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わがままな義妹なんて荷が重い  作者: 御重スミヲ
38/63

38、ガスター商会


 そして、いちばんの理由は、私のつくったものがどう評価されるかっていう興味。

 つまり、アルミをつくるつもりでつくったけど、それは本当にアルミなのかってこと。

 頃よいところで気配を薄くして、男共を追いかける。

 門番は意外に腕利きらしく、ふつうに目が合った。

 私もまだまだなぁと思いながら、大人しくギルドカードを提示する。

 彼らはうなづくか首を横に振るかで、商人や冒険者をはじめ、旅人や、王都の住民や近隣の農民、また貴族の命運すら分けるから、自分に力があるって錯覚して、賄賂を要求するやつがいるのも理屈としてはわからなくもない。

 幸い、この門番はふつうに仕事をしていた。

 私は会釈を返して、消しきれない足音ごと雑踏に紛れる。

 浮かれた男たちは普段からそうなのか、一人として周囲に注意を払ってない。

 ええ~、泥棒ってコソコソするもんなんじゃないの?

 彼らは堂々中央通りを抜け、中流層が暮らす地域に向かう。

 てっきり、下町の中でもさらにディープな怪しい質屋に行くもんだと思ってたから、こっちの方が挙動不審になってしまう。

 まあ、たいていの人には存在すら気付かれてないんだけど。

「おう! ここだ、ここだ」

「兄ぃ、大丈夫っすかねぇ」

「馬鹿野郎! 場末のどこの店にミスリルを買い取る金があるよ?」

「そうだ。兄貴の言うことに間違いはねぇ」

 彼らが立ってるのは、天下のガスター商会の真ん前。とはいっても、本店はさらに中央通りを行った先、貴族街のすぐ手前にあり、ここはいわゆる小金を持った平民向けのスーパーマーケット。

 「ここで買い物をすれば揃わないものはない」っていうのが売りだ。

 さすがに怖気づいた男たちは互いを小突き合い、店の脇に回る。

 長い軒下が買取スペースになってるようで、すでに数人の男女が並んでいた。

「はいはい。これはまた新鮮な卵ですね」

「そうよぅ、うちで飼ってる鶏が今朝産んだんだから。近場で売らずに、二時間も歩いてきたんだから、なるべく高く買ってね」

「はいはい。こんな感じでいかがでしょう?」

「えぇ~、もうちょっと」

「いえいえ、正直申しまして、ふつうの買取金額の倍の値を付けさせていただいております」

「ほんと!?」

「本当でございます。この品質でしたら、ぜひ、定期的にお願いしたいですから」

「倍ね、倍。ふふ~ん。じゃ、それでいいわ]

 たぶん、この奥さんは下町の住人。

 二時間歩いてきたっていうのは大げさにしても、小一時間はかかったはずで、小綺麗なこの区域に入るだけでも勇気がいったんじゃないかな。

 でも、下町じゃ物々交換ってことも多いし、小振りな卵は売れてもふつうの半値ってとこ。

 あれが私がにらんだ通り烏骨鶏の卵なら、スーパーに並ぶ時はいったいいくらになるんだろう? 

