愛の在処
非道い男ね、となじる言葉とは裏腹に、媚を含んだ女の声音が渡久地の神経をぴり、と逆撫でする。
白いシーツを絡み付かせながらすり寄ってきた冷たくて柔らかい腕を、湿ったベッドから抜け出すことで避けた。
非道くない男などいるものか。
頭の隅でちらりと考えて、咥えていたタバコをサイドテーブルの灰皿にぎゅっと押し付ける。シャツに袖を通していると、また会える?、と女が甘えた声を出し、さわさわと衣擦れの音をさせた。
振り向かずに無言を返すと、
「ほんとに、ひどいひとね」
うって変わって無機質な声で、女はぼそりと呟いた。渡久地は、やはり振り返らないままで寝室の扉に手を掛けた。開けた扉の後ろで、女が長い溜息を吐いた。
非道くない男などいないと、反芻しながら新しいタバコを咥え、女の部屋を出た。白々しい灯りが照らす廊下を進み、エレベーターのボタンを押した。ライターを取り出し火を点ける。深々と吸い込んだ煙が、喉を焼いた。
ここは禁煙だ、と飽きもせず注意する声が、ふと耳の奥に蘇る。
さらりとした温かい手のひらの感触を思い出した。
非道くない男などいない。
本当にそうなのだろうかと、頭が過去をなぞりそうになったとき、チン、と静かな音をさせて、エレベーターの扉が開いた。
それを合図に渡久地は思考を止め、するりと箱の中に滑り込んだ。




