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水魔法の訓練③

 零が地面に置いた金属製の球体から、カシャカシャという精密な機械音と共に手脚が飛び出し、数瞬のうちに大型の自律型戦闘ロボットが組み上がった。


その無機質なフォルムは、中世的な城の風景の中で異様な威圧感を放っている。


「燃費は最悪だけど、城の中での訓練なら問題ないわね。カズト、これがアルケミストの真髄よ。いくわよ! 私を狙って、高出力ビームを撃ちなさい!」


 零が鋭く命じると、カズトは思わず目を見開いて叫んだ。


「おいおい、零! 大丈夫かよそれ!? なんか昔の漫画で見たことあるような、無茶苦茶な特訓風景だぞ!」


 ピピッ、という無機質な電子音が響く。


 直後、ロボットから大口径のビームが容赦なく零に目掛けて放たれた。


 だが零は怯むことなく、掌に展開した分厚い魔力の膜でその光を力ずくで弾き飛ばした。


「平気よ! こうやって体に当たる直前で魔力を高密度に固める練習をしないと、実戦じゃ上位魔法なんて防げないんだから。あんたもぼーっとしてないで、自分の課題をこなしなさいよ!」


 零はビームの弾幕を紙一重で避け、あるいは受け流しながら、魔力制御を極限まで研ぎ澄ませていく。


 その必死な背中を見て、カズトも自身の拳を強く握りしめた。


(零も、あんなに命を懸けて必死なんだ。守られるだけじゃない、俺ももっと先へ行かないと)


 カズトの手元にある水の球は、今や野球ボールほどの大きさまで圧縮されていた。


 カズトが全神経を集中し、その水弾をさらにピンポン玉ほどのサイズへと凝縮させようとしていた、その時だった。


 ――ドォォォォン!!


 耳を劈くような激しい衝撃音と共に、横から凄まじい熱量と黒煙が流れ込んできた。


「零!?」


 カズトが慌てて顔を向けると、そこには訓練場の地面を数メートルほど滑り、盛大にひっくり返った零の姿があった。


 さらなる高みを目指してロボットのレーザー出力を上げた結果、防御が負荷に耐えきれず、至近距離で弾け飛んでしまったのだ。


「零さん!? 大丈夫ですか!?」


 奥で特訓していたセレナが、真っ先に駆け寄る。


「……うぅ。ちょっと、出力を上げすぎたかも。完璧に防げるはずだったんだけどなぁ」


 零はフラフラと立ち上がろうとするが、その腕や脚にはレーザーの熱で焼けた生々しい跡と、地面を滑った際の痛々しい擦り傷がいくつも刻まれていた。


 服も所々が黒く焦げており、その姿にカズトは胸が締め付けられるような痛みを感じた。


「無茶しすぎだ、バカ! ほら、じっとしてろ。セレナ様、頼めますか?」


「はい、任せてください! 『ヒール』!」


 セレナが傷口に手をかざすと、清らかな光が溢れ出し、みるみるうちに痛々しい赤みが引いていく。


 その様子を背後で見守っていたマリアは、深い溜息をつきながらも、その眼鏡の奥の瞳には感心の光を宿していた。


(やれやれ。向上心があるのは結構ですが、死んでしまっては元も子もありませんよ。これほど自分を追い込めるとは)


 セレナの光魔法によって、零の傷跡は元からなかったかのように綺麗に消え去った。


「ふぅ、助かりました。ありがとうございます。……あら? これって結構と便利ですね。ポーションは高価だし数に限りがあるけど、ここで即座に治してもらえるなら、もっと出力を上げても死ななきゃ大丈夫ってことじゃない! 特訓の効率が跳ね上がるわ!」


「おいおい、零。治るからって、無茶は真似はやめろよ。見てるこっちの心臓が持たないんだから」


 カズトが心配そうに零の肩に手を置くが、彼女はそれを軽く払いのける。


「これくらい、この世界じゃ普通よ。強くなるためにはリスクを背負うのが当たり前なの。あんたは黙って、自分の水魔法を磨きなさい。ほら、再起動よ!」


(……こんなのは決して普通ではありませんが。恐ろしいまでの向上心ですね。何が彼女をそうまでさせるのか)


 マリアは呆れたように肩をすくめたが、すぐに何かを思いついたように、隣で杖を握り直しているセレナに視線を向けた。


「ちょうど良いではありませんか、殿下。止めても聞きそうにないですし、ここからは零さんが負傷するたびに、即座に、かつ完璧に治癒する練習です。生きた素体がいるうちに、その感覚をしっかり体に覚え込ませてください」


「ええっ!? 零さんを練習台にするのですか? わたし、どちらかと言うとカズトを癒してあげたいのですが……」


 セレナは不満げにカズトをチラリと見たが、カズトは苦笑いしながら首を振る。


「いや、俺は今ピンピンしてますから。申し訳ないですが、今は零をお願いします。」


「……仕方ありませんね。分かりました、零さん! どんなに消し炭になっても、わたしが元の通りに戻してあげますから、安心して吹き飛んでください!」


「物騒な応援はやめてください!」


 訓練場には再び「ドォォォン!」という爆発音と、それにかぶさるようなセレナの必死な詠唱、そしてストイックに水弾を圧縮し続けるカズトの静かな集中が混ざり合っていった。


