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初登校

翌朝。王立学園の正門前。


 黄金の装飾が施された豪華な王家の馬車が止まると、周囲の生徒たちの視線が一斉に集まった。


「さあ、着きましたよ。カズト、零、準備はいいかしら?」


 馬車の扉が開くと、まずはカズトと零が先に降り、セレナをエスコートするために左右に分かれて立つ。


 ピシッと着こなした制服姿のカズトと、大人びた魅力で制服を着こなす零。


 しかし、その首元には隠しようのない「魔導首輪」が鈍い光を放っていた。


「おい、見ろよ。セレナ殿下の後ろにいる二人」


「あれが噂の犯罪者奴隷か? 男の方はなんだか弱そうだな。もう一人の女は、驚くほど美人だが、やっぱり首輪が」


 ひそひそという陰口や、好奇の視線。


 十分に想定された反応に、カズトの表情は驚くほど晴れやかで落ち着いていた。


(視線が痛いけど、シンさんの殺気に比べればそよ風みたいなもんだな)


(カズト、さっそく可愛い女の子に鼻の下伸ばしてないわね? よしよし)


 零が隣でジト目を向けてくるが、カズトは気づかないフリを通した。


「ふふ、皆注目していますね。さあ、行きましょうか」


 セレナ達はざわつく生徒たちの間を堂々と歩き始めた。


 学園の教室。


 そこには、一般的な転校生が味わうような「新しい仲間への期待」や「爽やかな自己紹介」の時間は一切なかった。


 二人が教室に入った瞬間、賑やかだった室内は静まり返る。


 それは得体の知れない不純物を見るような、忌避感の混じった視線だった。


 貴族の令息令嬢たちにとって、首輪を嵌められた犯罪者奴隷と同じ空間で授業を受けること自体、屈辱に近い出来事なのだ。


(うーん、自己紹介もなしか。まぁ、その方が楽でいいけどな)


 カズトは冷ややかな空気を感じながら、セレナのすぐ斜め後ろ、護衛用に用意された末席に座った。


 零もその隣に、背筋を伸ばして静かに腰を下ろす。


「ふふ、そんなに緊張しなくていいですよ。さあ、授業が始まります」


 午前中の授業は「魔法と属性の歴史」の座学。


 教壇に立つ老教授は、二人の首輪を一瞥して不快そうにしたが、セレナの睨みを利かせた視線に気づくと、そそくさと教科書を開いた。


(なるほど、属性は全部で七つ。火・水・風・土・光・闇、そして失われた雷があるのか。それにしても雷の話が少ないな。もっと詳しく知りたいぞ)


 カズトは自身の属性である「雷」が、この世界でどのように扱われてきたのか興味を持ち始めていた。


 一方、零も真剣そのものだ。


 これまで独学や実戦で身につけてきた知識を体系化しようと、真面目にノートを取っている。


(カズト、意外と真剣じゃない。何か気になる内容でもあったのかしら?)


 そんな中、ふとカズトは自分たちを見つめる「別の視線」に気づいた。


 教室内には、セレナを苦々しく思う勢力や、その護衛である自分たちを「排除」しようと目論む一部の過激な貴族生徒たちの影が見え隠れしている。


 カズトは教科書を眺めながら、頬杖をついて考え込んだ。


(そもそも『雷装』も『来霆』も、修行で覚えた感覚で使ってるんだよなぁ。魔法って他にどんな使い方があるんだろ。と言うか俺、他の属性の魔法は使えるんだろうか?)


