40、夢中な人
《アバター》を運用するようになってから、私は心身共に調子がいい。
この容姿はとても気に入ってるけど、まず年齢、次いで性別、そして立場のせいでどうしても行動に制限がかかる。
乗馬なんて、その最たるものだね。
貴婦人用の横乗りの鞍もあるにはあるけど、そろそろ十二歳になろうかっていうアマンダが、やっと習いはじめたところだから。
私がほんまもんのお嬢様だったら、「ポニー欲しいぃ~! ロバでもい~」って駄々をこねたかもしれないけど。
弟ダンテに贈られたニューファンドランドに跨ろうとしただけで、侍女に慌てて抱き上げられちゃうんだもの。
ぎりぎり杖を振り回すのを、自衛のためってことで認められる程度。
それが自分で思ってる以上にストレスだったみたい。
いまはマーサで好き勝手してるから、アマンダはじめ、母カトリーヌや姉エリザベスにも、やさしい気持ちで接することができる。
あと、接待薙刀の最中に、護衛騎士のローランから「杖の振りが鋭くなった」「体のキレもよい」って褒められたりね。
やっぱり実戦を経験すると違うんだ、ふふ~ん♪
「フローラ。明日のお茶の時間は、あなたも呼ばれているからこれを着てね」
ギャッ! 調子に乗ってるとこれだよ。
「はい、アマンダ姉様」
正式なお茶会じゃないけど、到底リラックスできるものじゃない。
場所は王宮だし、特にアマンダがドレスを指定するのは、第二王子が同席する時。
「ふふっ、絶対に似合うから大丈夫よ」
アマンダさんや…そういうこっちゃないのよ?
多少デザインは変えてあるけど、見るからにお揃い。彼女と私が!
「二人共よく似合っている。とても可愛いよ」とか言えば、この子がたいそう喜ぶから、第二王子は私のことまで褒めざるを得ない。
でも、穏やかな笑みを浮かべつつ、その目にあるのは嫉妬だ。
十六歳男子が、四歳女児に向けるものじゃないから。
この大人顔負けに才のある少年は、二人の時間を誰にも邪魔されたくないくせに、アマンダにいいところを見せたくて、十回に一回は私を連れてくることを許す。
一方のアマンダも彼に負けず劣らず聡い子で、それに気付かないはずはないんだけど。
婚約者のこと嫌いじゃないよね。大丈夫だよね?
「お菓子は、フローラの好物を頼んでありますからね」
第二王子ざまぁっていうか、涙ぐましいっていうか。
彼が彼女を好きすぎる件。




