成長
私は生まれたときから記憶にある限り1度も外に出たことが無かった。私の世界は彼女と本から得られる知識だけで構成されていた。それだけで何不自由なく生活できたのだから外に出る必要は感じていなかったのだ。だが復讐を誓ったからには外に出なければならなかった。何も知らぬまま飛び出すわけにもいかず私は2年ほどを費やし人体について学んでいた。といっても、家にある医学書を1から読み返しただけだが。
全ての医学書を読み終えた私はついに外に出るために準備を始めた。私の家は所謂街外れにあるようであれを探すとなると、もう帰ってくることは困難になるだろうと思い数日分の食物だけを持ち家を出ることにした。彼女との穏やかな日々を過ごしたこの家を最後に一瞥し私は扉を閉じた。僕を、私を見送るようにドアから紙がひらりと落ちたのは無人になったこの家だけが知るところとなった。
初めての外、感動なんてものはない。ただまっすぐに歩き続けるだけ、景色も風のにおいも感情を揺らすことはなく五感をはじめから持ち合わせていないかのように、ただそこに存在していることを認識するのみ。事の木も、あの山もあの鳥も、ただそこに存在するのみだった。
暫く歩き続け、遠目に民家が見えてきた。あまり大きな街ではなさそうだが、貧富の差がありそうに見える。手前にある家は雨風ならば凌げそうだが、あまり大きな自然災害に耐えることはできそうに見えない。奥に小さく見えるレンガ造りの家はほどほどに大きく寒い冬も問題なく乗り越えられそうに見える。そんなことを考えていると、ちらほらとヒトが見えてきた。木の棒を持った腰の曲がった彼女、小さい僕、小さい彼女。視界に入るヒトの中にあれはいなさそうだった。
ついに私は街に足を踏み入れた。あれを見逃さないように街の隅々まで目を配り街を進んでいく。この辺りは、貧しい人間が多いようだ。辺りには枝のような腕の人間がちらほらと座り込んでいる。この辺りには、あれはいないだろうか、と考えていると視界の端に動くものが見えた。引き寄せられるように暗い脇道へと入り、先に立ち尽くすそれを見た。
「見つけた....。」