38、ガスター商会
そして、いちばんの理由は、私のつくったものがどう評価されるかっていう興味。
つまり、アルミをつくるつもりでつくったけど、それは本当にアルミなのかってこと。
頃よいところで気配を薄くして、男共を追いかける。
門番は意外に腕利きらしく、ふつうに目が合った。
私もまだまだなぁと思いながら、大人しくギルドカードを提示する。
彼らはうなづくか首を横に振るかで、商人や冒険者をはじめ、旅人や、王都の住民や近隣の農民、また貴族の命運すら分けるから、自分に力があるって錯覚して、賄賂を要求するやつがいるのも理屈としてはわからなくもない。
幸い、この門番はふつうに仕事をしていた。
私は会釈を返して、消しきれない足音ごと雑踏に紛れる。
浮かれた男たちは普段からそうなのか、一人として周囲に注意を払ってない。
ええ~、泥棒ってコソコソするもんなんじゃないの?
彼らは堂々中央通りを抜け、中流層が暮らす地域に向かう。
てっきり、下町の中でもさらにディープな怪しい質屋に行くもんだと思ってたから、こっちの方が挙動不審になってしまう。
まあ、たいていの人には存在すら気付かれてないんだけど。
「おう! ここだ、ここだ」
「兄ぃ、大丈夫っすかねぇ」
「馬鹿野郎! 場末のどこの店にミスリルを買い取る金があるよ?」
「そうだ。兄貴の言うことに間違いはねぇ」
彼らが立ってるのは、天下のガスター商会の真ん前。とはいっても、本店はさらに中央通りを行った先、貴族街のすぐ手前にあり、ここはいわゆる小金を持った平民向けのスーパーマーケット。
「ここで買い物をすれば揃わないものはない」っていうのが売りだ。
さすがに怖気づいた男たちは互いを小突き合い、店の脇に回る。
長い軒下が買取スペースになってるようで、すでに数人の男女が並んでいた。
「はいはい。これはまた新鮮な卵ですね」
「そうよぅ、うちで飼ってる鶏が今朝産んだんだから。近場で売らずに、二時間も歩いてきたんだから、なるべく高く買ってね」
「はいはい。こんな感じでいかがでしょう?」
「えぇ~、もうちょっと」
「いえいえ、正直申しまして、ふつうの買取金額の倍の値を付けさせていただいております」
「ほんと!?」
「本当でございます。この品質でしたら、ぜひ、定期的にお願いしたいですから」
「倍ね、倍。ふふ~ん。じゃ、それでいいわ]
たぶん、この奥さんは下町の住人。
二時間歩いてきたっていうのは大げさにしても、小一時間はかかったはずで、小綺麗なこの区域に入るだけでも勇気がいったんじゃないかな。
でも、下町じゃ物々交換ってことも多いし、小振りな卵は売れてもふつうの半値ってとこ。
あれが私がにらんだ通り烏骨鶏の卵なら、スーパーに並ぶ時はいったいいくらになるんだろう?
