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初めての休日②

 二人は図書室を後にし、城にある広間へと向かった。


 侍女長のマリアに「自身の適性を詳しく知りたい」と請うと、彼女は快く鑑定用の水晶を用意してくれた。


 広い部屋の中央、台座の上に置かれた透明な水晶が、微かな光を反射して美しく輝いている。


 その傍らに立つマリアが、静かに促した。


「さあ、手を。水晶に軽く触れ、体内の魔力をゆっくりと流し込んでみてください。あなたの本質に呼応した色が浮かび上がるはずです」


 喉の奥が乾くような緊張感を覚えつつ、右手を水晶にかざす。


(雷属性なのは分かっている。だが、もし他にも何か混じっていたら……)


 覚悟を決め、深呼吸と共に魔力を流し込んだ。


 その瞬間、水晶の内側から眩いばかりの「紫色」の電光が溢れ出した。


「雷の色って紫なのね。あなたの放電は青白いから、なんだかイメージと違うわ。天然物じゃなくて転移時に与えられたスキルだからかしら?」


 隣で見ていた零が、不思議そうに瞳を細める。確かに、実戦で放つ雷は青白い。


だが水晶が示す「本質」は、禍々しくも美しい高貴な紫だった。


 しかし、変化はそれだけで終わらなかった。


 激しい紫の隙間から、薄っすらと、しかし確かに「深い青色」の光が混じり、水晶の底で静かに揺らめき始めたのだ。


「ふむ。メインはやはり『雷』ですが、潜在的に『水』の適性も持っているようですね」


「水? 雷と水って、それこそ同時に使うと自爆する、最悪の組み合わせじゃないですか」


 思わず顔をしかめると、マリアは事も無げに首を振った。


「同時使用は論外ですが、個別に扱う分には問題ありません。水は七属性の中でも最も扱いやすく、汎用性が高い。使い手が多い分、戦術の幅も広がるでしょう。それに――」


 マリアは厳格な面持ちを少しだけ和らげ、言葉を継ぐ。


「戦闘に限らず、野営での飲料水確保や汚れを落とす程度なら、水魔法は極めて便利です。実用的な生活魔法として習得しておいて、損はありませんよ」


「うーん……」


「あら、不服そうね?」


 零に覗き込まれ、苦笑しながら後頭部をかいた。


「不服っていうか。この『雷』はこっちに来た時のスキルだろ? そうなると、この『水』こそが元々の俺が持っていた、本来の適性だったのかなって思ってさ。なんだか、急に親近感が湧いてきたというか」


 破壊の権身のような紫の雷より、穏やかに揺れる青い光の方が、自分という人間に近い気がしたのだ。


水晶を見つめ直し、ふと思いついて零に視線を向けた。


「そういえば、零の適性は何なんだ?転移時のスキルがアルケミストなのは知ってるけど、魔法そのものはどうなんだよ」


「私は『火』よ。でも私はスキルで爆弾でも火炎放射器でも作れるわ。わざわざ魔力を消費して魔法を撃つ意味が、あまりないのよね。威力のある魔法を撃つとなるとそれなりに訓練も必要になるわけだし。その分魔力操作に修行の時間を割いたのよ。」


 零は火魔法にあまり魅力を感じていなかった。


「同じ属性の持ち主でも、使い道は千差万別です。魔法そのものは混ざりませんが、工夫次第では単一の属性では成し得ない戦い方が生まれる。訓練を積めば、互いを補い合い、並び立つことは十分に可能です」


