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尋問②

カズトは頭を掻きながら、自分の中に蓄積されていた元の世界の知識を必死に手繰り寄せた。


「うーん……今の状況と、俺が見てきたラノベとかの知識をフル動員して考えると、この世界の女神様はそこまで細かく俺たちの行動に関与してきてないパターンなんじゃないかな、って思うんです」


 セレナと零が、意外な視点からの言葉に耳を傾ける。


「結果的に文明をリセットさせているっていうのが事実だとしても、そのやり方はかなり……なんていうか、大雑把に感じるんですよね。もし本当に俺たちの行動がすべて手のひらの上だってレベルなら、転移者は一人いれば十分な効果を発揮させられるはずじゃないですか」


 カズトは自分の右手を見つめ、確信を深めるように言葉を続けた。


「女神様はたぶん、種火をパッと放り投げるだけで、あとは『燃え広がるのを待ってる』だけみたいな感じなんですよ。そろそろ落ち葉が溜まってきたから、溢れる前に火を入れる。火が消えそうなら、また次を投げる。……その火がどこを焼くか、どう燃えるかまでは、細かくコントロールしてないんじゃないかな」


 少しずつ熱を帯びてくるカズトの説明に、零が眉を潜めて聞き返した。


「……コントロールしてない? つまり、私たちが誰を殺して、誰を助けるかは自由だって言いたいの?」


「そう、自由というか……女神様にとっては『火が燃えさえすれば、どっちでもいい』ってことなんじゃないかと。だからこそ、俺が王女様を殺せなかったのも、零が俺を助けたのも、それは女神様の台本じゃなくて、俺たちの……『俺たち自身の意志』だと思うんです」


 カズトのこの独自の解釈は、絶望的な運命論に支配されかけていた部屋の空気を、わずかに軽くした。


 だが、その直後。


 隣に座る零が、どこか意地悪く、けれど納得したように唇を端を上げた。


「あー、、なるほど。カズトは今回『追加』で入れられた種火だから、能力が――失われた雷魔法っていう、微妙なレベルのスキルだったってことね」


「……零さん、辛辣すぎませんか」


 カズトが頬を引きつらせる中、後ろで腕を組んでいたシンまでもが、淡々と追撃を加える。


「確かに、汎用性が高くこの世界にないものすら作り出せる零の『アルケミスト(錬金術師)』に比べれば、カズトの雷魔法はそもそもこの世界に存在していたものだからな。強力ではあるが、世界の理を壊すほどの異常とまでは言えない」


「やっぱり、俺の能力ってチートってほどでもないんだな……悲しい。かっこいいからいいけどさ、、」


 テーブルに突っ伏さんばかりに肩を落とす。


「経験値千倍とか、全能力無限とか、もっとこう……分かりやすいぶっ壊れチートなら、面白おかしく生きていけたのに。俺、本当にただの『後から足された薪まき』じゃんか……」


 脳裏をよぎるのは、向こうの世界で読み耽った物語の英雄たち。


 自分もそうなれるのではという淡い期待は、現実という冷や水を浴びせられて急速に萎んでいく。

 

 ラノベのような無敵の主人公にはなれない。


 その事実を突きつけられ、カズトは目に見えて肩を落とした。


 あまりに深くうなだれるカズトの姿に、今度はセレナが慌てて身を乗り出した。


「そんな、カズト! 雷魔法だって十分凄いですよ。シンを出し抜いてあんな一瞬で私に接近できる人なんて、この国には……ええと、たぶん、そんなにいませんから!」


「フォローになってませんよ、王女様……」


 必死に励まそうとする王女の優しさが、逆にカズトの胸に突き刺さる。


 そんなやり取りを眺めていた零が、ふっと表情を和らげた。


「まぁぶっ壊れチートだと、それはそれで女神の思い通りの劇薬になるだろうから、良いのかはわからないけどね。現状雷魔法がオンリーワンの能力なのは確かだし、あんたには『異常な魔力』っておまけもあるみたいだから。磨けば少しはマシな火種になるんじゃない?」


