22 初めての冷やかし
食事会当日、待ち合わせのカフェレストラン。
ソファー席がメインで、色んなタイプのソファーがある創作料理のお店で、イタリアン、フレンチ、日本料理、中華、ベトナムなどの幅広くいろんな人に対応しているらしい。
飲み物もアルコール類やソフトドリンクもたくさんあって、必ずお酒という雰囲気じゃないのがとても嬉しい。
田伏くんが探してくれたみたいだ。
彼はとても親しく接してくれて、私をお母さんと思ってくれているのかもしれない。かなり早くに産んだ的な⋯
レストランに入ると、とても広々と感じさせてくれて、開放感がある。
「ゆり姉!こっち!」
「あ、田伏君、斎藤さん。」
いつもとは違う雰囲気の2人。でも親しくなったからホッとする。
今日は20人ほどらしいが、半分くらいはもう既に集まって、飲み物だけで楽しんでいるらしかった。いつも仲良くしてくれている三人と、徐々に話すようになった同じ課の人達。
登坂さんもいた。
私のためにあるような食事会だけど、来ていた。
文句を言われるのかとちょっと警戒したけれど、目が合っても特に何の反応もなく、同僚の二人と話していた。
「こんにちは、とても素敵なところね。さすが田伏君。」
「でしょ。もうゆり姉にくつろいで、美味しく味わって欲しいから頑張ったよ。ご褒美に今度お茶連れて行って!」
と、ニコニコしながら言ってきた。本当に憎めない人たらしだ。
「わざわざ人の休み奪っといて、ご褒美も何もないだろう。」
そう言って、私と田伏くんの間に割って入ってきた雅也さん。少し不機嫌そう。まだ眠いのかもしれない。
「溝口課長、お疲れ様です。」
「本当に来てくれたわ。」
「飲み物何にしますか?普段着はまた違っていいよねー」
みんな雅也さんが来たことを察知すると構いだす。
「課長!こっちに座ってください。」
女子社員から強引に座らされていた。
「じゃあゆり姉、あっちのソファー座り心地いいから」
そう言って雅也さんとは少し離れた、深く座れる布地のソファーの所に連れていかれた。確かに座るととても心地よくて、何よりも体に馴染む感じだった。
「どう体に優しい感じだよね。」
「ええ、ほんと。田伏くん、このお店よく来るの?」
「二回目かな。どんなところか、雰囲気だけ知りたくて一回来たから。ついでに座らせてもらって、で、ランチ食べてみても美味しかったし、ここならゆり姉もあんまり疲れないかなぁと思ってね。店員さんもスマートな感じだったし」
「わざわざ下見まで⋯私いたわられているのね。ふふ、ありがとう。とても嬉しいけど、申し訳ないわ。」
「いや別に年寄り扱いじゃないよ!やっぱりもてなす相手に喜んでほしいから⋯ゆり姉に」
少し拗ねたように横を向きながら、そういった田伏くんに少し違和感を覚えたけれど、面倒見のいい子なんだなぁと思うことで、深く考えなかった。
メニューは、みんなそれぞれ好きなのを注文することになっていたから、こういうカフェには珍しい。せっかくだから和食系を注文した。
雅也さんのところは、女子がお皿に取り分けて食べてもらおうと、みんな一生懸命だった。⋯なんとなくモヤモヤする。
「ゆり姉、このかぼちゃの煮物美味しいよ。食べてみて」
田伏くんは、私にサーブしてくれて、飲み物もよく気にしてくれる。
「田伏、お前すごい懐いてるな」
「本当だなぁ、それ俺にもくれよ」
「あ、広瀬さん。こっちのグラタンも美味しいよ」
いつの間にか、周りに営業の人達が集まってきていた。
事務入力が主な仕事だけど、手の空いている時や私が頼みやすいからと、営業さんのお手伝いを嫌がらずにやっていたら、いつの間にか気さくに話してくれるようになった。
私はただパソコンができない分雑務を何でもやって、会社でいらない、とならないよう時間内の働き分をやっていただけなんだけど⋯そういうことを、他の女子社員はやってくれないのだとか。
この課の女性はキャリアアップのために、スキルが男性並みにあったり、それ以上というのもあり昔で言うお茶汲みとかそういう雑務は、女性がするのが当たり前ということは全くなくなっているというのが当たり前のよう。
私はただスキルがないのだから、そういう雑務でも使ってもらえるというのがあっただけだ。それにお茶を淹れるのも好きだから。
そうしていると、一人の男性が私の肩を抱いてきて、
「結束してるよな、ここの課は。」
と上機嫌で、少し酔いが回ってる感じで、楽しげに言ってきた。
「····はいそうですね。皆さんのお役に立てるようパソコンも少しずつですが、覚えてきてますが、まだまだなので早く他の方と同じぐらいこなせるように頑張ります。」
「もう十分だよなぁ」
と、もう一人の田伏くんと同じくらいの年齢の男子社員も、なぜか私の頭を撫でている。
みんな陽気になるのね。
