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第10章 後編:情報を掘り起こす

かすかな爆発音が静寂な空気を裂き、青々とした草原を揺らした。小さな火球が猛スピードで空を駆け抜け、大きな岩にぶつかると、その表面に焦げ跡を残した。煙がゆっくりと空に向かって立ち昇り、やがて風に消えていく。


少し離れた丘の上、一本の木陰にもたれかかる男がいた。彼の右手には複雑な彫刻が施された魔法の杖が垂れ下がり、その鋭い目は草原の向こうにいる小柄な少女を捕えていた。彼の表情には退屈と苛立ちが混ざりつつも、わずかな興味が浮かんでいる。


「ふん、ようやくやり遂げたか。」

男はあくびを押し殺しながら呟いた。


「随分時間がかかったな…待ってる間に昼寝でもしそうだったぞ。」


広大な草原では、カルヴァとミルノイスの訓練が続いていた。

カルヴァの手のひらから放たれた火球が岩に命中した瞬間、彼女の瞳は興奮で輝き、跳び上がって喜びを爆発させた。


「やった!」

カルヴァは嬉しさを隠しきれず、拳を振り上げた。


「ついにできた!私、本当にできた!」


近くで腕を組んで立っていたミルノイスは、フードの影からその様子を見つめていた。表情の多くは隠れていたが、唇の端に浮かぶ微かな笑みが彼の心境を物語る。彼はわざとらしく拍手を送り、口調にわずかな嘲りを含ませながら言った。


「おめでとう。やっと成功したな。」

ミルノイスは平坦な声で言いながら、かすかに含み笑いを浮かべた。


「たった一つのティア1の魔法スキルを習得するのに半日もかかったとは。まあ、偉業といえるのかもしれんな。」


カルヴァは頬を膨らませ、拳を握りしめて抗議した。


「ちょっと!重要なのはできたことよ!これで私もみんなと同じように魔法が使えるんだから!」

彼女は顎を少し上げて、挑発を受け流すような態度を取った。


ミルノイスは深いため息をつき、訓練の跡が残る岩を指さした。


「分かった、成功だ。それは認めよう。」

彼は静かに続けた。


「だが、調子に乗る前にそのスキルの仕組みを説明してみろ。」


カルヴァは姿勢を正し、遊び心を抑えて集中した表情を見せた。彼女は何時間もかけて覚えた内容を、自信を持って説明し始めた。


「新しいスキルを習得するには、まず『ステータスメニュー』を確認します。」

彼女は真剣に話を続けた。


「そこには習得可能なスキルが表示されています。でも、それを選んでいきなり使うことはできません。まず訓練しなきゃいけないんです。」


ミルノイスは腕を組みながら静かに頷き、彼女に話を促した。


「続けろ。」


「スキルを習得した後、それを使うには、スキルにマナを集中させます。」

カルヴァは得意げに話し続けた。


「熟練者はスキルの名前を口に出さなくても使えます。ただ、頭の中で考えるだけで発動します。でも、初心者や集中力が足りない人は…」


彼女は胸を張り、笑顔で結論づけた。


「スキルの名前を口に出したり詠唱するのが一番確実です!」


ミルノイスは冷静に彼女の説明を評価した。


「正しいな。ただ、それで自惚れるなよ。」

彼は辛辣な言葉で彼女の誇りを軽く切り捨てた。


カルヴァは頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻り、興奮した声で叫んだ。


「でも、これで魔法が使えるようになった!これで立派な冒険者に一歩近づいたんだよね!」


「そうだな。実に驚異的だ。たった半日でティア1のスキルを一つ習得するとは。」

ミルノイスは辛辣な笑みを浮かべながら、皮肉たっぷりに答えた。


カルヴァはその挑発を流し、達成感に満ちた笑顔でミルノイスを見つめていた。彼女にとって、今日の成果は何よりも輝かしいものであった。


「次のスキルに挑戦したい!」

カルヴァは興奮を抑えきれずに叫んだ。彼女は手を高く掲げ、その瞳は期待に輝いていた。


「今度は雷の魔法を訓練するよ!例えば...『ライトニング・ボルト』なんてどう?めちゃくちゃカッコいいと思わない?」


ミルノイスは片眉を上げ、少し意地悪そうな微笑みを浮かべた。


「カッコいい、ね。」

彼は軽い調子で言い返し、首を横に振った。


「残念だけど、今日は無理だ。」


「えっ?」

カルヴァは驚いた表情で彼を見上げた。


「どうして?もっと早くスキルを覚えたほうが良いじゃない!」


ミルノイスは指を水平線に向け、夕焼けに染まる空を示した。


「空を見ろ。」


その夕日の光は金色とオレンジの美しいグラデーションを描いていた。


「もう夕方だ。それに、お前はようやくティア1の魔法スキルを一つ覚えたばかりだろう?それだけで半日以上かかった。『ライトニング・ボルト』を今から訓練したら、ここで野宿する羽目になる。それでも成功する保証はないがな。」