 マリアは二人の間に立ち、まるで教え子を見守るような眼差しを向けた。


 広間を出る頃には、空はすっかり濃いオレンジ色に染まっていた。  カズトは、自分の内に眠る「雷」と、新たに判明した「水」の魔力を意識しながら、零と共に歩き出す。


「雷の剣と水魔法か。次の修業が少し楽しみになってきたな」


「ええ。シンさんとの修行で一区切りはついていたから、次の目標が決まりそうでよかったわ」


 二人は笑い合いながら、明日からの激動の日々に備え、城の廊下を進む。カズトは水晶から手を離した後の、微かに痺れるような余韻が残る手のひらをじっと見つめた。


「でもまあ、マリアさんが言う通り、出先での水の確保には便利そうだからな。一応、練習はしておくよ。いつどこで遭難するか分からないし」


「ふふ、まあそれも、私がいれば必要ないんだけどね! 錬金術で空気中の水分を集める装置くらい、パパっと作れちゃうし」


 零は得意げに胸を張り、カズトの予備の属性を笑い飛ばす。その自信に満ちた横顔に、カズトは「さすがだな」と苦笑した。


「頼もしいですね、零さん。……ですがカズトさん、ご自身で水を操る感覚を知ることは、魔力制御の基礎を学ぶ上でも悪いことではありません。雷は『放出』の力が強すぎますが、水は『維持』と『形状変化』に適しています。雷を剣の形に固定する修行の良い足がかりになるでしょう」


 マリアは二人のやり取りを微笑ましく見守りながら、出口の方へと歩き出した。


「さて、夕食の準備が整いました。殿下から二人を連れてくるように言われておりますので、食堂へ向かいましょうか」


 食堂の大きな扉が開くと、そこには既にテーブルについていたセレナの姿があった。


 彼女は二人の姿を見るなり、パッと顔を輝かせる。


「あ! カズト、零! やっと来ましたね。一日会わないだけで、なんだかとても長く感じました。」


 今日は二人を休ませるために、あるじとして接触を控えていたセレナだったが、カズトが席に着くやいなや、その我慢は限界に達したようだ。


「ちょっと、こちらへ来てください。」


 当然のような顔でカズトの腕を抱き込み、その肩に頭を預けるセレナ。


「ちょ、セレナ様、近いですって……」


 柔らかい感触と甘い香りが間近に迫る。


「殿下。品がありませんよ。冗談でも過ぎます、慎みを持ってください」


「ひゃ、ひゃいっ!?」


 氷のような声が響き、セレナはカズトの腕を抱きしめたまま、背筋をピンと伸ばして硬直した。


 マリアは一歩前に出ると、一切の妥協を許さない表情で王女を見下ろす。


(マリアさん、相変わらず厳しいな……)


 気まずい空気を変えるため、カズトは咳払いをして、鑑定で分かったばかりの話を切り出した。


「あー、そうだ。さっきマリアさんに鑑定してもらったんですけど、俺、雷の他に『水』の適性もあったみたいなんです」


「まあ!水属性ですか!良い属性ですね、カズトによく似合ってます!」


 セレナは一瞬で機嫌を直し、弾んだ声を出した。


 その素直な称賛に、カズトも少し面食らいながら問いを返す。


「そういえば、セレナ様も魔法は使えるんですよね? 普段あまり使っているところを見ないですけど」


 すると、セレナは待ってましたと言わんばかりに、自慢げに胸を張る。


「お聞きになりたいのですか? ふふん、驚かないでくださいね!わたしは光属性と闇属性、両方の魔法が使えます! これは王家の血筋によるところが大きいらしいのですが。あとは、少しだけ風が使えますね」


「光と闇、両方!? しかも風まで……。それって、めちゃくちゃ凄くないですか?」


 カズトは素直に感嘆した。属性を混ぜることは不可能だとしても、対極にある希少属性を両方持っているというのは、やはり王族の血のなせる業なのだろう。


(光と闇、どっちも希少属性じゃない。流石は王女様ね)


