登校準備③
城内の巨大な鏡が据えられた広間で、仕立て上がったばかりの制服に身を包んだ二人が、セレナの前でお披露目をすることになった。
「さあ、見せてください! 二人の晴れ姿がどうなったのか!わくわく!」
セレナが期待に胸を膨らませて椅子に深く腰掛ける中、まずはカズトが少し照れくさそうに前に出た。
「……どうですかね。こういう服、あまり慣れないのですが」
紺碧の生地に金の縁取りがなされたジャケットは、特訓で引き締まったカズトの体躯をより際立たせている。
奴隷の首輪さえなければ、どこかの名門貴族の令息に見えるほどの凛々しさだった。
「まぁ! とっても素敵ですよ! 普段の野性的な感じもいいけれど、こうして整えられると……ふふ、零が独り占めしたくなるのも分かってしまいますね」
そして、カズトの横に並んだ零。その制服姿は、落ち着きと、隠しきれない発育の良さが同居していた。
「私は、やっぱりこのスカートが落ち着かないわ。それに、胸のところが少しきついのよね。採寸間違ってないかしら」
零は、ジャケットを押し上げるような双丘の重みを気にしながら、短めのプリーツスカートを引っ張るようにして整える。
十八歳という大人への入り口にいる彼女の魅力は、少女らしいセレナとはまた違う、完成された美しさを放っていた。
「いいえ、完璧です! 女性としての魅力を出しながらも、その凛とした佇まい! カズトが思わず見惚れてしまうのも無理はありません!」
「ちょ、セレナ様! 変なこと言わないでください。……でも、零。似合ってるよ。いつもの服装より、その、大人っぽく見える」
「……。バカズト、変なところ見ないでよね。まぁ、あんたも悪くないんじゃない」
零は頬を少し赤らめて視線を逸らしたが、カズトの制服姿をそっと盗み見て、嬉しそうに口角を綻ばせていた。
「ふふ、明日の登校が本当に楽しみですね。カズト、零。学園ではわたしの面目を保つためにも、堂々としていなさい。不当な扱いを受けることがあれば、わたしが許しませんから」
セレナは満足げに二人を見上げ、明日から始まる新しい生活に思いを馳せた。
意外と寂しがりや?なセレナ様がいくら「一緒に寝る」と言っても、毎晩のように王女の寝室に奴隷が泊まり込むのは、流石に近衛兵や侍女たちの目が厳しすぎる。
この日はセレナをなんとか説得し、零は久しぶりに二人きりの奴隷部屋へと戻ってきた。
質素な石造りの部屋に、硬めのベッド。
しかし、地獄の特訓を共に乗り越えてきた二人にとっては、ここが一番落ち着ける場所でもあった。
「ふぅ。やっと一息つけるな。セレナ様の勢いには、トカゲ相手より疲れるよ」
「そうね。でも、明日からは学園よ。今夜は早く寝ましょう」
「そういや昨日はセレナ様のところで寝たんだっけ? きっと良いベッドなんだろうなぁ」
カズトの言葉に、零は昨夜、セレナに「抱き枕」にされて一睡もできなかったことを思い出し、頬を引きつらせた。
「まぁ、確かにふわふわで寝心地は良かったけど、色々と落ち着かないから私はこっちの方が好きよ」
そう言って、零は2人で使っている狭いベッドに身を沈める。
カズトもまた、零の隣に横たわった。
窓から差し込む月明かりが、壁にかけられた真新しい制服を照らしている。
「……なぁ、零。学園に行ったら、俺たちのこと『犯罪者』だって責めるやつもいるだろうけどさ。俺、零のことだけは絶対に守るから」
暗闇の中で、カズトがぽつりと呟いた。
零は少しだけ目を見開き、それから背中を向けたまま、小さく答えた。
「……あんたと違って私が犯罪者なのは事実なのだから、そんなに気負わなくてもいいわよ。でも、私もあんたがバカなことしないように見張っててあげる。おやすみ、カズト」
「ああ、おやすみ」
静寂が部屋を包み込む。
明日から始まる、貴族たちの悪意と嫉妬が渦巻く学園生活。
二人の本当の戦いは、これから始まろうとしていた。
次回からようやく学園編がスタートします。