商人ってずる…すごいなぁ。
「はいはい。ではこちらをご確認いただきまして、サインを」
「アタシ、字なんか書けないわ」
「それでしたら、拇印でも。ええ、右の親指にインクを付けていただきまして、ここへポンと…ありがとうございました。またのお越しを~」
そうやって、てきぱきと売り手はさばかれ、強盗犯たちの番になった。
「お待たせいたしました。どうぞ、商品はこちらのカウンターの上へ」
「おおぅ? 上げていいなら上げるが~」
腰は低くとも、さすがは大店の店員。冒険者とはまた違う迫力に押されながらも、気勢を上げる強盗犯の兄貴分。
「…もしや、その荷車ごとお売りになると」
「そう、そう、そのもしやよ」
「はいはい。承知しました。どうやら大物のようですので、少々お時間をいただきます。その間、お茶など差し上げたいと思いますので、そちらへどうぞお掛けください」
「お、おう、もらえるもんなら、もらっとくぜ!」
ほかの売り手たちとは違う特別扱いだと気をよくする強盗たち。
店員は奥に向かって手を打つ。
「お~い、お茶を頼むよ。一番品のよい一番茶でね~」
「は~い」
パタパタと小者が駆けてく音がする。
「では、拝見させていただきますよ」
「おぅ。手間をかけらぁ」
「いえいえ、これも商売ですから」
店員はまずクーラーボックスの蓋を取り、中身を丁寧にカウンターに並べる。そのくせ、注視したは蓋の方だ。
「ほうほう、これはこれは」
感心することしきりの店員に、じれる兄ぃ。
「おいおい、オレたちが売るっつってんのはそんな箱じゃなく…」
「はいはい、申し訳ございません。しかし、こちらも捨てたものではありませんよ。たいそうな工夫がなされていて、ええ。これをご用意するのはなかなか大変だったのではありませんか?」
にこやかに尋ねられても答えようがないわけだけど、おだてられて気分が悪くなるやつはまずいない。
「ま、まぁな~」
「そうでございましょう、そうでございましょう。あ、はい、ご苦労さま。…こちら、粗茶ですが」
「おう…ほう、すげぇな。こりゃ、魔法か? 茶なんて酒に比べりゃまじぃもんだと思ってたが、これだけ冷えてるとなぁ」
「そうですぜ、兄ぃ」
「すっとすらぁ」
店員が横を向いて失笑したのを私は見逃さない。
まあ、その冷やすって機能を、この文化水準で小型化して、運搬用にしたものが目の前にあるわけで。
それを持ち込んだ本人が把握してないなんて、ふつうはおかしいと思うよね。
平然としてる店員が、彼らをどうあしらうのか楽しみになってきた。
天下の大商会が、盗品とわかってて買取なんてしないと思うし、したらしたで一つ勉強になる。
「では、査定を続けさせていただきますね」
「おう、頼まぁ」
「…薬草の状態は大変、ええ、大変よろしいです。乾燥して使うものではありますが、薬師には薬師のこだわりがあるようでしてね。素人の処理はたいてい気に入らないようなのです。それを考えますと、これはいい。…ふむふむ、ホーンラビットの処理も、ええ、よろしいです。これならば、高級店にも卸せるかと」
「で、で?」
「この箱もよいですな。くり返し使えますし」
「そんで?」
「その荷車はどうよ?」
「ええ、よくできておりますね。大量に物資を移動させるのには向きませんが、小回りが利きますし。ちょっとした配達や、倉庫から店舗への品出しなどにもつかえそうです。ふむふむ。タイヤはビッグフロッグの革ですね。耐久性があります。そのほかは…」
「「「そのほかは?」」」
大の男が声をそろえて勢い込む。
さしもの店員も一瞬、迷惑そうに顎を引いたけど、それだけだ。
「そのほかは、アルミ製で丈夫なわりに軽量ですし」
「あ、あるみぃ?」
「あるみたぁ、なんだ? こりゃあ、ミスリルだろ!?」
「買い叩こうったって、そうはいかねぇぜ!」
相手が椅子を蹴って立ち上がっても、百戦錬磨のバイヤーは顔色一つ変えない。
「まあまあ、落ち着いてください。よくあるのです、この手の勘違いは」
「勘違いだとぅ!?」
「では、お尋ねしますが、お客様は本物のミスリルを見たことがおありで?」
「うっ…」
店員は平然とした様子で奥に向かって手を叩く。
「お~い。商品番号『三のRの小』を持ってきておくれ」
「は~い」
パタパタと駆ける音がして、しばらくするとあどけない顔をした少年が、小さくて薄いけど、見るからに高そうな箱を持ってきた。
「お待たせしました」
「はい、ご苦労さま。…こちらがミスリル製のカトラリーになります」
「か、かとら…なんだって?」
店員はかまわず蓋を取る。
「ミスリルで作られた食器です」
「そ、そんなもんにミスリルを…」
フォークやナイフに馴染みがない男たちも、スプーンくらいはわかったようだ。
「ご覧ください。色味が違いますでしょう。それに、ほら、この通り」
商品にもかかわらず、店員は思い切りよく、そのスプーンをリヤカーのハンドルに叩きつける。
ガキンッ!
