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本当の実力③

 校門を出ると、そこにはいつもの豪華な馬車が待機していた。


 今日は侍女長のマリアが同行していないため、御者だけが静かに扉を開ける。


「さあ、帰りましょう! お城に戻ったら、今日の快進撃をマリアにも教えてあげなくては。あの子、きっと『無茶をなさいましたね』なんて、つまらなそうな顔をして言うのでしょうけれど!」


 セレナは楽しそうに馬車に乗り込んだ。


(二日目にして、雷魔法の開示に、生徒会入りか。激動すぎるだろ)


 馬車が走り出すと、窓の外には夕焼けに染まる学園の校舎が遠ざかっていった。


 城の正面玄関に入ると、そこにはいつも通り、無表情ながらも完璧な立ち姿のマリアが待機していた。


 その手には、既に学園からの緊急連絡――という名の報告書が握られている。


 丸メガネの奥の瞳が、カズトをじっと見つめた。


「おかえりなさいませ、殿下。そしてカズトさん、零さんも」


「マリア! 聞いてください! 今日のカズトは最高でした! それに、シオンお姉様からも接触がありました! カズトたちは生徒会の『特別執行部』に入ることになったんです!」


「シオン・ヴァルフレア公爵令嬢ですね。あの方は昔から、面白いものを見つけるとすぐに自分の懐に入れたがる癖がございますから。まさかカズトさんたちまで毒牙にかかるとは」


 マリアは感情を押し殺した声で言いながらも、カズトの制服の乱れをスッと指先で直した。


「カズトさん。生徒会に入ったからといって、ここでのあなたの本分はセレナ殿下の護衛であることをお忘れなく。」


「分かってますよ。シオンさんには、あくまで学園での後ろ盾になってもらうだけですから」


「? 殿下、この奴隷、今シオン様を呼び捨てにしませんでしたか?」


 マリアの眉がピクリと動き、温度の低い視線がカズトに突き刺さる。


(あ、マリアさんが怒った。カズト、知らないわよ。マリアさんは規律に厳しいんだから)


「良いのですよ、マリア。これはお姉様本人の希望ですもの。それよりマリア、わたしお腹が空きました! 早く今日の夕食の準備をさせてちょうだい!」


「……左様でございますか。では、皆様お着替えを」


 セレナはマリアに身なりを整えてもらった後、意気揚々と国王の執務室へと向かった。


カズトと零は、その護衛として扉の前で待機を命じられる。


 重厚な扉の向こう側から、セレナのハキハキとした声と、時折響く国王の重々しい笑い声が漏れ聞こえてきた。


【国王執務室:セレナの報告】

「……なるほど。騎士科の選抜十名を、たった一人の奴隷が圧倒したか。しかも、失われた『雷魔法』を使い、公爵令嬢シオンの懐にまで潜り込むとはな。セレナ、お前の目利きには驚かされるばかりだ」


「ふふ、お褒めいただき光栄ですわ、お父様。ですが、これは単なる力自慢ではありません。わたくしの狙いは二つございます」


 セレナはソファに深く腰掛ける。


「一つは、不穏な動きを見せる貴族派閥への絶対的な恐怖の植え付けです。抗えない暴力を見せつけることで、彼らの無駄な工作を一時的に凍結させます。そしてもう一つは、シオンお姉様をこちら側に完全に引き込むこと」


「シオンを、か」


「ええ。彼女が生徒会にカズトたちを受け入れたという事実は、公爵家が王家の新戦力を黙認、あるいは支持したというメッセージになります。これで、他の貴族たちはカズトだけでなく、わたくしへの手出しも簡単には出来なくなります」


「良かろう。その奴隷、カズトと零については引き続きお前の裁量に任せる。ただし、手綱は決して離すなよ。力を見せる以上、負けることも許されない。」


「もちろんですわ、お父様」


【執務室の外にて】

 扉が開き、セレナがこれ以上ないほど満足げな顔で出てきた。


「お待たせしました。お父様も、あなたたちの活躍をたいそう喜んでいましたよ。さあ、これで今夜は心置きなくお祝いができますね!」


(今日の出来事はお祝いと言って良いのだろうか……)


