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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

愛の在処

作者: 篠朝樹
掲載日:2010/03/26

 非道い男ね、となじる言葉とは裏腹に、媚を含んだ女の声音が渡久地の神経をぴり、と逆撫でする。

 白いシーツを絡み付かせながらすり寄ってきた冷たくて柔らかい腕を、湿ったベッドから抜け出すことで避けた。


 非道くない男などいるものか。


 頭の隅でちらりと考えて、咥えていたタバコをサイドテーブルの灰皿にぎゅっと押し付ける。シャツに袖を通していると、また会える?、と女が甘えた声を出し、さわさわと衣擦れの音をさせた。

 振り向かずに無言を返すと、

「ほんとに、ひどいひとね」

 うって変わって無機質な声で、女はぼそりと呟いた。渡久地は、やはり振り返らないままで寝室の扉に手を掛けた。開けた扉の後ろで、女が長い溜息を吐いた。


 非道くない男などいないと、反芻しながら新しいタバコを咥え、女の部屋を出た。白々しい灯りが照らす廊下を進み、エレベーターのボタンを押した。ライターを取り出し火を点ける。深々と吸い込んだ煙が、喉を焼いた。



 ここは禁煙だ、と飽きもせず注意する声が、ふと耳の奥に蘇る。

 さらりとした温かい手のひらの感触を思い出した。



 非道くない男などいない。


 本当にそうなのだろうかと、頭が過去をなぞりそうになったとき、チン、と静かな音をさせて、エレベーターの扉が開いた。

 それを合図に渡久地は思考を止め、するりと箱の中に滑り込んだ。


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