35、冒険者マーサ
だいたいの目処は立ったものの、私の《アバター》にはもう一つ重大な欠陥があった。
なぜか、か~なり馴染みのある姿にしかできない。
たとえば、アマンダやロス爺を形づくったとする。
一応それっぽいものはできる。
でも、どこがどうとは言えないけど、明確な違和感があって、それがなんともいえず気持ち悪い。
前世、世界的に有名な女優の修正しすぎた写真を見せられた犬が、ものすごい勢いで吠え、逃げる動画を見たことがある。
たぶんそれと同じこと。とても使えんわねぇ。
もっと練習すれば、つくる分にはもう少しなんとかなるのかもしれないけど、いまのところ、見られるレベルに仕上げられるのは「私」だけ。
でも、私がこんなことにチャレンジしてるのは、とりあえず冒険者として活動してみるためで、四歳児の「私」じゃ、いくら精巧にできても意味がない。
仕方がない。ここは禁断の…
苦肉の策でつくったよ、前世の私!
うわぁ。のっぺりした顔、ある意味触り心地のいいおなか。丈夫だけど短い脚。
あちこち修正したいけど、実際、一度はしてみたけど。
なんということでしょう。
魂レベルで納得のいく《アバター》じゃないと、めちゃくちゃ酔う!
血の気は引くし、際限なくゲロゲロで、頭はぐらんぐらん。自律神経にダイレクトアタックだ。
フローラとして順調に成長したらこうなっただろうって姿ですら、それだもの。
大人しく、東の辺境イーストエンド出身の中年女マーサでいくよ。
車を買い替えた直後みたいに、多少の違和感はあったけど、もともと長く使ってた体だ。大人の尺をすぐ思い出した。
お次は、活動時間をどう確保するか。
はっきりいって、日常生活を送りながらマーサを操作するなんて器用さは私にはない。
図書館で本を読むふりをしながらとか、昼寝の時間とか、細切れとなると、そのたびに《結界》張ってセーブって感じになるのかな?
それも有りって言えば有りだけど、たとえば魔物を追いつめたところで中断なんて、徒労感が半端ない。
《結界》を張るにも、そこから出るにも、人目を気にしなくちゃならないし、採取物をいつ、どうやってギルドに納めるかって話にもなる。
《高速思考》で《並列思考》とか、どうだろう?
…ほうほう。
はじめはちょっと不思議な感覚だったけど、ようは慣れだ。
いつも通りの生活を送るフローラも、冒険者ギルドに向かうマーサも、どっちも私。
魔力的には何の問題もないし、特別、脳が疲れるって感じでもない。
いままでどれだけ脳ミソ使ってなかったかわかるね。