 商人ってずる…すごいなぁ。

「はいはい。ではこちらをご確認いただきまして、サインを」

「アタシ、字なんか書けないわ」

「それでしたら、拇印でも。ええ、右の親指にインクを付けていただきまして、ここへポンと…ありがとうございました。またのお越しを~」

 そうやって、てきぱきと売り手はさばかれ、強盗犯たちの番になった。

「お待たせいたしました。どうぞ、商品はこちらのカウンターの上へ」

「おおぅ? 上げていいなら上げるが~」

 腰は低くとも、さすがは大店の店員。冒険者とはまた違う迫力に押されながらも、気勢を上げる強盗犯の兄貴分。

「…もしや、その荷車ごとお売りになると」

「そう、そう、そのもしやよ」

「はいはい。承知しました。どうやら大物のようですので、少々お時間をいただきます。その間、お茶など差し上げたいと思いますので、そちらへどうぞお掛けください」

「お、おう、もらえるもんなら、もらっとくぜ!」

 ほかの売り手たちとは違う特別扱いだと気をよくする強盗たち。

 店員は奥に向かって手を打つ。

「お~い、お茶を頼むよ。一番品のよい一番茶でね~」

「は~い」

 パタパタと小者が駆けてく音がする。

「では、拝見させていただきますよ」

「おぅ。手間をかけらぁ」

「いえいえ、これも商売ですから」

 店員はまずクーラーボックスの蓋を取り、中身を丁寧にカウンターに並べる。そのくせ、注視したは蓋の方だ。

「ほうほう、これはこれは」

 感心することしきりの店員に、じれる兄ぃ。

「おいおい、オレたちが売るっつってんのはそんな箱じゃなく…」

「はいはい、申し訳ございません。しかし、こちらも捨てたものではありませんよ。たいそうな工夫がなされていて、ええ。これをご用意するのはなかなか大変だったのではありませんか?」

 にこやかに尋ねられても答えようがないわけだけど、おだてられて気分が悪くなるやつはまずいない。

「ま、まぁな~」

「そうでございましょう、そうでございましょう。あ、はい、ご苦労さま。…こちら、粗茶ですが」

「おう…ほう、すげぇな。こりゃ、魔法か? 茶なんて酒に比べりゃまじぃもんだと思ってたが、これだけ冷えてるとなぁ」

「そうですぜ、兄ぃ」

「すっとすらぁ」

 店員が横を向いて失笑したのを私は見逃さない。

 まあ、その冷やすって機能を、この文化水準で小型化して、運搬用にしたものが目の前にあるわけで。

 それを持ち込んだ本人が把握してないなんて、ふつうはおかしいと思うよね。

 平然としてる店員が、彼らをどうあしらうのか楽しみになってきた。

 天下の大商会が、盗品とわかってて買取なんてしないと思うし、したらしたで一つ勉強になる。

「では、査定を続けさせていただきますね」

「おう、頼まぁ」

「…薬草の状態は大変、ええ、大変よろしいです。乾燥して使うものではありますが、薬師には薬師のこだわりがあるようでしてね。素人の処理はたいてい気に入らないようなのです。それを考えますと、これはいい。…ふむふむ、ホーンラビットの処理も、ええ、よろしいです。これならば、高級店にも卸せるかと」

「で、で?」

「この箱もよいですな。くり返し使えますし」

「そんで?」

「その荷車はどうよ?」

「ええ、よくできておりますね。大量に物資を移動させるのには向きませんが、小回りが利きますし。ちょっとした配達や、倉庫から店舗への品出しなどにもつかえそうです。ふむふむ。タイヤはビッグフロッグの革ですね。耐久性があります。そのほかは…」

「「「そのほかは?」」」

 大の男が声をそろえて勢い込む。

 さしもの店員も一瞬、迷惑そうに顎を引いたけど、それだけだ。

「そのほかは、アルミ製で丈夫なわりに軽量ですし」

「あ、あるみぃ?」

「あるみたぁ、なんだ? こりゃあ、ミスリルだろ!?」

「買い叩こうったって、そうはいかねぇぜ!」

 相手が椅子を蹴って立ち上がっても、百戦錬磨のバイヤーは顔色一つ変えない。

「まあまあ、落ち着いてください。よくあるのです、この手の勘違いは」

「勘違いだとぅ!?」

「では、お尋ねしますが、お客様は本物のミスリルを見たことがおありで?」

「うっ…」

 店員は平然とした様子で奥に向かって手を叩く。

「お~い。商品番号『三のRの小』を持ってきておくれ」

「は~い」

 パタパタと駆ける音がして、しばらくするとあどけない顔をした少年が、小さくて薄いけど、見るからに高そうな箱を持ってきた。

「お待たせしました」

「はい、ご苦労さま。…こちらがミスリル製のカトラリーになります」

「か、かとら…なんだって?」

 店員はかまわず蓋を取る。

「ミスリルで作られた食器です」

「そ、そんなもんにミスリルを…」

 フォークやナイフに馴染みがない男たちも、スプーンくらいはわかったようだ。

「ご覧ください。色味が違いますでしょう。それに、ほら、この通り」

 商品にもかかわらず、店員は思い切りよく、そのスプーンをリヤカーのハンドルに叩きつける。

 ガキンッ!