 零も内心で舌を巻いていた。だが、マリアの補足は容赦がない。


「殿下は王族としての才能だけで言えば、この国でも指折りの才を持って生まれています。もっとも、その才能に見合うだけの努力が伴っていれば、の話ですが」


 マリアがボソリと付け加えると、セレナは「うっ……」と言葉を詰まらせ、視線を泳がせた。


「あ、明日から頑張ります! それに、カズトがいればわたしもやる気が出ます! ねえカズト、明日もし時間があれば一緒に訓練しませんか?」


 セレナは必死な形相で身を乗り出し、カズトを誘った。その必死さに、カズトも思わず笑みがこぼれる。


「いいですね! 光と闇の魔法も見てみたいですし、ぜひお願いします!」


「そうです! わたしは光属性を重点的に育てていますので、癒しの魔法も使えます! カズトがもし怪我をしても、すぐに治してあげられますよ!」


「へぇ、回復魔法か。それはとても頼りになりそうですね」


 カズトが感心した表情を見せた瞬間、背後のマリアがまたしても冷静な一撃を放った。


「……殿下。適性値で言えば、あなたはどちらかといえば『闇属性』の方が得意ではありませんか。光の癒し魔法は、まだ傷口を塞ぐのが精一杯のはずですが」


「ちょっとマリア! 余計なこと言わないでください! 闇なんてイメージが悪いじゃないですか!」


 セレナは顔を真っ赤にして、マリアに向かってポカポカと空を叩くように抗議した。その様子は威厳ある王女というより、年相応の少女そのものだ。


「そんなことはありませんよ。闇属性だって由緒ある魔法です。隠密や妨害には最適ですから」


「それでも! 属性の響き的に、わたしは怪我を治してあげる『聖女』のようなポジションでいたいのですー!」


(セレナ様、完全にヒロイン枠を狙ってるわね。油断できないわ)


 零は呆れ顔でその騒ぎを見守っている。カズトは、王女様の意外なこだわりと、それを無慈悲に暴くメイド長のやり取りに、思わず吹き出しそうになった。


「セレナ様、俺が怪我をしてしまった時はよろしくお願いします。頼りにしてますから」


「! ま、任せてください! 例えカズトの身体が半分なくなろうとも、わたしが元の通りに治してみせますからね!」


(身体が半分って、それは流石に死んでる気がするけど)


 極端なやる気に圧倒されつつも、カズトはその強い意志に心強さを感じていた。セレナはそのままの勢いで、背後のマリアを振り返る。


「マリア! 明日から光魔法の特訓です! カズトが傷一つ負わなくて済むよう、わたし本気を出します!」


「あら。その意気込みが三日坊主にならなければよろしいのですが。分かりました、明日の早朝からメニューを組み直しておきましょう」


 マリアは眼鏡の奥で満足そうに目を細めた。カズトの何気ない一言が、王女様のやる気に火をつけたようだ。


(カズトったらセレナ様に甘いわね。やっぱり妹感が強いのかしら? まあ、セレナ様が強くなってくれる分には助かるからいいけれど)


 零は少し複雑な表情を浮かべつつも、二人の様子を眺めていた。


 だが、そこで彼女は追い打ちをかけるように口を開く。


「ちなみに、私がアルケミストのスキルで作る異世界の医療ポッドなら、より高度な治療ができますから。セレナ様はそんなに焦らず、ゆっくり練習してて大丈夫ですよ?」


 零はふんぞり返り、勝ち誇った顔でセレナを見下ろす。


 しかし、心の中では(……まあ、そんなSF装置、生み出そうと思ったら魔力をバカ食いするから今の私じゃ実質使えないんだけどね!)と、密かに舌を出していた。


「な、なんですって!? 零! 卑怯です! やっぱり転移者のスキルはズルすぎます!」


 セレナはテーブルをバンバンと叩いて悔しがる。


(零、それ多分ハッタリだろ。前に俺が怪我した時もポーション使ってたし)


 カズトは相棒の性格を理解しているだけに、心の中で苦笑いするしかなかった。


「はいはい、そこまでです。殿下、明日からは零さんの力を必要としないほどの治癒魔法、期待しておりますよ?」


「うぐぅ。やってやりましょう! 零に泣きつかれるくらいの聖女になってみせます!」


 マリアの仲裁により、火花を散らしていた二人の争いは、ひとまず明日の訓練へと持ち越されることになった。


 こうして、濃厚だった休暇の一日は、未来への希望と賑やかな笑い声と共に幕を閉じた。

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