4話
読んでくださってる方ありがとうございます。
「実力は、見れた?」
皆が固まっているので仕方ないから声をかける。まあ、流石にショッキングな映像見せちゃったし。
「音和、今のは……」
老子さんが声をかける。どうやら王様はまだ固まっているらしい。いやまあ、死んだ経験がなかったらそれはそうか。というかこの夢の世界は死者蘇生ってあるのかな?
「死んだけど死んでないことにしただけだよ、老子さん。王様、ちゃんと記憶はある? 身体に不備はない?」
「……何が起こった?」
「あれ、記憶に不備あるかな?喧嘩売られたから貴方の心臓握りつぶして死んでもらったの。でも私って暴力が嫌いだからさー? ちゃんと元に戻したんだよ」
「確かに胸を貫かれた覚えはあるが……いやそもそも素手で貫いたのか……? いや待て、簡単に元に戻したなどと、そんなことが出来るはずが」
やっぱり混乱しているなー? そろそろ面倒になってきた。
「ねえ王様―、老子さんー、私そろそろ帰って良いかな?」
「いや、待ってもらえるかの?こやつに無礼を詫びさせるからの」
そんなのいらないんだけどな。まあでも暴力振るわなくて済むならいいかな。本当暴力なんて使うのも使われるのもイヤだからね。
「さて、儂はちゃんと警告したからの?底が見えぬと。今でも底が見えるどころか、更に見えなくなったがの。お主は音和を敵に回したいのかの?」
「いや、悪かった。小娘だと思って侮った。どうか世界を救うために力を貸してくれないか?」
それ謝ってないんだけど、上に立つものとしてはこんなものなのかねー?
「だからイヤだけど。というかさ、せめて状況説明してくれないと判断出来なくてイヤとしか言えないからね?」
この人達にとっては常識でも、私にとっては常識じゃないし。知識ゼロの人を取り込もうとしてるのか、ただの阿呆なのかどっちなのかわからないけどさ。
「ああ、そうだな。ジジイ、頼んでいいか」
自分で説明しないんかい! でも、丸め込もうとしているわけではなさそうかな?
「そうじゃの。簡単に説明すると、人間と魔族で争っていてな。魔物はある程度の人間でも倒せるが、魔族ともなると人間の精鋭でしか倒すことが出来ぬ。そして、200年周期で生まれるとされる魔王を倒すことは普通の人間には出来ず、そのために異世界から人間を召喚し、その者を勇者として鍛え、魔王を倒す、または封印してもらうというのがここ数千年繰り返されているとされているのじゃ。魔王も異界のモノとされており、この世界の者では倒すことも封印することも敵わぬ。よって、同じく異界の力を持つモノの力で対抗しておるのじゃ。ここまでで質問はあるかの?」
はっ、説明が長くてあんまり聞いてなかった。
「そうだね、私が魔王を倒すメリットが知りたいね」
メリットなかったら私がやる理由ないからね。
「お前には人間の心がないのか!? 歴代の者達は勇気をもって戦いに行ったと言われているんだぞ!?」
あ、王様が口を出してきた。あんまり会話にならないから黙ってて欲しいなあ。
「お前さんは落ち着け。音和が元の世界に帰るためには、魔族側が持っている力を使う必要があるとされているのじゃ。人間の力で召喚をし、魔族の力で召還をする。そうして世界のバランスを保っているとも言われておるの」
ん?あれ、なんかおかしくない?
「じゃあ、それは魔王を倒す必要なくない? むしろ魔王を倒したら帰れないんじゃないの?魔王にとっては勇者のみが脅威なのだから、さっさと勇者を召還してしまえば良い。むしろ、魔王を倒した勇者を、魔族達が召還するメリットがないよね、逆に脅せばいい。魔王様を倒したら2度と元の世界には戻れないぞ、みたいな感じにさ」
「その意見は正しいと儂も思っているがの。歴代の者達はそれでも魔王を倒した後に自分の世界へ戻ったとされている。魔族側にも勇者を召還しなくてはならない理由があるというのが定説になっておるの」
なるほど。あやふやではあるけれど、嘘を言ってる感じではなさそう。少なくとも、人間側からしたらそれを信じられているんだろうな。
「なるほどね。それなら、まあ、納得しないでもないかな。ただ、今のところ魔族達は私にとって敵ではないのだけど、それは?だって私は魔族に喧嘩売られてないからね。むしろ人間に喧嘩売られてるからそっちが敵と言っても過言ではないよ?」
ぶっちゃけ人間が一番怖いよね。私は何もしてないのに殺されそうになったし。ああ怖い怖い。
「お前は……! 本当に心がないのか!? 魔族だぞ!? 明らかに人間の敵だろうが!」
王様は短気だなぁ。
「だって、私の世界には魔族なんていないもの。人間の敵は人間だよ。それともこの世界って人間同士の争いとかなかったりする? 国と国の戦争とかないの? 王様ってことは、ここは国なんでしょ? 他にも国があるんじゃないの?」
「それは」
「お主は少し黙っててくれないかの? 会話が進まんのじゃ」
あ、老子さんが少し怒ってる感じがする。そりゃそうか、王様は老子さんに説明を任せたのにいちいち口をはさんで来て煩いもんね。
「簡単に言うのなら、この世界には個人と個人の喧嘩や殺し合いなどがありはするが、国と国の規模で争うほどの余裕はないのじゃ。それほどまでに魔族は脅威での。それに日々、魔物の対応に追われているのが現実なのじゃ」
相変わらず嘘を言ってる雰囲気はなし。個人での殺し合いはあるらしいけど。まあ恨み辛みからの殺人とかはどうやってもあるか。
「ふぅん。まあでもいいよ? 魔王を倒せるかはさておき、旅に出て、魔物や魔族と出会ってみて判断するくらいはしても」
この夢はどうも長く続くみたいな感じがするから、行けるところまでは行ってみたいな、と少し思った。
少し、主人公の精神の異常性が見え隠れしてますね。いや、隠れてないですかね?