鍛冶屋修行の成果と謎展開
あれから三日が過ぎた。
学校に行って、家に帰ったらアイテムボックスの中で鉄を叩く。作った剣の数が三千本になったところで、姉が「気力の限界」と言って金属ダンジョンから撤退した。
だけど僕の精神はノリにノッていた。
体力が減らない代わりに精神が疲弊したのは最初だけで、一山越えたら逆に止まらなくなった。
姉が眠ってもアイテムボックスに居続けて鉄を叩き続け、作った剣を溶かしたインゴットに戻してまた叩いて……を繰り返していく。
剣をインゴットに戻す際に幾らかの素材は失われていくんだけど、そんなことは気にせずに叩きまくった。
そうして、三千本の剣を作ったインゴットが一本に集約された時には、僕の鍛治スキルはレベル9になった。
「うわ、なんかすごいことになってる」
最後の一本を満足げに眺めていると、姉の声が聞こえてきた。
「え? レベル9? なんで〜?」
「なんでって? 上がってるならいんじゃないの?」
「いや、ジョブスキルって、ただ訓練すればいいレベルって、だいたい6から8ぐらいまでなんだよね」
なんてことを姉が言う。
どうやら、そこから上は特定の条件を達成しなければ普通は上がらないらしい。
「あ〜う〜あ〜う〜? あっ、なるほど」
姉が悩む時に出る謎唸りが止まった。
「アイテムボックス内の炉の炎は……の炎だから、それで、後は、鉄が叩きと溶解で洗練されて……ふうん」
「なんなの?」
「いや、そこの炉の火は特別だからさ。そこで同じ鉄を何度も何度も溶かした結果、特別な鉄になったみたい」
他にも条件はあるのだろうけど、その特別な鉄を作ったり、その鉄で武器を作ったりしたことで鍛冶屋レベルが9になったのだそうだ。
「うんうん、このレベルなら立派なものが作れそうだね」
「いや、まだでしょ」
「え?」
なんか満足げな姉に対して、僕はぜんぜんだった。
「いままでは武器を作ってたんだから、今度はちゃんと鎧を作るための技術の蓄積をしないと。ということ、また素材集めしてきてね」
「ぐっ……うう……やったらぁぁぁぁ!」
自棄気味な叫びがアイテムボックス内に響く。
きっと、どこかの部屋にも響いている。
宿屋とかかな。
悲鳴を上げかけた姉だけど、自分からやりたいと言ったことで折れるのは嫌だという負けん気を発揮したのだ。
あっ、壁を叩かれた音がして、姉が「ヒィッ、ごめんなさい!」と謝った。
やっぱ宿屋か。
そんな風にアイテムボックス内ではたしかな成長を感じて充実していたのだけど、現実の方では堂城さんに避けられまくる微妙な学校生活を送っていた。
そして……。
「チッ」
廊下を歩いていて舌打ちの音がしたので見てみれば、堂城さんに絡んでいた二人組の片方が僕を睨んでいる。
相方はおらず、一人だけ。
そして気付いたんだけど、堂城さんが階段から落ちた時に目が合ったのは、こいつな気がする。
クラスメートから情報収集して調べてみると、彼女の名前は厳里朝都という。
2ーDらしい。
明らかに僕を敵視してるんだけど、それより問題なのは、待ち構えている感じがあること。
偶然に出くわして「嫌な奴を見た」って舌打ちしてるんじゃないんだよね。
明らかに僕がそちらを見ることを望んでいるような感じで舌打ちして、睨んでくる。
でも、近寄ってくるわけでもない。
僕も近づかない。
これ、油断してたら僕も階段から落とされたりするのかな?
怖いなぁ、気を付けないと。
なんて、学校では思っていた。
学校の外ではそんなことを考えていなかった。
鍛冶屋ジョブのレベル上げのことばかり考えていた。
ぼんやりそんなことを考えていたら、いきなり襟首を掴まれた。
「うわっ?」
とか驚いている間に引きずられる。
車の中?
スライドドアが勢いよく閉まる。
「出せ出せ!」
「へぇい」
「あははははは!」
男たちの声に混ざって、女の高い笑い声が響いた。
「よう、うちの妹に嫌がらせしたんだって?」
襟首を掴んでいた男が今度は髪を掴んでそんなことを言う。
痛い痛い。
「妹って……」
びっくりしていたけど、だんだんと状況がわかってきた。
車に引き摺り込まれた。
ワンボックスカーとかいうのかな?
助手席に座っている女がこっちを見ている。
うちの制服。
あ、厳里だ。
妹?
なら、髪を掴んでいるのは厳里の兄ってことになるのか?
後ろから髪を掴まれているから顔が見えないな。
ていうか、痛い。
ムカつく。
「離せよ」
「うるせぇ」
後ろから顔の横を殴られた。
頬骨辺りが痛い。
さらにムカついた。
髪を掴んでいた手を握る。
「離せって……」
「あん? ぎっ!」
「言ってるだろ?」
「ぎゃあああっ!」
厳里兄の悲鳴が響いた。
手の中でバギボギって音が響く。
この数日で三千本の剣を一本に圧縮するまで槌を振るったんだぞ?