「「「ぅわぁっ!」」」

 声を上げる男たちに、店員はにっこり笑って見せた。

「ほら、この通り。ミスリルのカトラリーには傷ひとつ付きません。だからこそ、最高の武器にもなり得るのですね。対して、こちら、アルミという金属はかなり柔らかい。武器などには向きません。また、銀のように毒を見分けることもできません。もちろん、利点もありますよ。まず、錆びません。そして、金属にしては軽い。加工がしやすく、しかし、価値としては青銅にも劣りますか」

 小さな食器で予想外の傷がついたのを見て、しゅんとなる男たち。

 でも、立ち直りも早い。やけっぱちともいう。

「それでもお売りになりますか?」

「お、おう、売るぜ! そのために来たんだからなぁ。おい、人のもんを傷もんにしやがって、どうしてくれんだぁ」

「そうですか。そういうことでしたら、傷のない状態として査定させていただきます、が」

 さっきの少年にしては重い足音が近づいてくる。しかも複数だ。

 店舗と塀の間、その表と裏から、二人ずつ衛兵が姿を現す。

 あ、もう一人いた。制服の飾りが多いから隊長かな。

 たぶん、店員が小者にお茶を頼んだ時の「一番」は「即時通報」とか、予め決められてたんだろう。

「お勤めご苦労様でございます。さっそくのお出ましありがとうございます」

「こちらこそ通報に感謝する。盗品が持ち込まれた疑いということであるが?」

「はい。こちらの品ですが、持ち込んだ当人たちが、それについての知識を一切持ち合わせておりません」

「当人というのは?」

「そちらの男三名です」

 もともと逃がさない位置取りだった衛兵たちが、さらに男たちに集中する。

「やろうっ!」

「兄ぃ」

「に、逃げろっ」

 一応は冒険者。それなりに動けはするけど、捕物に特化した衛兵にはかなわなかった。

 なにせ数で勝ってる上に、一人は《バインド》使ってたし。

「引っ立てぇい」

「「「「はっ」」」」

 おお、カッコイイ台詞。現実で聞けるとは思わなかった。

 男たちは捕まったし、アルミのつもりで魔力を物質化したものは、ちゃんとアルミって査定されたし、魔物の革のつもりでつくったタイヤもちゃんとそう見えるらしい。

 満足してた私は、隊長の一言に文字通り跳び上がった。

「で、そちらの君は?」

 目、合ってる。

「え?」

 店員もいまさら気付いて驚いてる。

「…マーサと申します。冒険者をやっております。信じていただけるかどうかわかりませんが、そちらの荷物の持ち主です」

「なるほど。当事者がいるというなら話が早い。事情を尋ねたいが」

「どうぞ、そちらをお使いください」

「うん、助かる。その上で、君にも同席を頼む」

「はい、喜んで」

 店員はささっとテーブルの上を片付け、新しくお茶を用意するよう言い付けている。

「マーサといったか。冒険者なのだな?」

「はい」

 肯定したにもかかわらず、何かを待つようにじっと見られる。

 あっ、ギルドカードか!