 ふと気になって、机の下でごく小さな魔力の塊を手の中に作ってみた。


(火とか、水とか。イメージを……)


(ちょっとカズト、何してるのよ。授業中に魔力を練るんじゃないわよ。目立つでしょ)


 隣に座る零が、ノートを取る手を止めずに小声で釘を刺してきた。


(あんたは特異体質みたいなものだから、基礎ができてない状態で他属性に手を出すと暴走するわよ。気になるなら、午後の実技の授業で試せばいいじゃない)


(分かってるよ。ちょっと気になっただけだって)


 カズトが魔力を霧散させると、前方の席のセレナが、ふり返って悪戯っぽい笑みを向けた。


「ふふ、カズト。退屈そうですね? 先ほどの内容、わたくしが後でじっくりと腰を据えて教えてあげましょうか?」


 周囲の男子生徒たちの、カズトを射殺さんばかりの視線がさらに鋭くなったのは言うまでもなかった。


(これはまた所有物アピールの一環か?でも、俺がバカだと思われれば、それはそのままセレナ様の不名誉になる。勉強も真面目にやらないとマズいな)


 カズトは真面目にペンを握りしめる。


 零が驚いたように目を丸くする。


(あら? 急にやる気になったじゃない。明日は槍じゃなくて、雪でも降るかしら?)


(うるさいな。零、さっきの属性変換のところ、後でノート貸してくれよ。王女様に恥をかかせるわけにはいかないからな)


(ふーん、いい心がけね。わかったわ、後でたっぷり教えてあげる)


 零はフッと口角を上げると、さらに細かく解説を書き加え始めた。


 午前の授業が終わり、セレナは弾むような足取りで二人を先導した。


「さあ、お昼にしましょう! ここの学園の食堂はとっても美味しいんですよ!」


 しかし、食堂の大きな扉の前に差し掛かったところで、数名の男子生徒たちが壁を作るように立ち塞がった。


 中心にいるのは、取り巻きを連れた高位の貴族と思われる少年だ。


「これはセレナ殿下。午前の座学に続き、お食事までその『汚らわしい連中』とご一緒されるおつもりですか?」


 彼はカズトたちを直接見ることもなく、セレナに「進言」する形で冷ややかに言葉を続ける。


「王女殿下が、首輪を嵌められた犯罪者奴隷と同じテーブルに着く。それは我ら貴族社会への侮辱とも取れます。殿下、どうか目を覚ましてください。その者たちは外の犬小屋の隣などで食べさせるのが妥当かと」


 周囲からクスクスという笑い声が漏れる。


(犬小屋の隣、か。随分な言い草だな)


 カズトは無表情を保ったが、隣の零が静かに怒りで拳を握るのを察知した。


(カズト、手を出したらダメよ。ここは学園なんだから)


 零は自分に言い聞かせるように小声で釘を刺すが、その瞳もまた鋭く据わっている。


 そんな二人の前に、セレナが一歩踏み出した。


「わたくしの品位が下がる、ですって?」


 セレナの声は、驚くほど低く、冷たかった。


「誰と食事をしようが、それはわたくしの自由です。わたくしが認めた相手を侮辱することは、わたくし自身を侮辱しているのと同じだということが、分からないのかしら?」


「っ! 殿下、私はあくまで王家のために!」


「黙りなさい。カズト、零! 行きましょう。道を塞ぐ不届き者がいるなら、蹴散らして構いませんわよ」


 二人が対応に窮していると、騒がしい入り口に凛とした声が響き渡った。


「そこまでにしなさい、皆さん。入り口を塞いでいては他の生徒の迷惑ですよ」


 人だかりが割れ、腕に『生徒会長』の腕章を巻いた女子生徒が歩み寄ってきた。


「セレナ殿下、ご機嫌麗しゅう。そしてあなた達、そこを退きなさい。彼らが誰であれ、現在は学園に籍を置く生徒です」


「会長! しかし、奴隷が我らと同じテーブルで!」


「校則を忘れたのですか? 『学園内において全生徒は法の下に平等であり、身分差を持ち込むべからず』。……建前すら守れない者は、上に立つ資格はありませんよ」


 彼女の有無を言わさない迫力に、上位貴族の生徒たちは渋々道を空けた。


 生徒会長は一度だけカズトと零の首輪を見つめると、セレナに向き直った。


「殿下。校則に従い彼らの立ち入りを認めますが、それによって起こる周囲の反発を抑えるのは、保証人の義務です」


「はい、ありがとうございます、生徒会長。それでは行きましょう、カズト、零」


 セレナは再びカズトの腕を奪うようにして食堂の中へと進んでいった。

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