当然、筋力だって上がっているし、槌を固定していた握力だって同じだ。
一緒に自分の髪まで引っ張ることになったので、また痛い。
くそぅ、何本か抜けた。
「ぐあ、テメェ」
「うるさいよ」
もう片方の手も掴んで、また握りしめる。
枯れ枝を纏めて折っている時のような音がして、厳里兄の両手は潰れた。
骨が飛び出して、血が溢れている。
改めて確認した厳里兄は、金髪に染めた「不良です!」って感じのファッションだった。
完全に心が折れた顔をしているけど、そんなことは知らない。
さらに肩を掴んで同じことをする。
今度の骨は太いから一度折れる音がしただけだった。
この辺りで、頭に昇った血が戻ってきて、冷静になってきた。
車はまだ走っている。
ルームミラーで目が合った運転手は青い顔をしていた。
もう動けないだろうけど、厳里兄が余計なことをしないように、首に手をかける。
少し力を強めると、顔を赤くして苦しんだ。
で、少し緩める。
完全に、腹を見せた犬の顔になった。
そんな兄の様子を確認してから、前の助手席に目を向ける。
「ええと、2ーDの厳里さん?」
「ひっ」
廊下で舌打ちしていた時の顔はもうなくて、こっちも真っ青な顔になっている。
まさか、こんな逆転をされるなんて思っていなかったみたいだ。
「これはなんの真似かな?」
「ちょ、ちょっとした冗談じゃない。ほ、本気にしないでよ」
「冗談ね。はは、おもしろーい」
「でしょ、だからもうおしまい。ほら、駅まで送ってあげるから」
「……な〜んて、言うと思った?」
「ひうっ」
後ろから、彼女の首を掴んだ。
「なんでこんなことをしたのかな?」
「なんでって……だから、冗談」
「ふうん。なら、僕の冗談はどこまで受け入れてくれるかな?」
そう言って、首にかける力を強めた。
「うっ、ぐっ……」
「ほら、僕の冗談だよ。受け入れてくれるよね?」
話ができないから弱める。
「もっと強くしてもいい? だって冗談だから」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
「なら、どうしてこんなことをしたのさ?」
「それは……」
震えながら厳里は話し出した。
相方(コト?)の恋を応援しようとしたけど、その相手が堂城さんのことを好きだと教室で他の男子と話していた。
それに傷付いたコトのために堂城さんに嫌がらせをしたり、問い詰めたりした。
その場面を僕に邪魔されて、さらにコトに僕があらぬことを言ったので腹を立てて、僕を潰すことにした……と。
まとめるとこんな感じ?
「それで兄と仲間に攫わせるって……ヤンキーの思考って怖いなぁ」
「お、俺は、俺は関係ない!」
厳里兄の仲間だろう運転手は、僕と目が合うと慌ててそう叫んだ。
「俺は関係ないんだ!」
重ねて叫ぶと、信号で止まったタイミングで車から飛び出して行った。
置いて行かれてしまう僕たち。
どうしたものかと思っていると、信号が青に変わり、後ろからはクラクションが鳴らされる。
だけどどうしようもない。
このまま僕も逃げようかなと思っていると、不意に誰かが運転席に入ってきた。
「はい、ごめんなさいよ」
そう言ってドアを閉めて車を走らせる。
乗ってきたのは初老ぐらいにはなってそうなおじさんだった。
特に悪そうな感じでもない。どこにでもいそうな、むしろ人が良さそうな雰囲気さえある。
「あの……」
「お嬢さんに頼まれて追いかけていたんだけどね。こんなことになるなんて、君は面白いねぇ」
そう言って、ルームミラー越しに僕を見ておじさんが笑う。
「この二人と、さっき逃げたのは、うちで片付けるから、君は安心して家に帰りなさいね」
言い聞かせるように、おじさんは短く区切ってそう言うと、車を路肩に停めて僕に降りるように促す。
「三人とも、タチキに連れて行くから、なにも心配いらないよ」
タチキ?
と、僕は首を傾げたのだけど、厳里兄妹はその意味を理解したようだ。
「うわぁ、嫌だ、嫌だ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。許して」
「無理だなぁ。あんたら、うちのお嬢さんに害意を向けた。それはタチキを敵に回したのと変わらんのよ」
震える二人に対して、おじさんは朗らかに笑っている。
「ほら、君はもう大丈夫だから、帰りなさい。お嬢さんをたすけてくれたからね。今回は特別。わかってね」
運転席からの操作で僕の側のスライドドアが開いたので、二人から手を離して車から降りた。
厳里兄妹が僕にたすけを求めるような目をしていたけど、それに応える気持ちになれるわけもなく、スライドドアが自動で閉まり、走り出すのを見送った。
そのすぐ後で、高級車が走り去っていく。
それはいつも堂城さんを送迎している高級車だった。
ええ、なにこの展開?
それに、タチキってなに?
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