 慌ててポケットを探り、カードを提示。ちなみにこれも魔力製で、本物は森に隠してあるんだけど。

 隊長は、記載されているすべてを手帳に書き写し、特にシリアルナンバーを何度も確認する。

 まあ、平民は名字もないし、同名なんていくらでもいる世界だからね。

「うむ、確かに。それでは、これはお返しする。ことの経緯を話してもらえるかな?」

「はい」

 一言でいえば「強盗にあった」わけだけど、そんなことは彼もわかってる。

 話一つで私と、荷物と、あいつらを結び付けるとなると…

「私は冒険者として本日、森で薬草を採取していました。その折、ホーンラビットが襲い掛かってきたので、それを倒し血抜きをしていると、臭いに誘われたのかゴブリンが三匹やってきたので、それを倒し、撤収しました。街に向かっていたところ、街道で待ち伏せに遭い、一度は森に入って躱しましたが、追い付かれ荷を渡すように脅されました。男三人が相手では敵わないと思ったので逃げました。が、荷が惜しく、取り戻す機会があればと、跡をつけてきました」

「うん。話の筋は通っている。それにしても、その気配の消し方はなかなかだね」

「いえ、冒険者として活動するうちに自然と…あくまで我流の中途半端なものなので、わかる人にはすぐわかってしまいます。門番の方にも、ふつうに見抜かれましたし。ただ、女一人で活動するには、それなりに役に立っています」

「そうだろうね」

 満足そうに頷いているのは、自分の部下が少なくとも一人は優秀だとわかったからか。

 もしかしたら、無意識に《魔力感知》してるのかもね。

「疑われているようでよい気はしないだろうが、これも私の務めでね。君の荷物について説明をしてもらって、それをこちらの、それなりに商品知識があるだろう店員と、私とで聞き、矛盾がなければ君のものであると認めて渡そうと思うが、どうだろう」

「はい。格別のお計らいありがとうございます」

 普通ならとりあえず押収されて、あとで返される。返されなくてもそれまでという世の中だ。

「はい。私も、私どもの商会が少なからずかかわったことです。喜んで協力させていただきます」

「では、冒険者の君は、ここに座ったまま説明してくれたまえ。私とこちらの店員とで荷の確認をしようじゃないか」

「はい、お願いします。…では、リヤ…荷車の持ち手側の箱から」

 店員は中身をチェックした後、きちんともとに戻していた。

 こっちの意図を汲みとって、なおかつ無にしないなんて、さすがはガスター商会! 贔屓(ひいき)にしたくなるね。

「その箱は《土魔法》の使い手に、土を固めて作ってもらったものです」

「ほう…」

「なるほど、なるほど。それは、素晴らしい」

「君、しきりと感心しているが、どういうことかね?」

「ああ、すみません。南方のある地域では、日干しレンガで家を造ると聞いたことがありますので。思いのほか涼しいそうですよ」

「ふむ?」

「この蓋の裏にですね…」

「君が言ってはいかんではないか」

「あい、すみません」

 二人の視線が戻ってきたので、説明を再開する。

「蓋の裏に、アルミ製のバットを取り付けてもらい、そこに氷を入れています。先程そちらの店員さんがご説明くださった通り、土は温かいものは温かく、冷たいものは冷たく保つことに優れているそうなので、収納物を新鮮なまま運べると考えました。そちらにはオトギリソウが二十、カンゾウが十五入っているかと思います」

「…はい、確かに。種類も数もあっております」

「もう一つの箱の方ですが、ホーンラビットを一匹、毛皮を剥いだ状態で、棒葉で包み、小枝で留めてあります。先程の査定の時と同様、それを開いていただければお分かりになると思いますが、血抜きは済ませてあります。また、内臓は胃と腸だけを抜き、氷を入れた袋を詰めてあります。肉を傷めたくないので、魔石は抜いていません」

「おお、そこまで!…ああ、はい、確認させていただきます」

 隊長の視線に応える店員。

 食品を品定めすることも多いのか、傍らの桶でサッと手を洗うあたり、教育が行き届いてる。

「はい、たしかに」

「うむ。失礼だが、冒険者がここまで気を遣うものだとは思わなかったな」

「いえいえ、この方が特別でございますよ。まるで、一流の狩人ですな。これならば『ベルモンド』にだとて卸せるでしょう」

「なに、あの高級レストランにか」

「はい~」

 そこまで言われるとうれしいを通り越して、恥ずかしくなってしまう。

 素人芸ですから。コンスタントには捕れませんから。

「…えー、箱の中身は以上です。あ、こちらの箱にも氷入りのバットがセットしてあります」

「うむ」

「はい」

「それから、荷台の中に、やはり棒葉に包んで小枝で留めた、ホーンラビットの毛皮があるはずです。また同じように包んだ、ゴブリンの討伐部位である右耳が三匹分。魔石が三匹分。それから、こちらにホーンラビットの討伐部位である角を一匹分持っております」