「「「ぅわぁっ!」」」
声を上げる男たちに、店員はにっこり笑って見せた。
「ほら、この通り。ミスリルのカトラリーには傷ひとつ付きません。だからこそ、最高の武器にもなり得るのですね。対して、こちら、アルミという金属はかなり柔らかい。武器などには向きません。また、銀のように毒を見分けることもできません。もちろん、利点もありますよ。まず、錆びません。そして、金属にしては軽い。加工がしやすく、しかし、価値としては青銅にも劣りますか」
小さな食器で予想外の傷がついたのを見て、しゅんとなる男たち。
でも、立ち直りも早い。やけっぱちともいう。
「それでもお売りになりますか?」
「お、おう、売るぜ! そのために来たんだからなぁ。おい、人のもんを傷もんにしやがって、どうしてくれんだぁ」
「そうですか。そういうことでしたら、傷のない状態として査定させていただきます、が」
さっきの少年にしては重い足音が近づいてくる。しかも複数だ。
店舗と塀の間、その表と裏から、二人ずつ衛兵が姿を現す。
あ、もう一人いた。制服の飾りが多いから隊長かな。
たぶん、店員が小者にお茶を頼んだ時の「一番」は「即時通報」とか、予め決められてたんだろう。
「お勤めご苦労様でございます。さっそくのお出ましありがとうございます」
「こちらこそ通報に感謝する。盗品が持ち込まれた疑いということであるが?」
「はい。こちらの品ですが、持ち込んだ当人たちが、それについての知識を一切持ち合わせておりません」
「当人というのは?」
「そちらの男三名です」
もともと逃がさない位置取りだった衛兵たちが、さらに男たちに集中する。
「やろうっ!」
「兄ぃ」
「に、逃げろっ」
一応は冒険者。それなりに動けはするけど、捕物に特化した衛兵にはかなわなかった。
なにせ数で勝ってる上に、一人は《バインド》使ってたし。
「引っ立てぇい」
「「「「はっ」」」」
おお、カッコイイ台詞。現実で聞けるとは思わなかった。
男たちは捕まったし、アルミのつもりで魔力を物質化したものは、ちゃんとアルミって査定されたし、魔物の革のつもりでつくったタイヤもちゃんとそう見えるらしい。
満足してた私は、隊長の一言に文字通り跳び上がった。
「で、そちらの君は?」
目、合ってる。
「え?」
店員もいまさら気付いて驚いてる。
「…マーサと申します。冒険者をやっております。信じていただけるかどうかわかりませんが、そちらの荷物の持ち主です」
「なるほど。当事者がいるというなら話が早い。事情を尋ねたいが」
「どうぞ、そちらをお使いください」
「うん、助かる。その上で、君にも同席を頼む」
「はい、喜んで」
店員はささっとテーブルの上を片付け、新しくお茶を用意するよう言い付けている。
「マーサといったか。冒険者なのだな?」
「はい」
肯定したにもかかわらず、何かを待つようにじっと見られる。
あっ、ギルドカードか!
