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初めての休日

 眩しい朝の光が差し込む中、カズトと零が目を覚ましたのは、太陽が既に天高く昇った昼近くのことだった。


 いつもならセレナの起床に合わせて起きる時間だが、今日はマリアからも「本日と明日は殿下のご配慮により、お二人とも完全な非番です。城から出ない限り、自由に過ごして構いません」と伝言が残されていた。


「……ん……。あ、そうか。今日、休みなんだ……」


 ベッドの上で零と隣り合って寝ていたカズトは、久しぶりの「何も命じられない時間」に深い安らぎを感じていた。


「ふわぁ、おはよう。なんか、奴隷になってから初めてじゃない? こんなに静かな朝」


「さて、せっかくの初休暇だけど、午後はどうする?」


「流石に寝てばかりじゃもったいないわ。どうせなら、城の図書室にでも行かない? いくつかの文献を調べておきたいの」


 零はパンを口に運びながら、少し真面目な顔で提案した。


王家の図書館にしかない女神の情報が気になるらしい。


「図書室か。いいな、俺も自分の『雷魔法』について何か記述がないか探してみたい。授業ではあまり情報ないし、もし弱点とか、逆に効率的な鍛え方があるなら知っておきたいからな。後で侍女さんに図書室の場所を聞いて行ってみようか。」


 二人は久しぶりに、殺伐とした学園や重圧のある謁見の間を離れ、穏やかな「自分たちのための時間」を過ごすべく、侍女に案内を頼み、城の奥まった場所にある巨大な図書室へと向かった。


「こちらが図書室です。基本的に使う人はあまりいないので、多少声を出しても構いません。ただ他に人がいたときにはご配慮お願いします。また、持ち出しは不可となります。」


侍女の中でも比較的、友好的で話しやすい彼女の案内で、無事に図書室へ辿り着いた。


 二人は図書室の奥まった席で、埃を被った分厚い魔導書『属性魔法の起源』を広げた。


カズトはそこにある記述を読み進めるうちに、この世界の魔法体系が、自分の知っている「ゲームの常識」とは大きく異なっていることに気づく。


「授業であった通り、基本属性は火、水、風、土、雷、闇、光の七つ。でも、雷属性は数百年前に使い手が途絶えて、今は『失われた属性』扱い。俺がこの間あれだけ騒ぎになったのも納得だな」


 カズトが指で文字を追う。


「なになに、雷魔法は攻撃力こそ突出して高かったが、そもそも才能を持っている者が少なく、加えて他の魔法に比べて制御が難しく自傷することも多かったせいで、段々と使い手の数を減らしていったと。確かに俺も制御にはすごく苦労したもんなぁ」


「あんた最初の頃は自分の雷魔法で何度も死にかけてたもんね。あれじゃあ使い手が減っていくのも分からなくはないわ」


 零が過去のカズトを懐かしむように笑う。


 カズトはさらにページを読み進めた。

 しかし、次の一文に目が止まり、思わず声を上げた。


「え、嘘だろ? 『同じ魔力を根源としても、二つ以上の属性は原則として混ざり合うことはなく、無理に干渉させれば互いの魔力構造が反発し、暴発するか、魔力の小さいほうは消滅する』。複合魔法、できないのかよ」


「どうしたの? 難しい顔して」


「いや、ゲームとかだとさ、『火と風を混ぜてファイアストーム』とか、『水と土で土砂流を生み出したり』とか、当たり前にあるだろ? でもこの世界じゃ、属性を混ぜること自体がタブーっていうか、不可能に近いらしい」


 カズトは溜息をつきながら背もたれに体を預けた。


「俺、いつか雷と別の属性を組み合わせて、もっとすげー魔法ができるんじゃないかって期待してたんだけどな。この世界じゃ、属性はあくまで独立したものなんだ」


「でも、だからこそ『雷』っていう唯一無二の属性を持ってるあんたの価値が、より際立ってるんじゃない?」


 零は本を閉じ、カズトの顔を覗き込んだ。


「みんなが六つの属性で戦ってる中で、あんただけが未知の七つ目を持ってる。混ぜられないなら、その一つを極めるしかないってことじゃないかしら」


「まあ、混ぜられないなら混ぜられないで、やりようはあるか。でも待てよ? 例えば他の魔法使いと、俺の雷。もし一緒に戦うことになったら、お互いの魔法をぶつけないように相当気をつけなきゃいけないってことだよな」


