42、アイデア
素材からこだわるだろうとは思ってたけど、まさかブランケット、大判のバスタオル、ふつうサイズのバスタオル、フェイスタオル、ハンドタオルと各種揃えてくるとは思わなかった。
迷走してるな、第二王子。
「嫌よ。用途はわかるけれど、壊してしまうなんてもったいないわ。せっかくこんなに可愛いらしいのに」
アマンダが少女返りしちゃうくらい気に入ってくれたから、それでいいわけなんだけど。実際、まだ少女だしね。
タオル製のてろりんグマが、大大、大、中、小、小小。
マトリョーシカか…
思わずのつぶやきを第二王子の侍従に拾われた。
「マトリョーシカとはなんですか?」
あれ以来、なぜか私は、第二王子からアマンダへのプレゼント案を出す係になってる。
まさか第二王子と頻繁に居残りするわけにもいかないから、必然的にその侍従アンソニーと打ち合わせ。
「人形です。木製で、形状はこのようにシンプルですが、中をくり貫いてですね…」
紙に落書きしつつ説明するだけなら簡単だ。
でも、アンソニーはそれを作れる職人を探し、注文し、希望通りに仕上がっているかチェックし、手間賃を払う手配をしなければならない。
「なんというか、アンソニーさんの面倒が増えていませんか?」
「いえいえ。なんといっても、この案を出していただけるというのがありがたいです。もう、僕の頭ではひねっても灰も出てきませんよ、ハハッ」
「そ、そうですか。それならば…えー、木を削るのも、絵を描くのも職人に任せるとして。第二王子殿下には、この一番小さな人形に色を塗っていただけばよろしいかと。職人にあらかじめ下描きをさせておけば、そうそう失敗されることもないでしょう」
「そうですね…プクス」
え、なにその笑い。すっごい気になるんだけど?
苦労人と見せかけて、この人もけっこうくせ者だよね。
なにも罠っぽいところに突っ込むことはない。私は、案を出すだけの人。
この入れ子人形が、アマンダ似になるだろうことは織り込み済みだし、あとは知~らないっと。
でも、第二王子の不器用さへの認識は、下方修正した方がいいみたい。
もう、政治家がダルマに目を入れるくらいの勢いでいいんじゃないかな。
偉い人は一筆入れただけで、その人作。場合によっては製作を依頼しただけで、そう言い張れるんだから。
ダルマからの連想で、次は起き上がりこぼしだ。
忘れないうちにメモ、メモ。
「なんですか、それは? たいそう可愛らしいですね」
そう? そう言ってもらえると、私の絵心もなかなかの…いやいや、この人の職業はよいしょもお仕事。その道のプロだった。
わかっていても褒められればうれしいもの。なにせ前世の美術の評価は2だから。
私は喜色を出さないように気をつけて、品物の説明に入る。
「この下のところに重りを入れておくと、倒してもすぐに起き上がるのです。そういえば、マールス様のお部屋にもありましたね」
うわぁ、自分で思いついたような気になってた。
そもそもが前世知識なんだけど、こっちにすでにあったって思い出してよかったよ。
「ん? ああ、パンチングドールのことですね」
「そんな名前でしたか」
「はい、男の子向けの人形です。しかし、こうして丸く小ぶりにすると可愛らしいものですね。それが起き上がるとなると、なるほど。これはうちの娘も喜びそうです」
「お子さん、おいくつなんですか?」
「三歳になります。あ、いや…殿下がご婚約者様に送られるものは、あつらえも豪奢にしますから」
「ええ、そうでしょうね。アンソニーさんの反応は間違っていません。もともと幼児向けのオモチャでしょう? でも、大人になっても可愛いと思う気持ちはありますから。特に女性は」
「そうですね。私も殿下に許可をいただいて、簡易版を娘だけでなく、妻にも贈ってみようと思います」
「よろしいのではないでしょうか。ああ、大事なことを忘れていました。第二王子殿下には、最後に目の部分を描いていただければ…」
「…お気遣いありがとうございます」
「いえいえ」
第二王子の手作りって、私が勝手にハードル上げて、自分の首を締めてるんだよね。
まさか、自分がアイデアを出し続けることになるとは思ってなかったから。
いよいよとなったら、直接アマンダに希望を聞けちゃう立場を大いに利用するつもりだけど。
あえて口にしないアンソニーの気遣いが身に染みるよ。