「ああ、こちらは見逃しておりました」

 箱は蓋の方が大きいしね。ずらして置いた時、その陰になったんだろう。

「うむ。確かにあるな」

 私がテーブルに置いた包みも「失礼する」と、隊長自らチェックする。

「荷車はアルミ製です。なるべく丈夫で軽くしたいと相談したところ、その素材を勧められました。タイヤにかんしては、作り手任せにしたので種類まではわかりませんが、魔物の革だと言っていました。弾力があって、破れにくく、尖ったものが刺さっても使い続けられると自信満々でしたね」

「おいくらで求められたかは存じませんが、よい買い物をされたと思いますよ。私の見立てでは、これは『ビッグフロッグ』です。高級馬車のタイヤに使われるものですよ」

「そうでしたか。やっとあの支払い金額に納得できました。いえ、十分役に立ってくれているので、損をしたとは思っていませんでしたが」

「そうでしょう、そうでしょう」

 我がことのように熱心にうなずく店員。

 良いものが良いように評価されるのがうれしいなんて、ぜひ「いい仕事してますね」とか言ってほしい。

 のん気に和みかけて、ハッとする。

 それは絶対にこっちから申告すべきこと。あとでバレたらやばい。

「あのっ! それから、荷台の長い方の枠を外して、先端のカーブしたカバーを外すと武器になります」

「おおっ? おおっ! これは素晴らしい」

 やはりというかなんというか。衛兵隊長はクーラーボックスより、リヤカーより、隠し武器がお気に召したようだ。

「君、これは冒険者としての生命線であろうから、口外しないように」

「はい、承知いたしました」

 ギルドカードを見た隊長はもとより、氷を使ってる時点でスキルもバレてるはずだけど、これまでの言動からして、そちらも不必要に漏らしたりしないだろう。

 商会の信用にかかわるってやつだ。

「お気遣いありがとうございます。それから」

「まだあるのか?」

 期待に輝く目が…

「いえ、あとは大したことではないのですが。荷を下ろした状態であれば、荷車の裏側の金具に、この背負い紐をつけて背負えるようにしてあるというだけで…すみません」

「いやいや、何をすまながることがある。よし、やってみよう」

「はい、では箱を下ろします」

「あ、荷車の持ち手を上にすれば自立しますから」

 男二人掛かりだとひょいと裏返せちゃうんだね。

 ショルダーハーネスを取りに来た店員が、形状を見てすぐに確認する。

「こちらが上ですか?」

「はい」

 カチ、カチと手際よく嵌めて、自ら背負ってみている。

「ああ、なるほど、アルミですとこの軽さですか」

「なに、そんなに軽いのか」

 代わって背負う隊長。

「うん。十五キロほどか。これはよいな」

「よいですね」

 それぞれ仕事で役立てようと、頭を回転させているようだ。

「…以上です」

 我に返った二人は、少々照れ臭そうにハーネスを外し、リヤカーに荷物を積みなおす。

 その後、自然と視線は隊長に集まり、彼自身納得したようにうなずいた。

「これらは間違いなく、冒険者マーサ、君のものだと証明された。君、証人になってくれるかね」

「はい、喜んで」

「うむ。衛兵第五隊長、騎士ユリウス・ハーノックの名において、冒険者マーサは強盗の被害者であり、これらの荷がすべて冒険者マーサのものであることを認める」

「ガスター商会所属、スーパーガスター王都南店買い取り担当タイロンが、こちらのお荷物一式、冒険者マーサ様のものであることを追認いたします」

「ありがとうございます!」

 駄目なら駄目で、多少悔しい思いをするだけだと思ってたけど、こうして認めてもらえると、じんわりくるね。

