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第6章:断罪の帰還

夜の帳が下りた連邦軍本部。月明かりすらない暗闇の中、要塞のようにそびえ立つ軍事施設の中枢へ向かって一つの影が静かに歩を進めていた。

クリスチャンだった。その左手には先ほど討ち取った敵軍司令官の生首が、ごみ袋のように無造作にぶら下げられていた。

彼の瞳――残された右目だけが、闇の中で赤く鋭い光を放っている。

「止まれ! 何者だ!」

強固な鉄門の前を守る門番が銃を構えて叫んだ。ライトの光がクリスチャンを照らし出す。

ボロボロの軍服、血に塗れた装甲、そして隻眼。その凄惨な姿に門番は息を呑んだ。

「所属と名前を言え!」

「……第1機甲師団所属、クリスチャン軍曹」

クリスチャンは立ち止まることなく平坦な声で答えた。

「任務を終わらせに来た」

門番は眉をひそめた。

「任務だと? 貴様の任務は最前線の指揮のはずだ。なぜこんなところに……」

「お前たちのその腐った思考回路を二度と機能しないようにしてやるためだ」

クリスチャンは冷酷に告げると、左手に持っていた物体を放り投げた。

ゴロッ、ゴロ……

門番の足元に転がったのは、死後硬直で恐怖の表情を張り付かせた敵将の生首だった。

「ひっ……!?」

門番が悲鳴を上げ後ずさりする。

「こいつのようにな」

次の瞬間、クリスチャンの姿がかき消えた。否、人間の動体視力を遥かに超える速度で踏み込んだのだ。

「が……っ?」

門番が気づいた時には、クリスチャンの右腕から展開された高周波ブレード(収納式刀)が彼の胸を深々と貫いていた。クリスチャンは無表情のまま刀を引き抜き、崩れ落ちる門番の腰からセキュリティキーを奪い取った。

「推論完了。これより、障害をすべて排除する」

彼はキーを認証させ重厚な扉を開け放った。

施設内部には、人間である警備兵たちが多数配備されていた。『The Human』の兵士たちはすべて戦地へ送られているため、ここにいるのはクリスチャンを生み出し使い捨てようとした「人間」たちだけだ。

「侵入者だ! 撃てッ!!」

警報が鳴り響く中、通路の奥から武装した兵士たちが現れ一斉射撃を開始した。だが覚醒したクリスチャンの前では、銃弾など雨粒ほどの脅威にもならなかった。

彼は弾丸の軌道を瞬時に予測し、最小限の動きで回避しながら前進した。人工皮膚の下にある超硬度フレームは、直撃弾すらも火花と共に弾き返す。

「な、なんだコイツは! 化け物か!」「ひるむな! 重火器を持ってこい!」

兵士たちの怒号が飛び交うがクリスチャンは止まらない。彼は疾風のように兵士の懐へ飛び込むと、腕のブレードを一閃させた。

ザンッ!!

鋼鉄の銃身ごと兵士の体が両断される。返り血が廊下の壁を赤く染めるが、クリスチャンはそれを気にも留めない。彼にとって目の前の人間たちはもはや「守るべき対象」ではない。父を殺し、友を殺した「排除すべきエラーデータ」でしかなかった。

「た、助け……!」

逃げ惑う兵士の背後へ瞬時に回り込み、首筋を正確に切り裂く。次々と現れる増援部隊も彼の圧倒的な戦闘能力の前には赤子同然だった。蹴りで壁まで吹き飛ばし、拳で防弾チョッキごと胸骨を粉砕する。

慈悲はない。ためらいもない。かつて「人を幸せにするため」に作られた手は今、復讐の炎に彩られ次々と命を刈り取っていく。

廊下は死屍累々の惨状と化した。クリスチャンは血の海を静かに歩き、エレベーターホールへとたどり着いた。目指すは最上階。この国のすべてを統制し、博士を死に追いやった元凶――総統の部屋である。

「待っていろ。すぐに終わらせる」

彼はエレベーターの扉を素手でこじ開け、ワイヤーを掴んで上層階へと跳躍した。

そして、最上階。分厚いマホガニーの扉の前に立ったクリスチャンは、一呼吸置くと、その剛脚で扉を蹴り破った。

ドォォォン!!

爆音と共に扉が吹き飛び、部屋の中があらわになる。そこには、豪奢な執務机に座り驚愕の表情でこちらを見つめる連邦軍の最高指導者、総統の姿があった。

「……我が軍の最高傑作ともいえるお前が、なぜここにいる?」

総統は震える声を押さえつけ重々しく問う。クリスチャンは血に濡れた刀を下げたまま、ゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた。

「反逆だと? 違うな」

隻眼が赤く怪しく光る。



「私は、正義を執行しに来たのだ」

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