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『煙の異世界を往復』 3話岩の国の危機

岩の国に戻った大輔とアニーを待っていたのは、王の急病と国全体を包む異変だった。

女神の魂を現世界へ持ち出したことが、二つの世界の均衡を揺るがし始め―


白い煙の渦がゆっくりと晴れていく。

 その先に見えたのは、黄金色の王城だった。

 だが、前とは違う。

 門前の衛兵たちは慌ただしく走り回り、城内の空気には重い緊張が漂っていた。

「王がお倒れになった!」

 使者の声が響いた。

 アニーは胸を押さえ、大輔の肩にすがった。

「どうして……私たちがいない間に」

 二人は急ぎ王の居室へ向かった。

 寝台の上で、王は浅い息を繰り返していた。

 額には冷たい汗が滲み、唇の色は青い。

「医術師を呼べ!」と誰かが叫ぶ。

 だが医術師たちは首を振った。

「治療は尽くしました。しかし、王の生命の灯が次第に薄れております」

 アニーは女神の袋を握りしめた。

「まさか……」

 大輔がその表情を見つめた。

「何か思い当たるのか?」

「緑の女神の魂を、私が現世界に持ち出したの。あのとき、何かが……」

「世界の均衡が崩れた?」

 アニーは唇をかみしめ、静かにうなずいた。

 その夜、王城の空には不思議な現象が起きた。

 いつも黄金色に輝く月が、淡い緑に染まっていた。

 城の巫女たちはそれを「魂の揺らぎ」と呼んだ。

 世界と世界の間で、命の力が流れを変える時に現れるという。

 アニーは女神の袋を開き、緑の光を見つめた。

「この魂を、元の場所へ返さなければ……王は助からない」

「でも、現世界でお前のおかげで母が助かったんだぞ」

「分かってる。でも、命はどちらか一つしか守れないかもしれない」

 アニーの瞳が震えた。

 そのとき、女神の声がふたりの耳に届いた。

 静かで、どこか悲しげな声だった。

『アニー、大輔――命の均衡を戻すには、二つの世界を繋ぐ扉を再び開けねばならぬ。

 だがその煙の道は、今や不安定。誰か一人が残らなければならない。』

 沈黙の中で、アニーが顔を上げた。

「私が残ります」

「だめだ、アニー!」

「これは私の責任よ。女神の魂を持ち出したのは私。

 大輔、あなたは現世界を守って。あなたのお母さんを、そして人々の暮らしを……」

 その声には、強い決意がこもっていた。

 大輔は何も言えなかった。

 ただ、彼女の手を握りしめる。

 温もりが消えてしまわぬように。

 やがて、城の中央の祭壇で儀式が始まった。

 金と緑の光が渦を巻き、煙が天井まで立ちのぼる。

 アニーは静かに微笑み、女神の袋を王の胸に置いた。

「さようなら、大輔。きっとまた会えるわ。煙の向こうで――」

 光が弾け、煙が空へと立ち上る。

 次の瞬間、王の顔に血の気が戻り、穏やかな寝息が聞こえた。

 その一方で、アニーの姿はゆっくりと消えていった。

 ――静寂。

 残されたのは、淡い香の煙と、アニーの髪飾りだけだった。

* * *

 数日後、王は完全に回復し、大輔を呼び寄せた。

「アニーの犠牲を無駄にはせぬ。彼女の魂は、この国の光と共にある」

 大輔は深く頭を下げた。

 涙が頬を伝い、金の床に落ちた。

 その滴が、小さな光となって消えた。


第3話は岩の国の“均衡の崩れ”と、アニーの決意を描きました。

物語はここから大きく転換します。

次話では、アニーの消失後に大輔が何を選ぶのか。

引き続きよろしくお願いいたします。

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