43、貴族年鑑
年に一度発行される貴族年鑑に、我が姉エリザベスの名前が載った。
正直、驚いたよ。
でも、有効範囲が大皿一枚程度とはいえ、《浄化》できることに変わりはない。
彼女は彼女なりにがんばってたってことか。
「ウフフ~すごいでしょう!? 《浄化》よ《浄化》!」
そこでドヤ顔しちゃうと価値が半減するんだけどね。
「おめでとうございます、お姉様」
貴族の子弟は厳密には貴族じゃないらしいけど、家柄やスキルが縁組の参考になるから、貴族年鑑に記載されると家族としては一安心。
順調に第二子を育みつつ、貴婦人としての振る舞いも様になってきた母カトリーヌと合わせてね。
私の場合、毎日話を聞く以外、二人のために特に何をしてるってわけでもないんだけど。
エリザベスの危なっかしさは心配してもきりがないから、彼女が貴族学院に入学する前に、ロス爺が私を迎えに来てくれたら気分的に楽なんだけどなぁ。
グローブ王国では、貴族のスキルは申告制だ。
両親をはじめとした親族のスキルを参考に、五歳~七歳くらいまでの間に、本人の素質を見ながら決めて、それを王家が追認するかたち。
貴族はたいてい二つのスキルを持つ。
外敵から群れを守るリーダーが王侯貴族になったと考えれば、魔法系と武術系の組み合わせが多いのは納得がいく。
もちろん魔法系を二つってパターンもあるし、平和な時代が続けば社交、技能、芸術などの系統にシフトしてくのも自然な流れだ。
たとえば第二王子は《風魔法》と《交渉》
アマンダは《火魔法》と《予見》
魔法は特に、髪や目の色からイメージされることも多いみたい。
第二王子の銀髪にヘーゼルの目はもちろん、アマンダの燃えるような赤毛とアンバーの目はいかにもだ。
あとは性格や能力が関係してくる。
《交渉》は、うん、彼にぴったりだね。
《予見》はそこにある材料から答えを導き出すもので、予知とは違う。
たぶん《高速思考》と近いんじゃないかと思うんだけど。
先のクロムウェル侯爵がこのスキル持ちだったそうで…脳に負荷をかけすぎるとまずいのかな。
念のため、顕微鏡をのぞくイメージで《診断》してみたけど、フローラとマーサ二人分の運用をしながら魔法を使っても、私の細胞はピチピチしてる。
よかった。でも、油断は禁物。
日頃から食事のバランスに気を付けつつ、睡眠もたっぷりとって、こまめな水分補給と休憩を忘れないようにしよう。
ちなみに、貴族の家に生まれれば教育によって《気品》は身につくから、スキルにそれを持ってくるのは、よほど他に才がないってことになる。
まあ、現当主チャールズの優雅さは王族と比べても遜色がないから、あれはあれで貴族たちにはけっこう好かれてるよ。