カルヴァは不満そうに唸りながら、頬を膨らませた。


「わかったよ…じゃあ次は何を訓練するの?」


「お前は少し視野が狭すぎる、カルヴァ。」

ミルノイスは冷静に答えたが、その言葉には鋭さがあった。


「バトルメイジを目指すなら、魔法だけに頼るな。物理攻撃スキルも鍛えなければならない。」


カルヴァの表情は一瞬で変わった。不満げだった顔は、新たな挑戦に燃えるような輝きに満ちていた。


「物理攻撃スキル?それ、すごく面白そう!早く始めたい!」


ミルノイスは思わず軽く笑った。


「お前はまるで夏の空だな。曇りから晴れに一瞬で変わる。」


「えっ?それってどういう意味?」

カルヴァはむっとした表情を見せたが、すぐに興味津々な顔に戻った。


「それで、どうやって始めるの?」


「ステータスメニューを開け。」

ミルノイスは簡潔に指示した。


「ティア1の物理攻撃スキルを確認しろ。」


カルヴァは透明なインターフェースを召喚し、その青い光に目を輝かせながらスクロールを始めた。


「うーん…どれがいいかな?」


「迷っているのか?迷うな。」

ミルノイスは彼女の肩に軽く手を置き、からかうような笑みを浮かべた。


「『ピアシング・ストライク』を選べ。それは剣でも槍でも短剣でも斧でも使える汎用スキルだ。」


「ピアシング・ストライク、か…」

カルヴァは真剣な表情でリストを探し、やがて顔を輝かせた。


「あった!見つけた!」

彼女は歓声を上げた。


「よし、これにする!」


スキルを選択した瞬間、彼女の体に温かな感覚が走り、新たな力を得たことを知らせた。木の剣をしっかり握り、カルヴァはミルノイスを振り返った。


「準備できたよ!さあ、始めよう!」


ミルノイスは片手を挙げて彼女を制した。


「訓練を続けていいが、俺は少し休憩を取る。五分だけな。」


「えっ?」

カルヴァは瞬きをしながら困惑の表情を見せた。


「今、休憩?どこに行くの?」


「新鮮な空気を吸ってくるだけだ。」

彼はあえて無関心を装いながら肩をすくめた。


「お前が魔法スキル一つに苦労するのを見ていたら疲れたんだよ。少しリフレッシュさせてくれ。」


カルヴァは頬を膨らませたが、渋々頷いた。


「わかったよ。ここで待ってるから。」

彼女は小声でぶつぶつ文句を言いながら、木の剣を振り始めた。


ミルノイスが数歩進んだ瞬間、空気が唐突に変わった。それまで草をそよがせていた穏やかな風が、突如として完全に消え去り、不気味な静寂が空き地全体を包み込んだ。頭上の木々の葉も揺れるのをやめ、宙に浮かんでいるかのように静止している。


剣の握りを調整することに気を取られていたカルヴァは、この異変にまるで気づかなかった。


その時だった。暗闇そのものから生まれたかのように、異形の怪物が彼女の背後に姿を現した。その姿は見る者の理性を否定するような異様さを放ち、ねじ曲がり、崩れた体の裂けた口から鋭い歯が剥き出しになっていた。剥がれ落ちた皮膚の下で脈打つ筋肉がむき出しとなり、その動き一つひとつが嫌悪感を抱かせる生々しい存在感を漂わせていた。


ミルノイスはそれを目にする前に、その得体の知れない気配を感じ取った。振り返ると同時に、その異形を捉え、息を呑んだ。彼の表情には珍しく動揺の色が浮かび、その目が鋭く細められる。


怪物はカルヴァの背後にただ静かに立ち尽くしていた。唸り声も咆哮も発することなく、ただその存在そのものが恐怖の沈黙を生み出しているかのようだった。その赤く燃えるような目には明確な意思が宿り、じっとカルヴァを見据えていた。


「カルヴァ!」

ミルノイスは雷鳴のごとき叫び声を上げ、不気味な静寂を打ち破った。


彼は前方に飛び出し、右手に魔法の炎を宿らせながら、その脅威を打ち倒す準備をした。


「ん?」


その声に反応してカルヴァは振り向いたが、彼女が異形の姿を捉える前に、それはまるで幻影であったかのように霧散した。空気に溶け込むように、一瞬で跡形もなく消え去り、そこに残るのはただ元通りの穏やかな草原だけだった。