彼女は自分で最初にカズトを撃っておいて、自然な動作でカズトの乱れた髪を指先で梳くように撫でる。


 その手のひらの温もりに、カズトの強張っていた肩の力が少しだけ抜けた。


組織にいた頃の彼女には決して見せなかった、どこか慈しむような仕草だった。


ダメージからのフォロー。実にスムーズな零のマッチポンプである。


 セレナはその様子を微笑ましく見つめていたが、やがてカズトの言葉を噛みしめるように、ゆっくりと視線を落とした。


「『種火を投げるだけ』、ですか。もしそうだとすれば……その火が世界を焼き尽くすための火になるのか、それとも暗闇を照らすための温かな灯火ともしびになるのか。それさえも、投げられた火……つまり、あなたたち次第だということになりますね」


 顔を上げ、二人を真っ直ぐに見据えた。


 その瞳には、彼らを単なる「所有物」としてではなく、運命を共にする「個」として認める強い光が宿っていた。


「もしかして、その『百足』のボスも……転移者なのではないですか?」


 セレナがふと漏らした推測に、部屋の空気が凍りついた。


「零と目的が同じだというのも、そう考えれば合点がいきます。同じ場所から、同じように理不尽に放り出された者同士なのだとしたら」


 零はティーカップを握る指に力を込め、その可能性を噛みしめるように目を伏せた。


「……確かに。私自身が『追加の種火』に過ぎなかったのだと考えれば、このアルケミストという能力が、単体で世界を滅ぼすほど異常なものではない理由も頷けるわ」


 自嘲気味に呟く零に対し、カズトは喉まで出かかった言葉を飲み込み、複雑な表情を浮かべる。


(……いや、アルケミストは十分チートだと思うんだけどな。その辺の石からでも物質を組み替えてSF的な機械作るとか、普通に考えれば反則級だよ?無から有を生み出すようなもんでしょ?等価交換の法則とかどこに行ったの?)


 視線だけでそう訴えかけると、敏感に察した零が鋭い目線で射抜いてきた。


「何よ、その顔は。言っておくけど、この能力だって意外と制約が多いんだからね! だからこそ、私は格闘技術を磨くしかなかったんだから!あんたの単純な魔法と一緒にしないで」


「……、でも、もしそうだとしたら」


 カズトは零の抗議を軽く受け流し、先ほどまでの「チートじゃなくて残念」という落胆を、警戒心へと塗り替えた。


「もし『百足』のボスが零よりも前の世代の、あるいはもっと初期に呼ばれた転移者だとしたら。その能力は、零よりもさらに強力で、凶悪なスキルである可能性がある。それこそ、一人で歴史をリセットできるような、本当の『ぶっ壊れ』が……」


 もしボスが、自分たちよりも「先」に投げ込まれた、より巨大で強力な種火なのだとしたら。


自分たちが組織で感じていたあの「逆らえば消される」という絶対的な恐怖の正体は、単なる権力ではなく、神から与えられた規格外の暴力そのものだったのではないか。


「でも、理屈がどうあれ、俺は零と、王女様を守るために強くならなきゃいけないことに変わりはないです」


 真っ直ぐな、けれどどこか気恥ずかしそうなその言葉は、豪華な部屋の静寂に波紋を広げた。

 

 その真っ直ぐすぎる視線に、セレナは悪戯っぽく微笑んで小首を傾げた。


「あら。まるで零さんの『ついで』に守られるみたいですね。ふふっ」


「あ、いえ! そういう意味じゃなくて、その……優先順位とかじゃなくてですね!」


 必死に手を振って焦る様子を見て、それまで緊張感の漂っていた部屋に、和やかな笑い声が響いた。


 それを見ていた零も、少しだけ呆れたように、けれど隠しきれない慈しみを口元に浮かべて、隣に座る「相棒」を見つめている。


 セレナは少し表情を和らげ、カズトの目をじっと見つめた。


 その瞳には、一国の王女としての仮面ではなく、一人の少女としての純粋な光が宿っている。


「セレナよ。これからは、そう呼んでも構いません」


「えっ、、セレナ……様」


 いきなりの許可に、面食らったようにその名を口にする。


 それを見ていたシンが、隣で苦々しい顔をして腕を組んだ。


「……殿下。甘すぎます。これでは奴隷というより、ただの近衛が増えたようなものではないですか」


「いいのですよ、シン。彼のような『火』は、檻に閉じ込めるよりも、自由に燃えさせる方が私の助けになってくれる気がするのです。」


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