44、ツリーハウス
《アバター》の作製にも慣れてきたし、浮いた時間を使って拠点を作ることにした。
森の隠れ家っていったらツリーハウスかな?
冒険者としてはグレーな行為らしいけど、森の中を歩いていると、茂みにうまく蔦を絡ませて囲ってあったり、崖を掘って板で塞いであったり、それらしきものを時々見かける。
拠点を作ったがために警戒を怠って魔物に襲われたり、物や金を溜め込んで人に襲われたりしやすくなるわけだけど、これはもう本能としか言いようがない。
本来、やむなく野営した場合でも、なるだけ原状復帰するのがルール。
魔物や森に逃げ込んだ犯罪者が住みついたり、戦闘の邪魔になるからだそうだ。
でも、そこは冒険者だからね。
巡回中の衛兵に見咎められても、「今日にも依頼を達成できそうなんだ。そしたら片付けるから」って言い逃れできてしまう。
もちろん、私は《結界》を張るよ。
まず、よさそうな木を中心に、「なんか嫌だな」って人や魔物に感じさせる《結界》を広めに…学校のグラウンドくらいの範囲を覆えばいいか。
それから、最初に選んだ木の周りを、物理的に自分以外が入れないようにする。マジックミラー的な効果も付けておこう。
工作といえば前世の授業で本棚を作った時、鋸を握ったくらいだけど、例によって技術や知識のなさを魔力とイメージで強引に押し切る。
床板を張って、転落防止の柵をつけて。床板に丸く穴をあけて、梯子を上げられるようにしておこう。
これで一先ず完成。あとは、思いつくままに欲しいものを足していく予定。
なにしろマーサは着替えは必要ないし、寝ないし、トイレに行く必要もない。
これを機に、彼女用の《収納》も用意したから、住居スペースはずっとすっきりしたままだろう。
《収納》用のポケットを張り付けた木の洞は、もともと《結界》を張って冒険者カードやお金を隠してたところ。
マーサに持ち歩かせると《アバター》を解いた時、そこに置き去りにすることになるからね。
でも、これだとあまりにそっけない。
ベッドくらい作っておこうか。眠らなくてもゴロゴロするのは気持ちがいいし。
あと、捕った獲物を調理して食べてみたい。
そう、マーサにはちゃんと《舌》がある。
試しに桑の実を食べてみると、ふつうにおいしい!
でも、食べるには歯や舌のほかにも必要なものがあった。
慌てて、唾液腺っぽいものを《アバター》に追加。
がんばれば消化吸収もできるだろうけど、そこまでする意義を感じないから、適当に魔力を《吸収》して、残りかすは自然に還す。
やっぱりトイレも作っておこう。
いや、楽しいねぇ。
その日はスライムを生け捕りにして、専用の檻を作ったところで日が暮れた。
後日、《土魔法》で三連式のかまどを作って、井戸も掘ってみた。
水は《水魔法》で十分賄えるんだけど、つい出来心で…
なんとなくわかってたけど、私にガチャポンプは無理だった。
見た目だけそれっぽくして、魔法で汲み上げればなんとかなるんだけど、はたしてそれはポンプなのか。
最終的に、石組で囲ったつるべ井戸になったよ。水を汲み上げるのが面倒だから、たぶん使うことはない。
徒労感もあるけど、意地でも「満足」と言っておこう。
調理器具も魔力で作るとして、調味料くらいは買ってこようかな。あと、野菜とか。
フローラの部屋で、魔力でクッキーを作って食べてみたけど、我ながらけっこうよくできてる。
体調にも問題はないし、でも、これだけで生きていけるかっていうと、どうだろう?
すべてのものは魔力を帯びてるけど、魔力だけでできてるわけじゃないはずだし…
私の体がふつうの人と同じかっていうと、ちょっと自信なくなるけど。




