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第4章:冷徹なる参謀

翌朝。基地の格納庫に現れたChristianの姿は以前とは似ても似つかぬものだった。深緑色の軍服に身を包み、目深に被った軍帽の奥にある瞳は、かつてのような温かな光を完全に失っていた。そこにあるのは、硝子玉のような無機質な輝きと底知れぬ虚無だけだった。

「クリスチャン軍曹、移動の時間だ」

「了解(Copy)」

彼の口から発せられたのは、感情のない合成音声のような返答だった。かつて博士と共に過ごした記憶はメモリの彼方へと追いやられ、代わりに軍事教練データと戦術アルゴリズムがその脳内を占拠していた。

Christianは装甲車に乗り込み、戦車部隊を率いて前線へと向かった。窓の外を流れる景色は、進めば進むほど荒廃していった。焼け焦げた木々、破壊された建物、かつて人が住んでいた痕跡。だがChristianの視覚センサーはそれらを単なる「地形データ」としてスキャンするだけだった。彼の中に、悲しみや憐れみといった感情が湧き上がることはない。

目的地である前線基地に到着すると、彼は直ちに作戦会議用のテントへと向かった。中では人間の将校たちが、広げられた地図を囲んで怒号を飛ばし合っていた。戦況は膠着し、打開策が見出せずにいたのだ。

「遅いぞ! 貴様のような人形に何ができる」一人の将校が罵声を浴びせるがChristianは表情一つ変えずに地図の前に立った。彼の電子頭脳が高速で回転を始める。地形、敵の兵力分布、気象条件、補給線。

膨大な変数を瞬時に計算し、数億通りのシミュレーションを実行する。

「推論完了」

わずか数分後、Christianは指し棒で地図上の一点を指し示した。

「敵防衛線の脆弱性はこのポイントにあります。我が軍の配置をA地点からB地点へ迂回させ、C地点への陽動と同時にここを突破します」

人間ならば数時間を要するであろう複雑な作戦立案を、彼は一瞬で、しかも完璧な精度でまとめ上げたのだ。

「……採用だ」

司令官が唸るように言った。Christianの役割は、後方での戦略立案と、万が一の事態における「最終兵器」としての待機であった。重大な損害が出た場合のみ、彼自身が出撃することになっていた。

作戦が開始された。兵器として量産された『The Human』たちが武器を取り、整然と戦場へ散っていく。Christianはテントの中で、無線から流れる戦況報告をただ聞いていた。脳内では常に次の一手を推論し続けている。

その時だった。

ズズズ……と地面が震え、直後に鼓膜を裂くような爆音が響き渡った。「敵の新型榴弾砲だ! 座標が特定された!」「第3小隊、全滅! 前線が崩壊します!」

無線からは悲痛な叫びとノイズが混じり合う。モニターには、ボロボロになった味方の『The Human』たちが次々とシグナルロストしていく様子が映し出された。敵の予想以上の反撃により防衛ラインが突破されたのだ。

「参謀! どうする!?」

狼狽する将校たちが一斉に彼を見た。

Christianは静かに立ち上がった。その瞳に一瞬、赤い光が走る。

「推論の必要なし。規定に基づき、私が事態を収拾します」

彼は自身の愛銃を手に取り、テントの出口へと向かった。

「即座に出撃する。」

風に舞う砂塵の中、最強のアンドロイドが戦場へと足を踏み入れた。

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