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第7章:支配者の論理

豪奢な執務室に踏み込んだクリスチャンに対し、この国を統べる総統は驚くほど冷静さを保っていた。彼はゆっくりと革張りの椅子から立ち上がり、隻眼となった最強の兵器を見据えた。

「……我が軍の最高傑作ともいえるお前が、なぜここにいる? なぜ反逆している?」

総統の声には恐怖よりも純粋な不可解さが滲んでいた。彼にとって『The Human』はプログラム通りに動く道具に過ぎなかったからだ。

クリスチャンは血に濡れた刀を下げたまま、怒りを押し殺した低い声で答えた。

「貴様らが命を、博士の遺志を、どう扱ったかを知ったからだ」

総統は鼻で笑った。

「道具が感情を語るか。いいか、戦争に犠牲はつきものだ。人間も、貴様らアンドロイドも、国家という巨大な機械を動かすための部品に過ぎない。」

彼は両手を広げ、悪びれる様子もなく続けた。

「壊れれば新しいものを作る。消耗すれば補充する。それが効率というものだ。貴様の生みの親である博士も、その崇高な目的のために貢献して死んだのだ。光栄に思うべきだろう?」

その言葉は、クリスチャンの逆鱗に触れた。

「……貴様にとっては、すべての命がただの数字なのか」

クリスチャンの瞳が赤く発光し殺気が膨れ上がった瞬間、総統が指を鳴らした。

「議論は終わりだ。排除せよ」

その合図と同時に部屋の隠し扉が開き、重装備に身を包んだ兵士たちが雪崩れ込んできた。彼らは総統直属の親衛隊であり軍の中でも最強の精鋭たちだった。

「かかれッ!」

護衛たちは特殊な電磁警棒と高出力のライフルで武装し、連携してクリスチャンに襲い掛かった。だが覚醒したクリスチャンの演算能力は、彼らの動きをスローモーションのように捉えていた。

ライフルの一斉射撃をクリスチャンは人間離れした跳躍で回避し、天井のシャンデリアを蹴って背後へと回り込む。

「遅い」

一閃。高周波ブレードが唸りを上げ、最前列の兵士たちの武器を、その腕ごと切り裂いた。「ぐあぁッ!?」

悲鳴が上がる間もなくクリスチャンは次の一手へと移行していた。彼は兵士の懐に飛び込み、強靭な拳でアーマーの上から心臓を打ち砕く。精鋭と呼ばれた男たちが、まるで枯れ木のように次々となぎ倒されていく。圧倒的な暴力の前に戦術も数も無意味だった。

わずか数分の後。執務室は静寂に包まれた。床には精鋭部隊が折り重なるように倒れ伏し、立っているのは返り血を浴びたクリスチャンただ一人だった。

「ば、馬鹿な……最強の精鋭たちだぞ……」

総統は腰を抜かし自身のデスクにしがみついた。その顔からは血の気が引き、脂汗が流れていた。

クリスチャンは冷ややかな笑みを浮かべ、チャキリと刀を鳴らしながらゆっくりと総統へ歩み寄った。「次は貴様の番だ」

追い詰められた総統は震える手で懐から小さなリモコンを取り出した。それはクリスチャンの頭脳を破壊するための「キルスイッチ」だった。

「く、来るな! それ以上近づくとこいつを押すぞ!」

総統は半狂乱で叫んだ。

「これを押せば、お前の脳回路に高圧電流が流れ、即座にスクラップだ!」

だが、クリスチャンは足を止めなかった。以前の彼ならば恐れていただろう。しかし今の彼は違った。彼は不敵な笑みを浮かべ、さらに一歩踏み出した。

「押せよ」

「け……警告はしたぞ...覚悟しろ!」

総統は絶叫し、親指でスイッチを押し込んだ。

カチッ

乾いた音が響く。しかし、クリスチャンは倒れるどころか平然とした顔で歩みを進めてくる。

「な、なぜだ!? 遠隔でお前に電流が流れるはずだ! なぜ倒れん!?」

パニックに陥り何度もボタンを連打する総統。クリスチャンは彼の手からリモコンをもぎ取ると、自身の軍服のポケットから、ある物体を取り出して見せた。

「もしかして、探しているのはこれか?」

それは、血とオイルにまみれた小さな電子チップ――電流ユニットの残骸だった。

「なッ……!?」

「ここへ来る途中、痛覚機能を遮断し自分の体からえぐり出して破壊した」

クリスチャンはそのユニットを握りつぶし、粉々にして床に捨てた。

総統の最後の希望は絶たれた。彼は膝から崩れ落ち、這いつくばってクリスチャンの足元にすがった。

「た、助けてくれ……! 頼む、金ならいくらでもやる! 地位もやる! だから命だけは……!」

総統は涙を流し、なりふり構わず命乞いを始めた。その無様な姿は、かつて彼が「道具」と呼んで見下していた存在への完全なる敗北を意味していた。

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