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第9章:瓦礫の中の花と、遺された写真

季節は巡り、かつて戦火に包まれていた街には穏やかな陽光が降り注いでいた。連邦軍の降伏による終戦から数ヶ月。世界はクリスチャンという新たな指導者のもと驚異的な速度で復興の道を歩んでいた。

街のあちこちからは破壊音ではなく、建設のための槌音が響いている。その活気ある大通りを一人の軍人が静かに歩いていた。クリスチャンである。

彼は新調された真新しい軍服に身を包んでいた。激戦で失われた左腕は最新のパーツで完全に修復されていたが、左目はまぶたに傷跡があり依然として閉じられたままである。技術的には修復可能であったが彼はあえてそれを拒んだ。まぶたを閉じた状態で内部ロックされたその左目は、彼が背負った罪と二度と過ちを繰り返さないという戒めの象徴だった。

「あ!総統閣下だ!」

市民たちが彼に気づき、敬意のこもった眼差しを向ける。

かつて「白い悪魔」と恐れられた殺戮兵器の姿はそこにはなく、平和の守護者としての姿があった。

その時、一人の小さな子供が警備兵の制止をすり抜けてクリスチャンの方へ駆け寄ってきた。

「……?」

クリスチャンが足を止めると、子供は恥ずかしそうに背中に隠していた手を差し出した。その小さな手には、瓦礫の隙間から摘んできたであろう一輪の野花が握られていた。

「これ、あげる。おじちゃん、守ってくれてありがとう」

周囲の大人たちが息を呑む中、クリスチャンは膝をつき子供と視線の高さを合わせた。かつて戦場で見た、爆弾を抱えさせられた少年の姿が脳裏をよぎる。だが、目の前にいる子供は兵器としてではなく、未来への希望として笑っていた。

「……ありがとう。大切にするよ」

クリスチャンは穏やかな笑顔で花を受け取った。彼の表情筋を動かしているのはプログラムではない。胸の奥から湧き上がる温かな感情だった。

その日の執務を終え、クリスチャンは自室へと戻った。無機質な司令室とは異なり、彼のプライベートルームは質素で静かだった。彼は机の上に置かれた小さな花瓶に、子供から貰った花を丁寧に生けた。

そして、その隣には彼にとって何よりも大切な「宝物」が飾られていた。古びた木製のフォトフレームに収められた一枚の写真である。

そこには、長いひげを蓄えたマンフレート博士と完成したばかりのクリスチャンが並んで写っていた。博士の家で見つかった数少ない遺品の一つであり、奇跡的に戦火を免れた希少な一枚だった。写真の中の博士は、まるで我が子の誕生を喜ぶ父親のような慈愛に満ちた笑顔を浮かべている。

「博士……。世界は少しずつ、あなたが望んだ形に向かっています」

クリスチャンは写真に語りかけるように呟いた。復興はまだ始まったばかりだ。しかし、この花のように瓦礫の中でも希望は確実に芽吹き始めている。

彼は閉じられた左目を指先で触れ、再び誓った。この平和を守り抜くことこそが、遺された自分の使命であり父への最大の親孝行なのだと。

窓の外には、修復されつつある街の明かりが星空のように輝き始めていた。

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