5、お昼寝
「フーは、ねてばっかり」
姉は皮肉るけど、それにはちゃんと理由がある。
まずは幼児だから。
一日に十五時間も眠る小犬には負けるけど、あっちはさらに急速に成長しなくちゃならないわけで、もとから勝負になってない。
ただ、日々魔力を消費して、一時期、お昼寝時間が増えていたことは確かだ。
まずは教会が判定するスキルに関係なく、いろいろな魔法が使えるかどうかの実験。
指先に魔力を集めて、一センチ先にライターの火を想像する。
一発で炎が出た。
ライターを使った時同様、熱を感じるし、可燃物に燃え移ったら大変だから、すぐに消す。
でも、本当にできたかの確認で、もう一度出す、消す。
出す、消す。
「わたち、てんちゃい!」
キャッキャとテンションを上げるけど、それ以上炎を大きくできないことからも、まだまだなのはお察しだ。
魔力量とか、魔力操作とか、いずれ解決できる問題だといいんだけど。
しょぼい魔法でも、使えるってだけで十分うれしい。
「むぅ~」
酸素を足すイメージで炎を青くすることもできた。
空気の成分を見分けられるわけでも、化学式や分子模型を正確に思い出したわけでもない。
かなりあいまいでも成り立つ。
どうも、結果を映像で鮮明に思い浮かべることが有効なようだ。
つまり青い炎を思い浮かべるだけでよかった。
ただ、酸素云々をプラスすると、同じことをするにも魔力量が少なくてすむような気がする。
ただ指先からちょろちょろ水が出るさまを想像するより、空気中の気体を集めるイメージ、ただ土塊を出すより、床や窓枠に積もった埃を集めるイメージをプラスすると、なんていうか…かなり楽だ。
コップの水に氷が張ったり、そこから湯気が出たりするのを幻視するだけじゃなく、想像上の分子の活動を止めたり、活発にしようとしてもそう。
風を吹かせるにも、ただ強引に空気を動かすのじゃなく、向こうはあたたかくこっちは涼しいというイメージを持っただけで、至軽風がそよ風になった。
魔法が使える時点で、前世と物理法則が同じかわからない上に、そもそもの知識がてきとうだけど。
少なくとも、明確に結果を思い描く手助けにはなってるわけだね。
詠唱っぽいものも試してみたけど、私には合わないかな…
口が回らないっていうのもあるけど、照れが入ってかえってうまくいかない。
ちなみに姉エリザベスは、「せいなるひかり!」とか「ほたるこう!」とか、得意げに技名(?)を叫んでいる。
教会は、冷静に「ライト」って呟くことのみ推奨してるようだけど。
ノリノリで変なポーズをつけたり…まあ、そういうお年頃なんだろう。
もっとも、結果を明確にイメージするのが大前提だけど、ある程度、思考に遊びがあった方が、魔法をスムーズに使えることは確か。
車の運転とかも、音楽やラジオを聞きなからの方が、流れるようにハンドルを切れたもんだ。
はじめの頃はつい全身に力を入れて、「ぐぬぅ~」とかうなってたからなぁ。
炎を大きくできなかったのは、たんにビビッてたせいだけど。
そうやって魔力を消費しているとおなかがすく。
それでも使い続けると猛烈に眠くなる。
この眠気には抗えぬ…
「ほら、やっぱり! フーってば、また寝てる」
このことからも、魔力は食べたり寝たりすれば回復するとわかる。
実際、目に魔力を集めて観察すると、お昼寝から覚めた私の手足、胴体はうっすら光っている。
食事の後もごくわずかだけど光度が増す。
いっぱい食べたらもっと光るかと思ったけど、幼児の胃は思いのほか小さくて、無理に食べたら吐いてしまった。
もったいない。
「フー、きったな~い」
「…ごめんちゃい」
目に魔力を集め続けていると、体に溜め込んだ魔力を消費していく過程を観察することができた。
睡眠十分で満腹の状態では全身が薄っすら光ってるけど、猛烈な空腹を感じている時は、その光が輪郭にかろうじて残ってる程度。
眠気を感じだしたらまるで見えない。
見るための魔力がないというのもある。
家族を見比べてみるに、平常時の光度は人それぞれ。
母カトリーヌはとても低い。
姉エリザベスもとても低かったけど、最近やや低いくらいになった。
かなりさぼりがちでも、教会での修行の成果が出てるらしい。
魔力を使っているだけでも、ものすごく少しずつだけど、体に保持できる魔力の量は増える。
でも、寝落ちするまで使うと何倍も効率がいい。
ねむねむの段階で、空気中に漂う光の糸を吸収すればなお効率がいいはずだけど、その状態じゃ見えないし掴めないからなぁ。
一度どこまで魔力を溜め込めるか試してみた。
空っぽを光度ゼロ、満タンを一とすると、十三までいける!
完全に私の感覚だけど。
なぜ、メモリが十三段階になったかというと、たぶん、前世使ってた照明のリモコンがそうだったから。