 カズトが隣の零を見ると、彼女もまた、扉の向こうでも聞こえていたセレナのあまりの策士ぶりに少しだけ引いているようだった。


(ねえ、カズト。セレナ様、本当にお父様の前だと『できる王女』を完璧に演じるわね。シオンさんのことまで利用するなんて、怖いわぁ)


 カズトは隣の零にだけ聞こえるような小声で囁いた。


(なあ、シオンさんが出てきたのって、完全にたまたまだったよな? それなのに、さもお父様の前で狙い通りでしたみたいに装うの、地味に狡猾というか、流石だよな)


(本当ね。結果オーライを自分の手柄にするのは、上に立つ者の才能かもしれないけど。でも、それだけセレナ様も必死に自分の居場所を守ろうとしてるってことじゃない?)


 二人のヒソヒソ話に気づいたのか、前を歩くセレナがくるりと振り返った。


 その瞳には、いたずらっ子のような光が宿っている。


「あら、聞こえていますよ? 運を引き寄せるのも実力のうちです。それに、シオンお姉様があなたたちを放っておくはずがないって、どこかで確信していましたもの!」


 セレナは上機嫌で、鼻歌でも歌いそうな足取りで廊下を進んでいった。


 朝、馬車が学園の正門に到着すると、そこには二人を待ち構える多くの生徒たちの視線があった。


 昨日までの「恐怖」に加えて、「王女の奴隷が生徒会入りした」という異例の事態。


 学園中の注目は、もはや飽和状態にまで達していた。


 生徒会加入の噂は、昨日カズトが刻み込んだ圧倒的な恐怖の記憶と合わさり、劇的な効果を生んでいた。


 クラスメイトたちは彼らが通るたびに弾かれたように壁際へ寄り、教師たちは腫れ物に触るような恭しさで接する。


 皮肉にも、暴力と権力の両方を手にしたことで、三人はかつてないほど平穏で静かな一日を過ごすことになった。


 放課後。


 夕焼けが差し込み、真紅に染まった豪華な生徒会室。


 重厚なデスクの向こうで、シオンが羽ペンを置いた。


「はい、これで登録完了。今日からあなたたちは、生徒会長直轄の『特別執行委員』よ。まあ、初日だし今日は挨拶と書類の手続きだけで十分。週明けから、学園の裏側でコソコソ動くネズミたちの掃除を手伝ってもらうから、よろしく頼むわね」


 シオンは深い緑の長髪を揺らしながら、満足げに二人に赤色の腕章を手渡した。


「ネズミの掃除、ですか。俺、あんまり地味な作業は得意じゃないんですけど」


 カズトが腕章を受け取りながら苦笑すると、シオンは唇の端を吊り上げた。


「安心して。あなたがやるのは地味な作業じゃなくて、地道に調べて見つけた巣を叩き潰すことよ。あなたのあの雷なら、抑止力にはうってつけでしょう?」


「やっぱり荒事担当じゃない。まあ、変に気を遣われるよりはマシだけど」


 零が隣で呆れたように肩をすくめる。


「あら、あなたのことは事務仕事でも頼りにしているわよ? あなた、カズトの手綱を握るのが世界で一番上手そうですもの」


「それは……否定できないわね」


 セレナはその様子を横で眺めながら、自分も生徒会室の豪華なソファに我が物顔で座り、紅茶を一口啜った。


 二人のやり取りを、セレナは誇らしげに見守っている。


「明日は学園はお休みですから、二人の活躍は週明けからになるのが残念ですが、期待していますよ」


 嵐のような学園デビューが終わり、週末の休息を前にして、三人はそれぞれの決意を胸に生徒会室を後にした。

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