「えっ?どうしたの?」


カルヴァは名前を呼ばれたことに驚き、混乱した表情でミルノイスに問いかけた。


ミルノイスは眉間に皺を寄せながら、怪物が立っていた場所を鋭く見つめ続けていた。拳をぎゅっと握り締め、内心では疑念が渦巻いている。


「『インスタント・テレポーテーション』…しかも、あれほどの速さでだ。一瞬だった。間違いない、あれは『奴』のスキル…」


困惑したカルヴァは再びミルノイスの方を振り向いた。


「えっ?何?何が起きたの?どうしてそんな大声を出したの、先生?」


ミルノイスは内心の動揺を押し殺し、顔に皮肉めいた笑みを浮かべてカルヴァに向き直った。


「ちょっと反射神経を試しただけだ。」

軽い調子で言い放ったが、その声にはどこか緊張感が滲んでいた。


「ふーん、先生がそう言うなら。」

カルヴァは首をかしげながらも、最終的に肩をすくめるだけだった。しかし、額にはまだ疑念の影が残っていた。


一方、ミルノイスの胸中では怒りが渦巻いていた。


「これが『安全地帯』だって?冗談じゃない。このエリアは監視者が管理しているはずだ。なのに、あんなものがどうして入り込める?」


その時、かすかな魔力の波動が彼の意識に触れた。おなじみの人物からの念話だ。短いやり取りの後、彼は深いため息をつき、その吐息には苛立ちが滲んでいた。


「まったく…素人め。」


そう呟くと、カルヴァに向き直った。


「訓練を続けろ。すぐ戻る。」


彼女が返事をするより先に、ミルノイスはその場を離れた。その鋭い視線は地平線の向こうを貫き、まるでその先に潜む何者かを捉えようとしているかのようだった。


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ミルノイスは魔力を集中させた。柔らかな青い光が彼を包み込み、そのオーラがゆったりと揺らめく。彼はまるで大地の束縛を解かれたかのように、一歩を踏み出す。その瞬間、空中に漂うように身を浮かべ、高位スキル《飛行フライ》が発動する。視界に映る地面が徐々に遠ざかり、風が彼の精巧に織られたマントをなびかせた。その下に隠された秘術の刻印が一瞬輝き、そして消える。


ミルノイスの目は遠くの丘に注がれていた。そこに彼の関心を一手に引き寄せる何かがある。


「まったく…面倒なことばかりだ。」

抑えた声には、どこか投げやりな苛立ちが滲んでいた。


やがて丘の頂上が視界に入る。ミルノイスは滑らかに高度を下げ、草の茂る地面に音もなく着地した。深く息を吸い込み、目の前の静寂を味わおうとしたのも束の間――視界に飛び込んできた光景が、その一瞬の安らぎを容赦なく壊した。


巨木にもたれかかる男。その姿を認めた瞬間、ミルノイスは眉をひそめる。


「…やっぱりお前か。」

軽く鼻で笑いながら、沈黙を破った。


「『インスタント・テレポーテーション』をこんな軽々しく使うのは、お前くらいのものだ、リヴェル。」


木の下に立つ男がいたずらっぽい笑みを浮かべながら、振り返る。その栗色の髪はポニーテールに結われ、風にそよいでいた。一般的な魔法使いの装束とはかけ離れた装い――腰丈にも満たない短い茶色のクロークに、動きやすそうなパンツ、そして光沢のあるブーツ。無駄のないその服装は、飾り気がないながらも洒落た印象を与えていた。何より、鮮やかな緑色の瞳が茶目っ気たっぷりに輝いている。


リヴェル・オーンドレル。


その名前は、ミルノイスの記憶に深く刻まれている。


「いや~危なかったな、ミルノイス」

軽い調子で投げかけられた言葉。その無邪気な口ぶりに、緊張感など微塵も感じられない。


ミルノイスは深い溜息をつきながら、冷たい目で彼を睨む。


「…リヴェル。」

その低い声には、冷徹さが宿っていた。


「お前以外に、高位の転移魔法をこんなくだらない目的で使う奴がいるとは思えない。子供を助けるためだけに?…一体何を考えている?」


リヴェルは肩をすくめると、悪びれもせず笑みを浮かべた。


「いや~、ちょうどいいタイミングだっただろう?俺のお気に入りのスキルがあれば、こんなの朝飯前さ。もし間に合わなかったら、どうなってたかなんて…考えるだけでゾッとするだろ?ははっ!」


ミルノイスはリヴェルを睨みつけたまま、さらに声を低くして言葉を返す。


「俺の力があれば、あの化け物など瞬時に消し飛ばせた。派手に、な。」


「確かにね~。」

リヴェルは軽く笑いを漏らし、続けた。


「でもさ、お前の派手なやり方のさ…あの女の子にはちょっと刺激が強すぎるんじゃないか?ほら、肉片がそこら中に飛び散ってさ――まるで虫を叩き潰したみたいに。そんなの、誰が見たってトラウマだろ?」