慌ててポケットを探り、カードを提示。ちなみにこれも魔力製で、本物は森に隠してあるんだけど。
隊長は、記載されているすべてを手帳に書き写し、特にシリアルナンバーを何度も確認する。
まあ、平民は名字もないし、同名なんていくらでもいる世界だからね。
「うむ、確かに。それでは、これはお返しする。ことの経緯を話してもらえるかな?」
「はい」
一言でいえば「強盗にあった」わけだけど、そんなことは彼もわかってる。
話一つで私と、荷物と、あいつらを結び付けるとなると…
「私は冒険者として本日、森で薬草を採取していました。その折、ホーンラビットが襲い掛かってきたので、それを倒し血抜きをしていると、臭いに誘われたのかゴブリンが三匹やってきたので、それを倒し、撤収しました。街に向かっていたところ、街道で待ち伏せに遭い、一度は森に入って躱しましたが、追い付かれ荷を渡すように脅されました。男三人が相手では敵わないと思ったので逃げました。が、荷が惜しく、取り戻す機会があればと、跡をつけてきました」
「うん。話の筋は通っている。それにしても、その気配の消し方はなかなかだね」
「いえ、冒険者として活動するうちに自然と…あくまで我流の中途半端なものなので、わかる人にはすぐわかってしまいます。門番の方にも、ふつうに見抜かれましたし。ただ、女一人で活動するには、それなりに役に立っています」
「そうだろうね」
満足そうに頷いているのは、自分の部下が少なくとも一人は優秀だとわかったからか。
もしかしたら、無意識に《魔力感知》してるのかもね。
「疑われているようでよい気はしないだろうが、これも私の務めでね。君の荷物について説明をしてもらって、それをこちらの、それなりに商品知識があるだろう店員と、私とで聞き、矛盾がなければ君のものであると認めて渡そうと思うが、どうだろう」
「はい。格別のお計らいありがとうございます」
普通ならとりあえず押収されて、あとで返される。返されなくてもそれまでという世の中だ。
「はい。私も、私どもの商会が少なからずかかわったことです。喜んで協力させていただきます」
「では、冒険者の君は、ここに座ったまま説明してくれたまえ。私とこちらの店員とで荷の確認をしようじゃないか」
「はい、お願いします。…では、リヤ…荷車の持ち手側の箱から」
店員は中身をチェックした後、きちんともとに戻していた。
こっちの意図を汲みとって、なおかつ無にしないなんて、さすがはガスター商会! 贔屓にしたくなるね。
「その箱は《土魔法》の使い手に、土を固めて作ってもらったものです」
「ほう…」
「なるほど、なるほど。それは、素晴らしい」
「君、しきりと感心しているが、どういうことかね?」
「ああ、すみません。南方のある地域では、日干しレンガで家を造ると聞いたことがありますので。思いのほか涼しいそうですよ」
「ふむ?」
「この蓋の裏にですね…」
「君が言ってはいかんではないか」
「あい、すみません」
二人の視線が戻ってきたので、説明を再開する。
「蓋の裏に、アルミ製のバットを取り付けてもらい、そこに氷を入れています。先程そちらの店員さんがご説明くださった通り、土は温かいものは温かく、冷たいものは冷たく保つことに優れているそうなので、収納物を新鮮なまま運べると考えました。そちらにはオトギリソウが二十、カンゾウが十五入っているかと思います」
「…はい、確かに。種類も数もあっております」
「もう一つの箱の方ですが、ホーンラビットを一匹、毛皮を剥いだ状態で、棒葉で包み、小枝で留めてあります。先程の査定の時と同様、それを開いていただければお分かりになると思いますが、血抜きは済ませてあります。また、内臓は胃と腸だけを抜き、氷を入れた袋を詰めてあります。肉を傷めたくないので、魔石は抜いていません」
「おお、そこまで!…ああ、はい、確認させていただきます」
隊長の視線に応える店員。
食品を品定めすることも多いのか、傍らの桶でサッと手を洗うあたり、教育が行き届いてる。