ちょっとスキンシップ⋯私を女性だと、あまり思っていないようだわ。まぁ若い子からすれば、おばさんなんだろうな。
そう思いながら、どうしようと思っていたら田伏くんが止めに入ってくれて、少しほっとした。
「ゆり姉にあんまり触らないでくださいよー。」
田伏くんが、庇ってくれた···時
「おい、それはセクハラだ、やめろ!清水、滝川!」
少し離れて座っている雅也さんが、大きな声で注意してきた。
「セクハラってー俺たち、広瀬さんより下ですし、団結してるって話してるんすよ」
「上下じゃない、セクハラは」
「えーそうなんすか、広瀬さん嫌でした?」
「えっ、あっ、いやではないですよ、大丈夫です。ただあまりなでなでされた事ないから···若い人のノリについていくのがちょっとびっくりして⋯」
雰囲気を悪くしてはいけないので、お互い気まずくならないように考えた返答だ。
「大丈夫ですから、溝口課長!」
と、清水くんが離れている雅也さんへ向かって言い始めたら、いつの間にか目の前に来ていて、私の隣に割って入ってきた。
「えっ!!」
「悪さしないようにな」
そう言ってドサッと座った。
周りの人達もびっくりしているし、さっきまでいた場所の彼狙いの女子社員たちが、なんでとか、私もあっちに行こうかとか、とても残念そうに言っていた。
「そんなんしませんよ。僕もいるから、ゆり姉大丈夫ですよ」
「課長あっち戻らなくていいんすか?女性たちブーブー言ってますよ」
田伏くん達が戻るように促したが、彼はもうここが自分の場所だと言わんばかりに、どかっと後ろに深く座って手ソファーの背もたれにおいてくつろぎ始めた。
「落ち着いて食べて飲みたいからな。もう充分付き合った。あーお腹空いたな、広瀬さん、どれがうまかった?」
「えっ、あっ、はい。この煮物とかキッシュも優しい味で美味しいですよ」
「そう。取ってもらっていいかな」
「分かりました。適当に他のも入れますね。」
「うん、ありがとう」
雅也さんは、私を見ながらいつも二人でいる時のように優しく微笑んだ。
「えっなに二人って、何か違わない?」
「付き合ってるみたいだなぁ、本当にどうなの!?広瀬さん」
周りがからかい始めた斎藤さんまで加わってきて嬉しそうに言ってきた。
「そんなことないですよっ、茶葉の在庫とかで他の人達より接する機会が多いから、慣れてしまってるのかも⋯」
なんだか焦るように言ってしまった。
「えーなんか怪しいなぁ。どうなんすか?課長」
「うん、彼女の言った通りだよ。それに馴れ馴れしくしてないし、話しやすいしね。」
と私を見ながら、微笑んだ。
「その顔のやり取りが怪しいんですよね」
斎藤さん鋭い⋯さすが女性といったところか。
女の人がこういう細かいところに違和感を覚えたりするものだ。
私も元夫の浮気を何か違和感でといった感じで発覚したのだから⋯
「気のせいですよ、ね?ゆり姉のは、僕がとりました。かぼちゃ好きだよね、はい、かぼちゃのオーブン焼き」
そう言って話題を変えるように、田伏くんが私の隣に座って話してきた。
「ゆり姉、僕もそれ食べさせて」
「え⋯」
田伏くんが口を開けて待ってる⋯どうしよう⋯
その瞬間、私のお皿のカボチャを雅也さんが、自分のフォークで取り、田伏くんの口に突っ込んだ。
一口大のカボチャを放り込まれて、ゴホゴホ言ってる。
「あっ!大丈夫⁉️田伏くん」
「溝口課長!それはな⋯いんじゃ⋯ゴホ⋯酷いですよー」
苦しそうに言葉を発しながら訴えてる。慌てて水の入ったグラスを渡した。
「ワハハハ!田伏、お前もセクハラだなぁ!」
周りにいた人達は、初めは雅也さんの行動にびっくりしてたけど、普段しない行動が面白かったのか騒ぎになった。
「課長最高っす」
「そうか?いつも頑張ってる部下に褒美をやらなきゃと思ってな」
「目がっ···目が笑ってないじゃないですか?課長!」
田伏君が涙目になりながら訴えると、みんなまた笑った。
他のとこにいる人達も盛り上がっていると取られたのか、輪に入ってきてみんなで騒ぎながら、楽しく他のお客さんに迷惑にならないように、時間を過ごしていた。
会社では話さないような、プライベートなことなどをみんなお互いに話して、あっという間の2時間が来た。二次会カラオケに行こうと、田伏くんや、斎藤さんにも誘われたけれど、私のための会だから、1時間だけお供して、あとは由美子の彼氏が家に来るから、食事の準備をしないといけないと、嘘を言って抜けさせてもらった。
みんなごめんなさい。
雅也さんは、ランチ会だけで帰っていった。
後で待ち合わせすることになってるから。
ちなみにランチは、彼がみんなにご馳走してくれた。みんな口々に感謝して持ち上げていた。
雅也さんが仕事で返してくれるのを楽しみにしてるというと、一人の営業さんが
「分割でーお返しします!」
と言ったら、みんなどっと笑った。