「零さん! 怪我をするのは構いませんが、今の私の実力だと欠損までは治せませんから気をつけてくださいね! 腕とかが吹き飛んでしまったら、もう元には戻りませんよ!」


「分かっています!そんなヘマはしません! 」


 零は額の汗を拭いもせず、さらに自分を追い込んでいく。


 その苛烈な姿に、カズトは自責の念に近い決意を抱いた。


(腕が吹き飛ぶか。俺がもっと強ければ、零にこんな危険な真似をさせずに済むのかな。いや、零のことだ、俺がいくら強くても自分で納得いくまでやり抜くんだろうな)


 手元の水弾が静かに周囲の空気を震わせるほどのプレッシャーを放っている。


 マリアはその様子を観察しながら、セレナに鋭い助言を与えた。


「殿下、無駄口を叩いている暇があるなら、零さんの魔力の揺らぎを観察してください。防御膜が破れる瞬間を察知できれば、着弾と同時に治癒を開始できます。さあ、集中です」


「は、はい! (零さん、凄まじい気迫です。わたくしも、負けていられません!)」


 太陽が真上に昇る頃、早朝から始まったストイックすぎる特訓は、ついに限界の刻を迎えた。


 零は肩で激しく息をし、膝をガクガクと震わせながら立っていた。


 セレナの魔法で外傷こそ完治しているが、削り取られた魔力と、極限状態で酷使した精神力までは回復しない。


「はぁ、はぁっ。……あ、あと、もう一回……」


「そこまでです、零さん。立ち上がるのもやっとなのに、これ以上はただの自傷行為です。殿下も、もう杖を支えにしなければ立っていられないご様子ですしね」


 マリアに指摘され、セレナも「うぅ……」と力なくその場に座り込んだ。


 何度も繰り返した即時治癒は、彼女の魔力を底まで使い果たさせていた。


「お、お腹が空きましたわ。マリア、今日のお昼は何ですか..?」


「はい、すぐに用意させましょう。ですがその前に。カズトさん、今日一日の締めくくりとして、あなたの訓練の成果を皆様に見せていただけますか?」


 カズトは静かに頷くと、ゆっくりと一歩前へ出た。


 手のひらに生成されたのは、もはやただの球体ではない。


 極限まで圧縮された水球が、高速回転を続けながら鋭利な「楕円体」へと姿を変えていた。


「いくぞ。『ウォーターショット』!」


 カズトが手のひらを突き出すと、空気を切り裂くような高周波の音と共に、水の弾丸が放たれた。


 ――ドシュッ!!


 それは衝撃音すら置き去りにし、何層にも重ねられた石造りの標的を、まるで豆腐でも貫くかのように容易く貫通した。


 水の槍はそのまま背後の強固な防壁をも深々と穿ち、最後は小さな霧となって美しく霧散した。


「嘘でしょ。水であんな貫通力が出るなんて。」


「凄すぎます。もう立派な水魔法使いですね(フラフラしながらも拍手する)」


 カズトは自分の手のひらを見つめ、確かな手応えを感じていた。


 補助的な属性でも、極めれば「雷」に匹敵する、あるいはそれ以上の武器になる。


「見事です。その集中力とイメージの具現化力、実に素晴らしい。さて、感傷に浸るのもそこまでにして、お昼にしましょう。動けないお二人のために、私が運ばせますから」


 マリアの合図で数人のメイドたちが現れ、フラフラの零とセレナを支えて食堂へと運び始めた。


 その頼もしい姿を見送っていた零が、思わず足を止めて振り返った。


「あんた、本気? あんなに水を出しまくっておいて、まだやる気なの?」


「ああ。今の『ウォーターショット』で、魔力を形にする感覚がなんとなく分かった気がするんだ。雷でも同じように、ただ弾けさせるんじゃなくて『形』を維持できれば、もっと効率よく、鋭く戦えると思ってさ」


 その言葉を聞いたマリアは、歩きながら眼鏡の奥の瞳をわずかに細めた。


「良い着眼点です。雷は水よりも遥かに制御が難しく、一歩間違えれば自分を焼くことになります。ですが、今の水魔法で見せた圧縮と回転のイメージを応用できれば、不可能ではないかもしれませんね。ですが、無理はいけません。カズトさんも一緒にお昼ご飯を食べてください。」


「カズトが、どんどん遠くへ行ってしまう気がします。わたくしも、お昼を食べたら午後はもっと頑張ります! ですからカズト、午後もわたくしのこと、ちゃんと見ていてくださいね?」


 セレナはフラフラになりながらも、カズトの手をギュッと握り、必死に約束を取り付けようとした。


 カズトは彼女の小さな手を握り返し、優しく笑った。


「もちろんです。みんなで強くなりましょう。」

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