リヴェルの言葉に、ミルノイスは反論しなかった。彼の指摘は正しい。ミルノイスのやり方は常に効率的で、結果を最優先する。しかし、それをリヴェルが軽口で指摘するたびに、苛立ちはさらに深まるばかりだった。


「まだ答えてもらってないぞ。」

ミルノイスの声には冷たさと鋭さが宿り、問答無用の圧が漂っていた。


「ここに来た目的はなんだ?お前は何を望んでいる?」


リヴェルは肩をすくめ、いつもの飄々とした笑みを浮かべながら軽く首を傾けた。


「えへへ~、相変わらず単刀直入だな、ミルノイス。まあいいさ、答えてやるよ。俺はただ、好奇心で来ただけだ。お前やオリンがあの小娘――カルヴァが特別だって言うけど、正直言ってピンと来ないね。ただの子供が、スキルを覚えて強くなろうとしてるようにしか見えない。」


ミルノイスは腕を組み、リヴェルを睨むような鋭い視線を崩さなかった。


「俺もまだ完全には納得していない。しかし、二つの理由がそれを否定させない。」


その言葉にリヴェルの笑みが一瞬だけ薄くなる。


「二つの理由?」


ミルノイスは軽く息を吐き、表情を引き締めた。


「一つ目は、彼女が獲得した二つの特異な《アチーブメント》だ。この世界のシステムが他の誰にも与えたことのないもの。そして二つ目は――」


一瞬、言葉を区切る。


「――たった二十体のスライムを倒しただけで、異常なほどのレベルアップをしたことだ。」


リヴェルの目がわずかに細められる。軽い態度を崩さぬまま、口の端を吊り上げた。


「へぇ、そんな速さでレベルアップか。それは確かに普通じゃないな。でも、特別だって言うのはちょっと言い過ぎじゃないか?」


「かもしれん。」

ミルノイスは短く答えた。


「だが、この世界のシステムが彼女を特別扱いしているのは事実だ。その《アチーブメント》が何かを暗示しているとしたら、俺たちはそれを無視できない。」


リヴェルは顎に手を当て、笑みを思索的なものに変えた。


「えへへ~、まあ、それも一理あるな。このシステムって時々妙なことをするからな。でも、そこまで深読みするのもどうかと思うけどね。」


ミルノイスは小さく溜息をつき、会話が堂々巡りになるのを悟った。


「今はその話はいい。それよりも目の前の問題を片付けるべきだ。」


彼は周囲を見渡し、鼻をつまむ仕草をした。


「この臭いには耐えられん。お前がその死体を片付けられるんだろう?」


近くには巨大な化け物の無惨な死体が転がっていた。その姿は圧倒的な暴力の痕跡を物語り、残留魔力の輝きがまだかすかに漂っている。


「これがさっきカルヴァを襲おうとした奴か。」


ミルノイスが低く呟くと、リヴェルは木にもたれかかりながら得意げに笑った。


「えへへ~、大正解。ちょっと手荒に扱っちまったけどな。ちょっと『特別な手当て』をしてやったのさ。バカめ、自分が何にやられたかもわからないうちに終わりだ。あはは~。」


ミルノイスは鼻で笑いながら死体を睨む。


「徹底的に破壊してるな。どんな魔法を使ったのかは知らんが、普通じゃない。」


「そりゃそうさ。」

リヴェルは肩をすくめた。


「俺はきっちり片付ける主義だからな。えへへ~。」


ミルノイスは手をひらひらと振り、臭いを払うようにした。


「もういい。その臭いをどうにかしてくれ。」


リヴェルの笑みがさらに広がり、彼は右手を掲げた。


「えへへ~、喜んで。」


次の瞬間、彼は右手を掲げ、掌を下に向けた。ややだるそうに手首を回し、掌を上向きに返すと、巨大な死体は一瞬にして跡形もなく消えた。音もなく、痕跡も残らず、そこには空気だけが残されていた。


「どこに送った?」

ミルノイスが平坦な声で尋ねると、リヴェルは楽しげに笑った。


「えへへ~、そのうちわかるさ。ちょっと怒る奴が出るかもしれないけどな。」


ミルノイスは呆れたように溜息をついた。


「ああ、誰のことか見当がつく。」

そう言って溜息をつき、肩を落とした。


「お前は相変わらずだな。」


「当たり前だろ。」

リヴェルは満面の笑みを浮かべ、軽く肩をすくめた。


「えへへ~、それが俺の魅力だからな。」

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