9話
今回は老子視点です。
何も必要ないと言って訓練所に歩き出した音和を見る。体術でも使うのだろうか、出来れば魔法なしでの戦闘も見たいところではあるのだが。
「音和よ、まずは魔法なしでの戦闘も見たいと思うのじゃが、可能かの? そして本当に武器はいらんのか?」
「武器はいらないよ、自前のがあるからね。じゃあ最初は武器での立ち回りを見せるよ」
自前の?持っているようには見えないし、そもそも異世界から持ち込むことは出来ないようになっているはずじゃが……? とりあえず進めよう。
「では、まずは1体の傀儡から出す、準備はいいかの?」
「いつでもどうぞ」
そう言って自然体でいる音和。しかし武器を持つ様子は相変わらずない。本当に大丈夫なのだろうか。近衛兵級の傀儡を出す気でいたが、100体出せるくらいの弱さまで引き下げようかの……。
そう思い、傀儡を1体出すが……、何かが飛来し爆散した。
「は?」
周りで見守っていた一般兵や、それに紛れている数人の近衛兵も呆然としている。
「あんまり舐めたやつを相手にさせるなら辞めても良いんだよ?」
気付けば音和は、どこからともなく取り出した、大きなロングボウで残心の構えをしていた。矢で爆散させたというのか?
「どこから出したのかの。いや、それよりもすまんの、武器をいつまでも用意する様子が見られなかったからとりあえずで出してしまったわい。まずは1体出すからの、次はまともなのをの」
とりあえず思ったより遥かに強いというのはわかった。傀儡では勝負にならないだろうが、始めるとしようか。相手が弓なのならば、こちらは速射のしやすいショートボウを出すか。
「いくぞ」
「どうぞ」
この距離なら撃つのが早い方が撃ち合い自体は勝てると思うが、音和は普通に躱してくるだろうからな……。
音和はすぐには動かない様子。こちらの傀儡の方が先に矢を放つ。しかしここでも音和は予想外の行動に出た。
「遅いし狙いが甘い」
放たれた矢を一歩だけ動き手づかみしたかと思うと、自分のロングボウは投げ捨て傀儡の方に突っ込んできた。
「何を……?」
そもそも高速で放たれたはずの矢を手づかみしているだけでありえないが、自分の武器を捨てて矢だけ持って突っ込んでくるのもありえない。
「違う戦い方も見せておかないとね?」
音和は突っ込んできたかと思いきや、突然消えた。転移だろうが、いったいどこに……?
「……とーーーーう!」
と、一瞬考えたのも束の間、音和が上から降ってきた。上空に転移していたのか! 時間的にはそこまで上空ではなさそうだが、速度はかなり出ている、自力で加速もしているようだ。いや、最初に転移をせずに突っ込んできたのはこの最初の速度を出す為か?
「対生物ならー! 脳天貫かれたら死ぬでしょー!?」
音和は叫びながら、そのままの速度で矢で頭を貫いた。普通ならその速度では着地するどころか傀儡と激突するだけになるだろうが……。
「よっ、と」
矢を突き刺して片手逆立ちの状態で静止し、そのままゆったり着地した。
「相変わらず無茶苦茶じゃの……。どこから武器を出したのかと聞きたいのもあるが、それよりも何よりも、武器がなくても近接戦闘出来るというのがよくわかったわい」
相手の武器を奪ってそのままそれで相手を仕留められるのなら、確かに武器はいらん。それよりも、あの動きが出来るなら、武器を奪う必要すらないだろう。
「武器はもともと持ってるんだよ、普段は仕舞ってるだけで。私は弓が好きだから、いつでも射れるようにしてるんだ」
仕舞ってる……歴代の勇者の一部が持っていたとされる別次元にモノを仕舞う能力か。そうか、転移も出来るなら、空間系能力の延長線上の能力なら使えるわけか。
「それもあまり言わんほうが良いぞ。ここにいる皆には緘口令を敷いておくが、転移と同じく便利に使われる上に使える人はほぼおらんからの」
「ああ、やっぱり? でも一応ね、戦えるのを見せるにはこれが手っ取り早いかなって思って」
一応考えてはいるのか。まあ、音和くらいなら変なのに絡まれたところで自力でどうにかしそう、というか相手のことの心配をしてしまうくらいではあるが。
「まあ確かに逆に強すぎるくらいのを見せつけた方が安心かつ安全かもしれないがの。一応この国としても音和を守りたい意思はあるから、もし他国に狙われそうならこちらでもなんとかするからの」
「ああうん、出来ることはしてくれると助かるかな。自分でなんとかするのってめんどくさいし」
面倒ってだけで無理とは言わないのがまた随分と凄い話なんだけどもの。
「ところで、次もやるの? 多対一だっけ。また同じように武器使う? 希望あるなら一応可能な範囲で応えるけども」
「一応お願いしようかの。対魔物を考えるなら、一対一より多対一のほうがありえるからの」
正確には、音和に仲間を付けたいから多対一にはならないようにしたいとは思っているが、仲間を付ける件には関してはまだ言わない方が良い気がしている。
読んでいただきありがとうございます。