「はい、たしかに」
「うむ。失礼だが、冒険者がここまで気を遣うものだとは思わなかったな」
「いえいえ、この方が特別でございますよ。まるで、一流の狩人ですな。これならば『ベルモンド』にだとて卸せるでしょう」
「なに、あの高級レストランにか」
「はい~」
そこまで言われるとうれしいを通り越して、恥ずかしくなってしまう。
素人芸ですから。コンスタントには捕れませんから。
「…えー、箱の中身は以上です。あ、こちらの箱にも氷入りのバットがセットしてあります」
「うむ」
「はい」
「それから、荷台の中に、やはり棒葉に包んで小枝で留めた、ホーンラビットの毛皮があるはずです。また同じように包んだ、ゴブリンの討伐部位である右耳が三匹分。魔石が三匹分。それから、こちらにホーンラビットの討伐部位である角を一匹分持っております」
「ああ、こちらは見逃しておりました」
箱は蓋の方が大きいしね。ずらして置いた時、その陰になったんだろう。
「うむ。確かにあるな」
私がテーブルに置いた包みも「失礼する」と、隊長自らチェックする。
「荷車はアルミ製です。なるべく丈夫で軽くしたいと相談したところ、その素材を勧められました。タイヤにかんしては、作り手任せにしたので種類まではわかりませんが、魔物の革だと言っていました。弾力があって、破れにくく、尖ったものが刺さっても使い続けられると自信満々でしたね」
「おいくらで求められたかは存じませんが、よい買い物をされたと思いますよ。私の見立てでは、これは『ビッグフロッグ』です。高級馬車のタイヤに使われるものですよ」
「そうでしたか。やっとあの支払い金額に納得できました。いえ、十分役に立ってくれているので、損をしたとは思っていませんでしたが」
「そうでしょう、そうでしょう」
我がことのように熱心にうなずく店員。
良いものが良いように評価されるのがうれしいなんて、ぜひ「いい仕事してますね」とか言ってほしい。
のん気に和みかけて、ハッとする。
それは絶対にこっちから申告すべきこと。あとでバレたらやばい。
「あのっ! それから、荷台の長い方の枠を外して、先端のカーブしたカバーを外すと武器になります」
「おおっ? おおっ! これは素晴らしい」
やはりというかなんというか。衛兵隊長はクーラーボックスより、リヤカーより、隠し武器がお気に召したようだ。
「君、これは冒険者としての生命線であろうから、口外しないように」
「はい、承知いたしました」
ギルドカードを見た隊長はもとより、氷を使ってる時点でスキルもバレてるはずだけど、これまでの言動からして、そちらも不必要に漏らしたりしないだろう。
商会の信用にかかわるってやつだ。
「お気遣いありがとうございます。それから」
「まだあるのか?」
期待に輝く目が…
「いえ、あとは大したことではないのですが。荷を下ろした状態であれば、荷車の裏側の金具に、この背負い紐をつけて背負えるようにしてあるというだけで…すみません」
「いやいや、何をすまながることがある。よし、やってみよう」
「はい、では箱を下ろします」
「あ、荷車の持ち手を上にすれば自立しますから」
男二人掛かりだとひょいと裏返せちゃうんだね。
ショルダーハーネスを取りに来た店員が、形状を見てすぐに確認する。
「こちらが上ですか?」
「はい」
カチ、カチと手際よく嵌めて、自ら背負ってみている。
「ああ、なるほど、アルミですとこの軽さですか」
「なに、そんなに軽いのか」
代わって背負う隊長。
「うん。十五キロほどか。これはよいな」
「よいですね」
それぞれ仕事で役立てようと、頭を回転させているようだ。
「…以上です」
我に返った二人は、少々照れ臭そうにハーネスを外し、リヤカーに荷物を積みなおす。
その後、自然と視線は隊長に集まり、彼自身納得したようにうなずいた。
「これらは間違いなく、冒険者マーサ、君のものだと証明された。君、証人になってくれるかね」
「はい、喜んで」
