どうもすみませんでした」」
と畳に額が当たるほど頭を下げた。
土じゃないけど土下座だ。
まさかの土下座だ。
ちょっと、動揺した。
なんとか顔には出さなかったけど、本当にびっくりしていた。
「……どういうことですか?」
いきなり謝罪されてもなにを受け入れていいのかわからない。
「こちらのことです」
頭を上げた堂城さんは、自分の膝の前に置いていたあの壺を前に出した。
「この壺は、あなたの言うとおり尾羽莉菜さんの一部です」
「っ!」
堂城さんはその壺を大事そうに両手に包んだ。
「私の恩人なんです。どうしてこんなひどいことに」
「香澄や、泣かないでおくれ」
「あなたは黙っていたので許しません」
「私がなにかをしたわけではないよ」
「では、どうして黙っていたのですか?」
「それは……」
と美青年は言い淀む。
言い淀んだままの美青年を睨み、堂城さんは僕を見た。
「莉菜さんは恩人です」
「あの、姉とはいつ知り合ったの?」
何度も言っているけど、そもそも姉が他人に恩を売っている姿が想像できない。
異世界ではチートを手に入れてがんばっているみたいだけれど、こっちでの姉は許されるなら家にずっといたいというタイプの人間だったのだから。
「もう、十年も前のことです」
そう言って、堂城さんは思い出話を始めた。
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