 あの男たちに二度と会わなくて済むって安堵感もある。

 なにしろこの国では、平民に限ってのことではあるけど、盗みに対する刑罰が非常に重い。

 以前、ナイフを盗んで鉱山送りになった少年がいたよね。

 もともと八十年ほど前までは所払い、性質の悪いものは国外追放だったらしいけど、それだと隣国から文句を言われる上に、特に王都では人口の増加に伴って犯罪件数が増え続け、厳罰化が進んで死刑ってことになった。

 でも、そのうち、ただ殺すだけじゃもったいないから強制労働をさせることに。つまり死刑相当だから、一生娑婆には出てこれないってわけ。

 もっとも、それも捕まってこその刑罰だし、冤罪も少なくないらしいから、あまり深く考えると外に出られなくなりそうだけど。

 今回に限っては、いかにも常習犯ぽかったし、これでよかったと思う。

「時間を取らせた。あの男たちの取り調べもあることだ。私は、失礼する。冒険者マーサ、君を呼び出すことはないとは思うが、もしもの時は冒険者ギルドに通達するので応じられたし」

「はい、わかりました。この度は、お世話様でした」

「ご苦労様でございました」

 隊長さんはこっちが頭を下げてる間に、颯爽と去っていったよ。

「すみません、お騒がせした上に、お手数をお掛けいたしまして」

 あの男たちの後に並んだ人たちは、店の正面に回して買取していたようだ。

「とんでもございません。マーサさんは被害者です。こちらとしても、我が商会のせいで人様にご迷惑をかけることにならず、ほっとしております。いえ、ご迷惑はおかけしました。時間稼ぎのためとはいえ、あなたの持ち物に傷をつけてしまいした」

「いえいえ。これくらい、冒険者をしていれば日常茶飯事です。お気になさらないでください。それより、タイロンさんの目利きに感服いたしました」

「いえいえ、お恥ずかしい。私などまだまだですよ。ですが、あなたの仕事ぶりが丁寧で、工夫に満ちているのは本当です。どうですか? こちらの薬草と、肉と毛皮を買い取らせていただけませんか。冒険者ギルドに納めるより、少しは勉強させていただきますよ」

「それは。ぜひ、お願いします」

 値段も大事だけど、ささやかな努力を認めてもらえたことがうれしい。

 タイロンは、ひとつひとつ私に確認した上で、薬草と毛皮、体内の氷袋を抜いた肉を棒葉ごと奥に運ばせた。

「我が商店にも専用の保冷庫がございますので、ご安心を」

 一言そえるところも心憎い。

「こちらでいかがでしょう」

「はい、お願いします」

 何枚かのコインを受け取り、受取証にサインする。

 高めに買い取ってくれたとはいえ、もともとの量が少ない。噂の『ベルモンド』でランチを食べられるほどじゃないけど、どうやらリヤカーの傷の分を上乗せしてくれたみたい。

「ぜひ、マーサさんとは今後もお取引したいものです」

「そう言っていただけてうれしいです。一日働き一日休みののんびりとしたペースですが、それでよろしければ」

「はいはい、ぜひ。心よりお待ちしています。本日はありがとうございました」

「こちらこそ、お世話になりました」

 気持ちよく頭を下げあって、ごろごろリヤカーを引いて森へ帰る。

 あっ!と途中で気付いてUターン。冒険者ギルドで討伐証明部位と魔石を納めて、日銭を稼いだ。

 ちなみにホーンラビットの魔石は、ガスター商会か、そこから肉を買った店なり個人が、冒険者ギルドに売ることになる。

 まあ、全部が全部、正規のルートに乗るわけじゃないのは、なんにかんしても言えること。

 いろいろあったけど、終わりよければすべてよしってところかな。



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