「うむ。衛兵第五隊長、騎士ユリウス・ハーノックの名において、冒険者マーサは強盗の被害者であり、これらの荷がすべて冒険者マーサのものであることを認める」
「ガスター商会所属、スーパーガスター王都南店買い取り担当タイロンが、こちらのお荷物一式、冒険者マーサ様のものであることを追認いたします」
「ありがとうございます!」
駄目なら駄目で、多少悔しい思いをするだけだと思ってたけど、こうして認めてもらえると、じんわりくるね。
あの男たちに二度と会わなくて済むって安堵感もある。
なにしろこの国では、平民に限ってのことではあるけど、盗みに対する刑罰が非常に重い。
以前、ナイフを盗んで鉱山送りになった少年がいたよね。
もともと八十年ほど前までは所払い、性質の悪いものは国外追放だったらしいけど、それだと隣国から文句を言われる上に、特に王都では人口の増加に伴って犯罪件数が増え続け、厳罰化が進んで死刑ってことになった。
でも、そのうち、ただ殺すだけじゃもったいないから強制労働をさせることに。つまり死刑相当だから、一生娑婆には出てこれないってわけ。
もっとも、それも捕まってこその刑罰だし、冤罪も少なくないらしいから、あまり深く考えると外に出られなくなりそうだけど。
今回に限っては、いかにも常習犯ぽかったし、これでよかったと思う。
「時間を取らせた。あの男たちの取り調べもあることだ。私は、失礼する。冒険者マーサ、君を呼び出すことはないとは思うが、もしもの時は冒険者ギルドに通達するので応じられたし」
「はい、わかりました。この度は、お世話様でした」
「ご苦労様でございました」
隊長さんはこっちが頭を下げてる間に、颯爽と去っていったよ。
「すみません、お騒がせした上に、お手数をお掛けいたしまして」
あの男たちの後に並んだ人たちは、店の正面に回して買取していたようだ。
「とんでもございません。マーサさんは被害者です。こちらとしても、我が商会のせいで人様にご迷惑をかけることにならず、ほっとしております。いえ、ご迷惑はおかけしました。時間稼ぎのためとはいえ、あなたの持ち物に傷をつけてしまいした」
「いえいえ。これくらい、冒険者をしていれば日常茶飯事です。お気になさらないでください。それより、タイロンさんの目利きに感服いたしました」
「いえいえ、お恥ずかしい。私などまだまだですよ。ですが、あなたの仕事ぶりが丁寧で、工夫に満ちているのは本当です。どうですか? こちらの薬草と、肉と毛皮を買い取らせていただけませんか。冒険者ギルドに納めるより、少しは勉強させていただきますよ」
「それは。ぜひ、お願いします」
値段も大事だけど、ささやかな努力を認めてもらえたことがうれしい。
タイロンは、ひとつひとつ私に確認した上で、薬草と毛皮、体内の氷袋を抜いた肉を棒葉ごと奥に運ばせた。
「我が商店にも専用の保冷庫がございますので、ご安心を」
一言そえるところも心憎い。
「こちらでいかがでしょう」
「はい、お願いします」
何枚かのコインを受け取り、受取証にサインする。
高めに買い取ってくれたとはいえ、もともとの量が少ない。噂の『ベルモンド』でランチを食べられるほどじゃないけど、どうやらリヤカーの傷の分を上乗せしてくれたみたい。
「ぜひ、マーサさんとは今後もお取引したいものです」
「そう言っていただけてうれしいです。一日働き一日休みののんびりとしたペースですが、それでよろしければ」
「はいはい、ぜひ。心よりお待ちしています。本日はありがとうございました」
「こちらこそ、お世話になりました」
気持ちよく頭を下げあって、ごろごろリヤカーを引いて森へ帰る。
あっ!と途中で気付いてUターン。冒険者ギルドで討伐証明部位と魔石を納めて、日銭を稼いだ。
ちなみにホーンラビットの魔石は、ガスター商会か、そこから肉を買った店なり個人が、冒険者ギルドに売ることになる。
まあ、全部が全部、正規のルートに乗るわけじゃないのは、なんにかんしても言えること。
いろいろあったけど、終わりよければすべてよしってところかな。