 カズトは昨日のシオンの凛とした立ち姿を思い浮かべながら、この世界の魔法の「不自由さ」と、それを克服するための新たな課題を噛み締めていた。


 零は分厚い本から視線を上げ、どこか遠くを見るような目で語りかける。


「そうよ。だから魔法使いって、普通はパーティに一人が基本なの。もし複数の魔法使いがいる時は、お互いの射線や魔力の干渉を計算して、相当気を使わないといけないわ。下手に連携しようとして魔法が打ち消し合ったら、その隙にやられちゃうもの」


 零はそう言うと、小さくも引き締まった拳を軽く握って見せた。


「だから私は、魔法よりも肉弾戦の方が好きなのよ。自分の拳なら、誰の邪魔もしないし、何より直感的に動けるでしょ? 直接相手を叩き伏せる方が、私には向いてるわ。」


 アルケミストでありながら、最前線で戦おうとする彼女らしい言葉だった。


「そうだな。俺の雷魔法も、昨日みたいに全方位に放電してたら、隣にいるお前まで巻き込んじまうし」


 魔法が混ざり合わないこの世界で、カズトの雷魔法は「最強の矛」にもなれば、「味方を巻き込む危うい力」にもなり得る。


 カズトはさらにページをめくり、ひときわ古く、紙が茶色く変色した『古王国の勇者伝』という項に目を留めた。


そこには、伝説として語り継がれる「雷の勇者」の挿絵と記述があった。


「おい、零。これ見てくれ。過去に雷魔法を使ってた勇者の戦い方が載ってる。こいつ、魔法を飛ばすんじゃなくて、『雷を剣にして』戦ってたらしいぞ」


「えっ、剣? 魔法を物体にするってこと? 剣として使えるようになるまで強度を高めるとなると、相当な魔力制御が必要なんじゃ。ただでさえ制御しづらい雷魔法でそんなこと出来るのかしら?」


 本には、雷を凝縮させ、実体のある刃のように固定して戦う勇者の姿が描かれていた。


遠距離から雷を落とすだけでなく、自ら近接戦闘に持ち込み、触れるものすべてを焼き斬る圧倒的な戦闘スタイル。


「なるほどな。さっきお前が言ってたみたいに、魔法使いが複数いると干渉しちゃうけど、魔法を武器として固定しちまえば、味方を巻き込むリスクは減る。お前が敵を止めてる横で、俺がこいつで斬り込めば……」


「確かに魔法同士の衝突も防げるし、あんたの反応速度なら最強の近接武器になるわね。でもカズトは剣は素人よね? 無理に剣型にする必要あるのかしら? それに雷をその形の強度で維持するのって、来霆のときよりも更に難易度上がるわよ?」


 カズトは自分の右手をじっと見つめた。


 確かに剣の素人であるカズトが雷の剣を作っても、どこまで優位性を保てるのかは疑問だ。


 ただ、もしこの古文書にあるように雷を何かしらの「形」にできれば、この世界の魔法のルールに縛られない、独自の戦い方ができるはずだ。


「剣じゃないにしても、雷を物体にするのはやってみる価値はありそうだな。技術はなくても接近してとどめの一撃としてなら攻撃力上がりそうだし、意外性も付ける。」


 カズトの瞳に、新しい目標への火が灯った。


「ふふ、また修行が大変になりそうね。でも、あんたがその『雷の剣』を完成させたら、本当にかっこいいと思うわよ」


 零は未来の勇者の姿を想像するように微笑んだ。


 カズトは魔導書の別のページを指でなぞった。


 そこには「属性適性の判別法」についての記述があった。


「お、これって適性の調べ方か。①マジックアイテムの水晶を使うか、②偶然の発動、③光属性の魔法による鑑定。俺の場合は②の偶発的発動だったけど、一度ちゃんと確認しておきたいな」


 本によれば、複数の適性を持つこと自体は決して珍しいことではないらしい。


 しかし、魔力は有限であり、複数の属性を中途半端に育てるよりは、一つを重点的に極める方が実戦では遥かに強くなれると結論づけられていた。


「そうね。二兎を追う者は一兎をも得ず、ってことかしら。でも、カズトは魔力量が異常に多いから、複数の属性を使うことは意外と可能かもしてないわね。

『雷』の他に高い適性があるのか、それとも純粋に雷だけなのかを知っておくのは大事だと思うわ」

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